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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
37/156

37 透明塔

 理人は最悪で最弱の一手を打っていた。

 そもそも手持ちに小型スピーカーを用意したのが最初の失敗だ。

 学校にはないけど、例えば拳銃などがあれば透明化効力の範囲内ギリギリから遠距離で攻撃出来て、木刀など近接武器があれば容易に背後から攻め入れる。人体を透明にする戦い方は、外的要素に頼る必要がどうしても生じる。

 なのにも関わらず、真希に発見されることを厭わず声を掛け【無色透明化】の利点そのものを消し、すぐに発現能力までも解いてしまう。これでは真希の言うように降伏と受け取られても仕方ない。


 ただ、このアクションが有効に働く条件が一つある。

 至極シンプルな理屈で、信頼がないといけない作戦。


「うん、想定内……だよね?」


 それは理人、彼一人。つまり単独でない場合だ。

 そして真希は一つ思い込みをしている。

 千尋が理人が共謀して伊波奈を海辺に呼んだときと同じ方法で発現能力者を炙り出そうとし、透明化の能力を掛け反射的に【皓々三原色】を発動させた真希という存在を見つけ誘ったが、下らないと一蹴し早々に拒否の結論を出して去ってしまったために伝え損ねていた。正直全くの偶然でしかないが、今回ばかりは功を奏する。


 補足情報として、発現能力者は別の発現能力者からの効力を大なり小なり被ると拒絶反応が起こる。別段耐え難いわけじゃないけど、体内の胃液や胃酸が逆流し迫り上がるような気持ち悪さが背筋を凍り付かせる。

 この現象は理人の【無色透明化】で調査するのには効果(こうか)覿面(てきめん)で、今のところ真希もその作戦中の発見者だ。ちなみにどうしてそんなことを能力を持たない千尋と能力を持つ理人の関係で知り得ていたかと言うと、もちろんもう一人、発現能力者が居たからに他ならない。


「よし、これで……なっ!?」


 発現能力者が人工島内で理人と真希だけだと、そう思い込んでいる相手には理人の【無色透明化】との相乗効果で絶大な混乱を招くこと請け合いだ。

 真希の赤色と翠色を混ぜた一撃は……理人に当たらない。

 擦りすらしていない、無傷だ。

 それどころかこの自由室のどこにそんなモノがあったのか目を疑うほどの、縦幅2メートルサイズの塊状の塔が聳えて遮蔽となり理人たちの身代わりとなっていた。


「おお……あっぶねぇギリギリ」

「えっと……それ、ボクのセリフだからね? 危うく二人して真希さんの光線の餌食になってたんだよ?」

「はぁ〜仕方ないだろっ。透明化した状態って、もうめちゃくちゃ身体が怠いんだぞっ! それに俺の能力は理人の透明化とは違って構築する時間が必要なんだよ」

「うん、知ってる。知っているけどなんとなく文句を言ってみたかっただけ……助かったよ、でももう少しだけ手を貸してくれるかい……塔矢君」

「たりめー」


 ダメージを受け止めて崩壊した塔の先に居たのは、透明化から姿を晒した理人と想定外の塔矢。体制としては理人が後方に控えて塔矢が前屈みになり臨戦状態。ちょうど透明化の能力を付与しやすい格好で、事実背中に手が触れている。


「え……これって……ど、どういうこと千尋っ!」


 突然の塔矢の登場に困惑した真希は千尋を睨み付ける。

 まるで尋問するかのような険しい形相と怒号だ。


「……見たまんまだよ」

「それって——」

「——塔矢も能力者だ。真希や理人と同じようにね」


 ふと千尋が塔矢へ一瞥すると、塔矢は口角を緩ませピースサインの敬礼をして応える。良くも悪くも緊張感がまるでなくて、どこかの楽しげにしている。千尋もささやかに微笑んで応え返す。


「なんで……理人だけじゃなかったの、いつから……」

「能力に目醒めた正確な順番は分からないけど、僕は理人の次に塔矢を見つけ、その後に真希っていう時系列。だから僕視点では真希よりも先になるね」

「どうしてあたしを誘ったときに言わなかったの!」

「言う前に真希が拒否したからだよ。散々無視して来たり、話し掛けるなっていう雰囲気まで醸し出していたし……僕は理人と紹介のあとで、塔矢のこともちゃんと伝えるつもりだった。最後まで聴いてくれなかったのに後付けで抗議されても困る」

「はぁ……マジ……」


 前頭部を抱えながら真希は理人と塔矢を眺める。

 盛大な誤算に思考が追い付いていないせいだ。

 理由を枚挙すると、まず一つは塔矢という新たな発現能力者が存在していたこと、そしてもう一つは真希の【皓々三原色】が防御に屈したこと。

 畢竟するに新たな発現能力者である塔矢の存在自体が面倒なのに、剰え真希自身の能力に耐えうる力量もある。直接相対して視認したのだからここは間違えようがない。

 しかも加減こそ行ってるが、既に真希は持てる能力を大方晒した状態だ。能力の変数的にも、単純な人数的にも真希の方が不利に立たされている。

 それらを全て聡い思考回路で悟ってしまったからこそ、頭を抱えるハメになってしまう。


「なあ、理人」

「なに?」

「呼び出されたのはいいんだけどよ、俺はこれからどうすればいいんだ? 真希を倒す? 千尋を助ける? 一体どうすればいいと考えてる?」


 一呼吸置いて理人は答える。

 脳内で様々なパターンを想起しながら。


「んー……ケースバイケースもあるけど、帰結から言うと両方ともだね」

「両方? 倒して尚且つ助けるってことか?」

「ニュアンス的にはそれでいいよ。ただ真希さんが攻撃をやめてくれるなら深追いをしなくてもいい……穏便に終わるならそれに越したことはないから。ボク個人としてはあんまり争って欲しくないけど、この場は塔矢君に一任するつもりだよ」

「おーけー、りょーかいっと」


 欠伸をするくらいの気のない返事。

 片腕を天井へと伸ばして身体をほぐす。

 塔矢の発現能力には叡智を振り絞りイメージを構築しなければならない。理人の透明化を賜るためにしばらく前傾姿勢のまま無言で足音も立てられなかった疲労のせいだ。身体の節々が凝り固まる。

 それでも、真希に負けるつもりなんて微塵もない。

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