43 無数の残骸と戯けたフェイカー
塔矢と真希が相対して屹立する間には無数の瓦礫が転がっている。いや正しくは無数というよりは、いちいち数えるのも億劫なくらいの分量をそう比喩的に称しただけだ。内窓が壊されたせいもあってか、衝突の影響により吹き抜けそうな大気が行き場を迷わせ、遅れながら廊下を掬うようにして立ち込めて砂塵を渦巻かせる。塔矢の第三塔が崩落したことによる付随は、打ち負かされたガンスリンガーのように無情で無慈悲な沈黙を生む。
「……ここまで、あたしが手こずるとは思ってなかった」
「……っ」
直接対決の勝利をプレゼントした白色の光線を、お役御免と空中にて意図的に分解させながら、真希は対抗相手の塔矢を暗に讃える。真希の当初の予定なら今回実行する手筈は透明化する理人を発見するか、発現能力を数打って当てるかして……あわよくば仲間に引き込むつもりで、ついでに墨花と苑士郎にも発現能力についての優位性を顕示しようとして、千尋と同じように他者への理解を深めようとも考えていた。
それが何の因果か。塔矢という新たな発現能力者の存在を知らされ、剰え対峙した挙句に奥の手まで使わざるを得なかったため、能力差で勝ちこそしたが割を食わされた気分になる。もっと楽に済むのならその方が断然良かったと。
「しかもまだまだ全然発展途上っぽいじゃん。下手すると、あたしよりも幅広いレパートリーを有しそう」
「……ぶっ壊してくれたヤツに、言われたくはねぇな」
ようやく塔矢が反論する。
ただこの語勢は彼の気持ちの半分も表せていない。
もっと素直に滅茶苦茶な効力のレーザーを誉めたり、被弾しないように角度を変える配慮をしてくれたことに感謝を述べたかったが、結局悔しさが拭えなくて負け惜しみみたいなセリフになる。本意はもうちょっと平穏なはずだったけど、口先だけがどうしてもきつく当たってしまう。
「なによ。全くもって悪いこと言ってないじゃん」
「だから嫌なんだよ。もっと何か……こう立ち回れないうちは勝てない、みたいに上から目線じゃないお前が気持ち悪い」
「はぁ、なにそれ? もしかしてゴミとか雑魚とか罵った方が良いってこと? それなら気持ち悪いって言葉、そのまま塔矢に返すから」
「あーいや……良くはねぇんだけどなー、遠回しに諂われるよりはマシって感じ」
「めんどくさ……」
腰に手を当て、どうでもいい話だったと呆れたように溜息を吐いた後、真希はゆっくりと塔矢の方へと歩み寄ろうとする。途中にはガラクタと化した三本の塔の残骸があって、徐に蹲って手に取り、材質がどのような品物なのか指先の触覚と視力を頼りに吟味する。ついでに小山を無駄に上り下りしてもいた。同じ能力発現者としての好奇心もあったからこその行動原理だ。
「どうした? もう俺に用事はないだろ?」
「いやある。この際だから言うけ——」
真希のセリフが途切れる。
いや、途切れさせられたとするべきだろう。
彼女自身に起きた異変が言葉を失うほどの混乱を招く。
それは足元の方へと落としていた視線を再び塔矢に戻したとき、塔矢と理人が同時に消えていて、代わりに破壊された三つの塔と同様の形状のモノが聳えている。
「——なっ、ちょっとこれ、どういうことなのよっ!」
「真希……俺は確かに負けたよ、完敗だ。やっぱ一人だけじゃどうにもならねぇわ」
戯けた口調が真希の正面側から聴こえる。
もちろん正確な場所がどこなのかは分からない。
理由は単純明快。塔矢は理人の助力で透明化している。
そして真希はその一言で全てを察することになる。
弛緩した顔色が苛立つようにきつく締まる。
「……どこに消えたの、卑怯者」
「はっ、卑怯者ねぇ……まあ確かにそうかもな」
「とぼけないでっ! さっきの勝負はあたしの優勢で、もっと言うと塔矢にとどめを刺さないように最後は敢えて外していた。なのにまだ抵抗するのは塔矢の神経を疑うんだけど?」
「なるほど、そりゃあもっともだ——」
悠々と理人の付き添いでほつき歩きながら首肯する。
無論そんな姿も真希は捉えることが出来ない。
「——でも俺は言ったはずだぞ? 全ての塔を倒したら真希の勝ちにしてやるとな」
「……だから卑怯だって言ってんのよ。理人の能力で最低でも一つ隠した挙句、最後の最後で直接対決を避けたんだから!」
これは言うなれば塔矢による揚げ足取り。
真希に対して全ての塔を倒壊させたらと告げて、三つの塔だけを視認させ、実際は即座に理人【無色透明化】を付与した四つ目の塔がある事実を明言しなかった。そして理人が関与した時点で塔矢と真希だけの対決ですらなくなる。つまりこの勝負は鼻から公平性に欠けていたということだ。
一応真希が気が付ける要素として、常に棒立ちして迎え撃っていた塔矢……これは背後ろに理人が居続けていたせいで、なのに何故か透明化を解いていたこと、連塔の間隔がどれも塔矢から遠くに建設されたこと、第一塔という領域ギリギリに創造したがための失敗作が生まれていることくらいだろうか。
いずれにせよ塔矢が真希の発現能力を煽って引き出させた上に、彼自身は余力を残したまま彼女の良心につけ込んで最後の砦の偽装まで施行。
二人の対峙を遡って順序立てると、単独で乗り込んできた真希には他に味方の発現能力者がいない蓋然性が高いと白状しているようなもので、塔矢が数的有利に持ち込もうとするには十分な盤面だった。あと理人の透明化が他の物体に付与する能力でもあることを正しく認知していなかったから、情報戦の段階で真希は大きく不利だったといえる。
ましてや理人と塔矢、どちらも攻勢には向かない発現能力。二人が共闘で対処しようというプロセスは、千尋の部屋で定期的に集まっているときに打ち合わせし終えていて、ようやく実行へと移せた形となる。




