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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
50/156

50 穏やかな帰路とハイタッチ

 悠々とメドウが自由室にやって来て少々言葉を交わしたのち、夕食に遅れてしまうとみんな手荷物を持って学校を後にする。

 細々としている月明かりを頼りに、男女それぞれの寮までの帰路に就く。みんなとは千尋、墨花、苑士郎、理人、塔矢、真希、メドウの七人のこと。畦道よりは多少横幅がある、両サイドを青草に挟まれた自然豊かな細路を三つの組み合わせになって歩く。


 先頭には墨花、苑士郎、メドウが茶化し合い。

 中団には理人と真希が透明化について話している。

 最後尾には千尋と、管理担当のため学校内の点検に回って遅れをとった塔矢が並ぶ。

 さっきまで異能を用いた争いを繰り広げていたとは思えない、彼ら彼女らの年齢からして少しカフェにでも寄り道をしたような中学生男女の他愛のない青春の一幕そのものだ……ここが人工島なんて特殊な管制下じゃなければ、迷わず皆がそう定義したのではないだろうか。


「千尋」

「ん? なに塔矢」

「お前とメドウはいつ能力を知っている者同士で繋がってたんだ? 理人もだし俺も知らなかったんだけど?」

「ああ……どうだっけ? なんか僕の挙動を疑ってきて、あれよあれよと能力のことまで勘付かれた、みたいな?」

「はっ、意外とドジな理由だな」


 千尋が理人と共に別の発現能力者を探していた頃には、メドウも能力の存在を知り得ている。だけど千尋と違って特に何もしなかったというか、いつものマイペースを貫いており、体調も理由の一つではあるけど積極的に発現能力には関与しなかった。ただ千尋と真希が発現能力を巡って仲違いをしたとなると話が変わり、人知れずアシストをしようと暗躍していたわけだ。

 メドウの取った行動は最悪関係が悪化しかねない手段ではあるし、事実一時的に二人の溝が深まってしまったが、このままお互いを牽制し合うだけになるよりは直接対話した方が良いと企図する。やはりずっと人工島で暮らして来た仲間なのに、今更千尋と真希が無視を決め込み続けることをメドウは許さない。つまり二人の中を取り持ちたいと不器用ながらに考えていた。


「ねぇ、真希と理人と塔矢に、能力のことについて訊きたいんだけど問題ない?」

「おお。墨花からの質問なんて貴重じゃん。いいぜ、オレが答えてやる」

「塔矢君だけじゃ心許ないから、ボクも加わろうかな?」

「いやなんでだよっ、俺だけで十分だろ!」


 そう言いながら塔矢は前方にいる墨花のところへと早足で向かって行き、続いて理人も後を追う。すると苑士郎とメドウが軽口を叩き合いながら若干下がり、その自然な流れに押される形になり、後方にはさきほどまで対立していた千尋と真希が皮肉にも取り残される。


「その、身体……」

「……えっ? どうしたの?」


 口火を切ったのは真希からだ。

 どうしても千尋は受動的になってしまう。

 そのことを真希は知っている。

 どんなにケンカをしても、十五年の年月は伊達じゃない。


「あたしの攻撃を受けたじゃん。ちょっと加減を間違えたかもしれないし、大丈夫なのかなって」

「ああ……うん、今はなんともないよ」

「ふーん……」


 真希は睥睨しながら生返事をする。

 それはどこか意味深で、千尋にも違和感が伝わってくる。


「何か言いたそうだね、僕に隠した方がいいのなら、追求するつもりはさらさらないけど」

「……まあいっか、もう終わったことだし」

「そうだね。僕たちが不要に争い合うのは……ね?」

「うん。じゃあ言っちゃうんだけど、本当は千尋に当てたあたしの初撃、焦ってコントロールがめちゃくちゃだったんだよね——」


 コントロール……つまり発現能力の制御。

 めちゃくちゃというのは要するにミスだ。

 攻撃をくらわせた千尋に告げるのには勇気がいるだろう。

 何故なら、下手をすれば望んでもいない致死レベルの一撃にもなりかねなかったと、白状するようなものだから。結果論で大事に至らなかっただけだからだ。


 しかし発現能力の制御にだって種類が千差万別。

 どこがどう失敗していたのかまでは真希本人にも不明。

 けれどしくじったのは感覚的に判別付く。

 ただ被弾者の千尋がなんともないならそれで良い。

 でも、何事もなく下校する姿には疑問を抱く。

 どうして、平然としていられるんだろうと。


「——だからさ。なんか千尋、防御力高すぎじゃない? 結構強めの光線を浴びせたかもしれないのに」

「いやでも確かに痛くはあったよ? それこそ膝から崩れ落ちるくらいには……」


 すると千尋が言い終える前に真希がかぶりを振る。

 論点はそこじゃないと反論したげに。


「それで済んでるのが不思議なのよ。あたしの感覚では千尋の身体を貫通していてもおかしくなかったのにさ。しかも塔矢みたいに防衛特化の能力があるわけじゃないし、そもそも覚醒してないみたいだし、あたしの思い過ごしなんかじゃなければ能力に目醒める予兆とかかなって」

「うーん予兆……か。確かに僕もみんなと同じ境遇だし否定は出来ない。あともしかするとこれが、僕らの標準作用っていうのも考えられるよね?」


人工島民は副次的要因による身体の拒絶反応で体調を崩すことはあっても、ウイルス性細菌性の病気を患うことはほぼ皆無だ。それ自体は隔離環境のせいもあるが、身体そのものがかなり丈夫なせいでもある。

これは千尋による後付け理論だが、もし発現能力を宿すにしても、その基盤となる身体が能力の負荷に耐えられないとなれば本末転倒。だからこそ相応な心身状態を得られるのではないかという仮説が、彼の頭の片隅に残り続けている。


「あっ、そっちもあり得るかも。あたしたちって島の向こうの人との対差がちゃんと分かってないし、こんな能力だって生み出されてるんだから、千尋が丈夫な人体をしていても変じゃない」

「うん。でも真希の勘違いであって欲しいけど……流石に能力があると知っていても、きっとすごく戸惑うから」

「……千尋がそのときになったら、良ければあたしが相談くらい乗るよ? 伊波奈やトリノからよくされるから、これでも慣れてるんだ」


 真希はどちらでも問題ないよと、左手を差し伸ばす。

 対して千尋は何も答えなかった。

 でも答えない代わりに、その彼女の左手を彼自身の右手で軽く弾く。それは約束を締結されるなんて大層なものじゃなくて、否定の意味合いでもなくて、ただ人工島民みんな共通での友好を示す証である、ありふれたハイタッチだ。

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