40 フリールームクライシス
見て呉れだけなら黄色の光源を防ぎ切ったモノと同等の第一塔は、ほとんど何の成果も無く微塵のようになって散乱。真希の発現能力による火力のベクトルが先程と桁違いなことが誰の目からも浮き彫りになる。そして構わず白色のレーザーは、塔矢が防壁として繰り出した連なる塔のうちの第二塔に間もなく、減速するどころか寧ろ加速度を更に上げて衝突する。
「うぅわ……こんな簡単に破られんのかよ」
「……この程度か」
呆れたように、失意に堕ちるように真希は嘆く。
神妙に切長の双眸を軽く伏せたまま。
これは対立する二人による、謂わば力比べ。
塔矢は真後ろに控える理人や直接危害を加えられている千尋を、能力を過信して独りよがりになりかける真希を食い止めるため。しかし真希はというと、塔矢の発現能力の優劣性次第では理人と同じく共闘の提案や、類稀に優秀であるならば与することすら想定に入れていた……ただ現状はその必要が無さそうだと考え、つい言葉になって零れてしまった。
「おい、今この程度っつったか?」
「……知らない」
素っ気なく真希は返答。呆れたばかりの無駄話に付き合っていると、コントロールに費やした集中力が途切れてしまいそうだったからだ。
もし塔矢は真希の想像よりも遥かに脆弱な場合、このままだと危うく塔矢の身体を貫通させかねないと自制を効かせようと試みる。
「ほぉ、全く聞き捨てならねぇが……まあいいや。だけど一つ忠告しておく——」
発現能力を行使する最中でも塔矢は綽々と話す。
それは彼の性分とも言えなくはないし、事実そうだろう。
だけど身心状態もすこぶる健康体で、まさか通常の人間には顕現しない異彩な能力を使っているとは思えない。
視認可能な限り三つある心情的な砦の一つを破壊されたのにも関わらず、なお平然と戦況を受け入れている。ついでに、とても無茶をしているようにも見受けられない。
ほぼ限界レベルの三原色を織り交ぜた光線を放ち、顔色から疲労を隠せておらずいつになく強張る真希とは大違いだ。塔矢は見るからに、真希よりも肩の力が程々に抜けている。つまりリラックス状態にあると言える。
戦闘に於いては基本中の基本だ。
ここだけ抜粋すれば、優劣が逆転して塔矢に軍配が上がるだろう。
しかし当の彼は判っていればの話にもなるが、あまり重視はしていない様子が窺える。なんにせよ真希よりは幾らかゆとりがある裏返し。思考がゆったりと冴えて宣言する。
「——次は、欲張って創っちまった失敗作と、一緒にすんじゃねぇぞ?」
「ふーん——」
そんな塔矢風に言うと忠告から、すぐに真希による白色のレーザー光線と塔矢の第二塔が、第一塔よりも騒々しくぶつかり合い、自由室内は追加で破片が散らばることなく、まるでプレス機を用いて物体に高圧を掛けたときに鳴る重低音みたいに、なんとも心臓に悪い音色がひたすら残響している。いや、未だに衝突源から響き続けているとするべきだ。
左右双方の攻撃は、呼吸を時間も無く決着が付いた先鋒戦がなんだったんだと物申したくなるくらい互角な争いが展開している。そのまましばらく塔矢と真希は均衡を保つ。
「——んっ!? まさかさっき言ったことは……」
「本当に決まってんだろうが。元々俺にそんな複数形態が得意じゃねぇんだ。仕方ねぇよ、こんなの」
「……そう」
「なん、だよっ。能力をぶつけ合っている最中にいきなりしおらしく改まりやがって」
「もう少し知るのが遅かったら、無理やりあたしの能力を止めていたかもしれないなって思ってた……でも塔矢にそんな手抜きは必要ないみたいだったからさっっっ!」
塔矢の第二塔を貫通しろと指示を送るように、真希は片腕を前方に突き出す。しかしこの行動で攻撃力ないし衝撃吸収力などのパラメータが急激に跳ね上がるわけでもない。せいぜい何が変化があるとすれば、彼女の精神状態くらいだろう。しかし時として深層心理は人体に制約を齎す中核の部位。例えば火事場の馬鹿力のように、ランナーズハイのように、心境の変貌で事象が好転することも無きにしも非ず。
ましてや普通の人間にはない、【HMGG細胞】と当時の新規物資粒子【TOUNO】の誤混入による投与を受けた人工島民は未知の領域。どの工程が発現能力本領を発揮させるのか、本人ですら定かであるはずがない。つまり彼ら彼女らの心持ちの快調さが強度のギアを捻るトリガーになる蓋然性だって否定出来ない……誰にも出来るはずがない。
「ぐっ……なんでこれ、一向に弱まる気配がないんだっ」
「さあね。これって物理法則なんて完全に無視したような能力だし、あたしだって分からない」
「……はは、そうだったな。俺も実は、能力の原理についてはよく分かってないから、その点は、お互い様だなっ!」
「随分と言葉を詰まらせてるみたいだけど、もう限界?」
「……こりゃ、やべーな」
そう呟いた塔矢の悪い予感はすぐに反映される。
第二塔に地割れのような亀裂が生じ、均衡が破れる寸前となってしまう。情けは無用と真希は白色の光線を裂け目のウィークポイントへと微かに軌道変更を施し、がむしゃらにひたすらにつつき続ける。
第二塔のヒビ割れは悪化し、白色の光線は勢いを増す。
もうこのぶつかり合いで形成が傾くことはないと、自由室に居る誰もが悟らざるを得ない。
そのまま第一塔みたいにド派手ではなかったけれど、人間に例えるなら膝から崩れ落ちるように、塔矢の第二塔は粛々とゆっくりと崩落していく。




