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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
47/156

47 気心知れた友達同士だからこそ、時としてヒートアップしたケンカに発展し、やがて疲れ果てて仲直りする

 彼女のことを思慮に入れるのは正直、現実的ではないと千尋も自覚している。なんせもう、居なくなってから五年もの月日が経過。その五年の間に……最悪消失した当日には既に亡くなっている場合だって考えられる。

 それは千尋による表裏のない胸の内ではあるけど、真希を含め自由室に居る全員が、人工島のみんなが即決で頷いてくれる内容ではないだろう。死んでいるかもしれないソフィアを救出ために政府管制課を、繋がりを辿れば終局として、世界中を敵に回すには成果の釣り合いが取れていない。

 仮に成功しても亡骸を拾うだけどころか、なんの手掛かりすら掴めないかもしれないからだ。更に余計な犠牲者まで生まれるリスクまである。感情論を後回しにして天秤に掛けたとしたら、こんなデメリットだらけの提案に誰も乗るはずがない。


 けれど彼女の安否を、人工島から失踪した真相を知っているとしたら政府管制課ぐらいだ。居なくなってすぐに隠蔽工作を施した事実から、何も情報を握っていない確率は限りなく低いだろう。なんにせよこのまま何も千尋たちが行動を起こさなければ、一生闇の中に葬り去られるかもしれない。もしも生き残っていたときに何も知らないまま、その生存を無視してしまうかもしれない……そんなの、当人のソフィアが許しても、千尋の気持ちが絶対に許さない。


「……千尋」

「なに?」

「もう五年も経ってるんだよ? もしかして何か生きている確信があってそれを言っているの?」


 真希からの疑問。今後の処遇への判断材料を測る彼女としては不可欠で至極真っ当な問い掛けだ。きっと確信か、それに準ずる算段があれば一考する価値があると踏んだらしい。


 肯定なら真希にとって乗算される理由にもなる。

 だけどそんな好機が、今更手に入るはずもない。


「……ううん、保証そのものは何も無い」

「そう——」

「——でもあの日の夜、僕と小春はソフィアと共に寮を抜け出して学校に居たんだ。そこで誕生日を祝ったあとに校門を通り抜けた帰りの夜道までの記憶はある。なのにそこから翌日の夕方にかけてまでの出来事がなにも思い出せない。これは小春も同様で、その空白の時間に……居なくなったんじゃないかと考えてる。そして管制課の情報を掴む迅速さを逆算するに、何か知っていると僕は当時からずっと睨んでる」


 年月の経過のせいで多少の脚色はあるかもしれないが、概ね千尋が言った時系列通りだ。ソフィアが見当たらなくなるとすれば、件の時刻が濃厚だろうと推測出来る。そして後日、政府管制課による人工島民みんなに講じた無駄のない的確な対応が、この場合に於いては懐疑的に映ってしまう。


 国々が将来を畏怖した少年少女のうちの一人が隔離した人工島から居なくなった……だとすれば大人たちはもっと混乱しても良いものだと。もっと全身全霊で捜索や原因追及にあたる方が自然だったと。当時の政府管制課の人は、あまりにも対処が冷静過ぎた。まるで何もかもが想定内に進んだとばかりに完璧な処理だった。


「つまり千尋はその……なんだ。五年前の感覚を頼りに能力を使いたいと?」

「苑士郎……えっと、どうだろう」

「真希と同じ方向性ってそういうことにならないか?」


 発現能力同士の抗争が一旦停止になったからか、この場では比較的静観に徹していた苑士郎が千尋に訊ねる。隣に居る墨花も同意見だと鋭利なまなじりを差し向ける。ただこちらはまだ自制中のようで、唇を結び付けたままだ。


「んー……僕の説明が良くなかったかも?」

「そうなのか? ならゆっくりでいい、アホな俺にでも分かるように教えてくれ」


誰かにアホと言われるのは気に食わないけど、苑士郎自身が卑下して使うのは良いのかなと、少し空気感が緩む。

 こういう神経質なときの天然な彼の機転には、いつも良い意味で絆されてばかりだと千尋はこっそり苦笑う。


「苑士郎がアホかどうかは知らないけど……うん。簡潔に言うと、真希が政府管制課に挑むつもりなら、ついでに失踪に関する情報を聴き出したいと思った」

「ほぉ、ついで……ねぇ」


 千尋の立案そのものはデメリットだらけだ。

 そのくせ支払った代償を無意味に棄てるのと同義の行為。

 生死不明な一人だけにかまけて、他の仲間を失うリスクなんて容認出来るはずがない。

 だからこそこの五年間、ソフィアを見殺しにしているかもしれない罪悪感に苛まれながら生きてきた。


 けれど真希を含め、この人工島から外に出たい子は沢山いる。物心付く頃には閉じ込められていたんだから当然の内幕と言える。いずれ政府管制課の許可が下りるかもしれないが、実情は予定すら無くて、寧ろまだ子どもと保護された年齢を超過すればいつかの殺処分だってあり得るし、仕舞いには理論上のみで語られていた発現能力の存在。


 こんなものが権限者へと白日の元に晒されたのなら、平穏な日常に戻ることはないだろう。

 人工島を脱出する(いとま)すら無くなるだろう。

 最低でも、それよりも前に実行する必要性がある。

 仮にここまで追い詰められたとしたら、流石にみんな黙っていない。是が非でも対抗し本土を目指す。


 そんな多数派の民意に半ば便乗というか、同じく機密を掌握しているであろう政府管制課にソフィアのことも詰問するなら、好都合の団体に様変わる。つまり千尋が単独でソフィアの行方を追うデメリットが帳消しなるどころか、心強い仲間まで総意で加わることになる。利害の一致だ。


「要するにあたしの目的の副次的に、真意を探りたいってこと?」

「そうなるのかな? というか僕もこの人工島の外に行きたいって想いを止めるつもりはない。ただ今は能力で混乱が生じる危険性があるから、様子を見ようって考えてる」

「……それで時間が欲しいと?」

「うん。これから色々と危ないことはあるかもしれないけど、みんなで一つずつ、一歩ずつ、焦らず、急かさず、対処対策を立てて、それぞれの目的を叶えたいんだ」

「ふーん……——」


 発現能力者がここで打ち切られるのか、はたまた新たに顕現するのかは不明。だけどこの短期間で三人の発現能力が生まれた事実を考慮すれば、後者に焦点を当てるべきだ。


 真希は口元を右手で覆い、ちょっとだけ思案する。

 いや、本当ならもう悩むことなんて何もなかった。

 これは反論の言葉を探しているんじゃ無くて、否定する訳でも無い。ただ早合点で千尋を軽くとはいえ襲撃したことを、どのように謝罪しようかと言い淀んだだけだ。


「——……うん、そうしよっか?」

「真希……それは——」

「——千尋の言い分を聴いて、もう少し待ってもいいかなって思えた。そもそもあたし一人じゃ心許ないし、能力だって理人や塔矢を見てもまだまだなのが一目瞭然だし……なにより……疲れちゃった、もうヘトヘトだよ。こんなんじゃ政府管制課に乗り込んでも返り討ちだと思うし、様子を見ようかな?」


 疲労を表すように軽く息を吐きながら、真希はやれやれと口角を上げる。

 理人と塔矢も釣られて、緩やかな雰囲気に溶け込む。

 それは昔馴染みの友達であり発現能力者たちによる、他愛のないケンカのようなすれ違いに終止符が打たれた瞬間。

 いつもよりも少々大袈裟になってしまったけど、自然と仲直り出来る範囲内で収束する。こんな諍いは人工島で何度目か、千尋はとうに数え切れていない。

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