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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
4/156

4 ハルトマカロウ

 人類史にはターニングポイントとされる瞬間がある。

 そのうちの一つが二〇〇九年、アストロノミーイヤーを記念した、太陽系小惑星への探査機の打ち上げに成功したことだ。


 当然ただ打ち上げ成功しただけで人類史が目覚ましく変化するわけじゃない。正直なことを先に述べると、この探査機の打ち上げはもちどおり記念を祝う、謂わば祝砲のような意味合いであり、小惑星を目標として自由に宇宙空間を巡ってもらい、なおかつ次世代に天文学の素晴らしさを間近で伝えるためのものだった。だから探査機という体裁こそあったが、あまり技術的換算を割いておらず、あわよくば世紀の発見が出来たら良いなくらいの赴きだったらしい。要するに確率論としてはゼロにも等しい無謀な挑戦でしかなかった。


 しかし何事もイレギュラーというものがあって、記念探査機が訪れた太陽系に属する小惑星付近に、これまでの歴史で一度も観測されたことすらないとされる未知の小惑星の衛星を発見。もうこの時点でも偉大な成果を幾つも上げているわけだけど、探査機という機能を活かし、その衛星に着陸したのち物質を採取した上、無事に地球まで帰還を果たす。


 この天文学的大成功をこぞって世界中のメディアが取り上げ、連日ニュース番組や誌面を賑わせた。そして世間からは採取された衛星物質にも過度な期待が寄せられる。その物質に関しての過熱ぶりは相当なもので、インターネット上ではブラックホールの材料になるだなんて陰謀や空論を吹聴する輩までいたくらいだ。

 対して研究者は当初、地球外の物体を持ち帰ったことだけでも大きな成果であり、例え地球上の土と大差ないものでも有益だと断りを入れていた。科学通念としての事実とあまりの期待に応えられない場合の保険を立てる目的があったんだろう。


 けれどその物質の成分解析を行なったところ、地球の自然科学では説明が付かない活性化エネルギーが混在することが(つまび)らかになる。それを証明するかの如く、一時停滞していたとも言える宇宙産業が目紛しく稼働して、当該衛星や太陽系内はもとより、夢物語とされた太陽系外の惑星や衛星の探索企図が本格的に日夜行われるようになった。(くだん)の現象は【宇宙産業原子革命】と持て囃され、のちに教科書にも決まって掲載されるくらいのムーブメントを巻き起こした。


 そして全てのキッカケを作った衛星物質は、観測者の身分から引用された【ハルトマカロウ】と名付けられた。その物質は人間を含めた生物や鉱物などの発展にも役立つとの仮説が有識者の界隈でなされるようになる。


 そこからは実用化に向けての研究へとシフトし、長期に渡る配合や実験の末に生み出された【HMGG細胞】は、赤子時に投与すれば人体の健康長寿化に加え、ありとあらゆる終末期医療レベルの病気すらも寛解させる効果が期待出来るとして、科学の祭典でも満票での表彰を受け、地上最高傑作の免疫細胞の座を欲しいままにした。二〇一八年から希望者を募り試験的な運用を開始。二〇二三年までの五年間のデータから、終末期患者への寛解実績と投与したことによる弊害が想定を遥かに下回り、出生率の大幅な増加にも一役買ったとして規模を拡大。二〇二五年から誕生したばかりの赤ん坊への投与も任意で始まり、二〇二七年からは義務化の動きも見られていた。


 でも皮肉にも、その二〇二七年の九月二十七日。

 製造元の不手際で【HMGG細胞】との相性が最悪とされる地球外の当時はこれといった名称はなかったがのちに【TOUNO】と命名される新規物質粒子が混入したものを流通させてしまう。すぐに社員が勘付いて投与の停止命令が下りたが、日本だけでも二十人余りの赤子への投与が済んでいた。


 因みにどのように相性が悪かったかというと、双方を同時に体内に入れたことで死亡するリスクが上がったり、免疫不全で病に毒され易くなるということではなくただ一点、地球外物質同士の組み合わせによる強力な化学反応が起きる蓋然性が前々から指摘されていたことだ。それは通常の人体では不可能な領域まで軽く到達しうると仮定され、実際に誤った投与を受けた赤子全員から異常値の良性反応が検出される。いくら良性とはいえ数値が知識人の限度を凌駕していたら、それは恐怖材料以外の何者でもない。


 しかもその異常数値と赤子から成人するまでの成長過程の伸び率を比較することで弾き出した研究者の新たな仮説は、このままだと十歳前後に至るあたりで、超人的な身体能力を有するどころか、口や手から魔法のように火炎や氷塊を発現させたとしても不思議じゃない……畢竟するに人工の怪物が誕生するかもしれない理論が成り立ってしまい、慌ててエマージェンシーを世界中に伝播。


 該当の赤子をどうしようかと各国の首脳が処遇を思案する羽目になる。最悪殺処分すら検討されていたが、幸い少数で留まったことを加味した結論として、製造会社の拠点があり被害者が多くいる日本付近の海洋を利用し、赤子からの危険を未然に防ぎ隔離するための完全障壁に阻まれた人工島を構築することが決定される。


 こうして誕生したのが千尋や小春たちが暮らす人工島。

 つまりはこの孤島に暮らす少年少女は、二〇二七年九月二十七日に生まれ、剰え赤子のときに誤った細胞を投与されてしまった被害者の集まりだ。


 二〇四二年。それからもう十五年になる。

 現在は男児十三人、女児十三人の計二十六人で寮生活をしながら、不定期に教師が来訪する学校に通い、日々の生活を共にする。彼ら彼女らは未だ世界から隔絶された不明瞭な人類扱いのままに生かされている。

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