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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
35/156

35 レーザーアンドステルス

 変わらず真希は周囲の警戒を怠らない。

 特に千尋の表情精査から、墨花と苑士郎が居る位置とは反対側である前扉側を重点的に気配を辿ろうとする。

 理人はまだこの場に留まっているかどうかまでは判明していないが、確実に透明化を使用している。ただ消えるだけならば真希の発現能力と比べ、攻勢に出にくく恐れるに足らない。だが副次的な要素が全くないとも断言し切れない。

 それこそ真希の能力である【皓々三原色】だって三色を組み合わせての応用技が可能なのだから、彼女が考慮するのも当然と言える。


「理人に見捨てられた気分はどう千尋? いざというときはあたしのように攻撃力を有した方がいいに決まってるよね? どこまで何を考えているか、ちゃんとは知らないけどさ、味方につけるならせめて理人じゃなくてあたしにするべきだったんじゃない?」

「一部は……そうかもしれないね」

「ほら——」

「——もし二人が揃っていれば、何も持たない僕には為す(すべ)がない事態すら、どうにでもなると思うよ」


 千尋の肯定は理人より真希という能力者の代替じゃなくて、互換でもなくて、二人が同陣営になった場合の心強さ。つまり味方同士になったときの想定。

 千尋たちはみんな人工島で十五年近く一緒に暮らしてきた仲。ふとしたきっかけで(たが)うことこそ多々あっても、その年月と関係性は揺るがない事実。だから今はお互いに分かり合えずともいずれは、例え数秒程度であってもそんな瞬間が訪れて欲しいと千尋は遠方の未来へ描く。


「ひとまずは、あたしには一人で十分の能力がある。管制課の末端を脅すくらい可能でしょうね」

「それは分からないよ。十五年あったんだ、向こうだって僕たちの対策を怠るとは考えづらい。外部の話を聴いた限りだと、急速に近未来化が進んでいると聴く。ここでの常識が通じないレベルの……真希の能力ですら対抗し得る技術があるかもしれない」

「こっちへの情報規制や工作くらいするでしょ。あと別に管制課を今すぐ倒すんじゃない……千尋は水面下で能力を制御しようと動いてるみたいだけど、この状況がいつまでも続くとは思えない」

「……この状況?」


 だんだんと真希から被弾した痺れが和らぐ。

 (くだん)の皮膜に触れると微かに、裁縫中の待ち針を軽く指先に刺してしまったくらいの痛みしか残っていない。

 彼女の思惑は政府管制課への強請る手段の工程を、千尋に先出ししたに過ぎない。能力を有さない人間に対してならこのくらいで良いのか否かもとい、殺さないと宣言した通りの加減は施さなければならないから。


 千尋は詳細を訊ね返す。

 隠す必要もないと、すぐに真希は答える。


「政府と管制課があたしたちを生かす理由って、とっくに無いんだよ、どこにも。だからいつこの島のみんなが逆に脅かされるか分からないでしょ?」

「僕たちが殺されるかもしれないってこと? でも……能力の存在が明らかになればそれこそ——」

「——例えばこんな風に、能力に目醒めなかったとしても不都合な因子なのには変わりない……ずっとね」


 真希の手の平が青色の光源を創り上げる。

 発現能力を誇示するためでもあるけど、負の感情に対抗するための人工の暗澹でもある。


「……真希の言うことは全く無いとは言い切れないけど、今更な感じもする。そんなチャンス、管制課にはいくらでもあったはずだ」

「いや、寧ろこの年齢だからこそもあるんじゃないかな?」

「年齢……?」

「そう。あたしの推測ではあくまで子どもと認識されるときまで、だから成人年齢か……今の本土の基準は不確かだけど、義務教育の課程が終わる年齢……ここが、保護期間が消失する危険性があると睨んでいる」


 真希の考察は成人年齢ないし教育課程の修了年齢、どちらかを境に長年の人工島生活という猶予が終わってしまうのではないかと、最悪殺処分をこの機に執行するのではないかと踏んでいる。両案とも通常なら世間の目の色が強制的に移り変わる区切りの年齢だ。


「それは世界の国々で定める基準が異なるんじゃない?」

「この人工島を管理しているのは実質的に日本だよ? あたしたちの人種や外部来訪者からもそうだと分かる。その国の法律……ルールが適応されないなんて、ご都合主義も甚だしいんじゃないの?」

「……杞憂が過ぎるよ」

「いいえ、対策を打って損はないと思ってる。そしてこの能力は本土の不手際から生まれたもの、最大限有効利用しないと気が済まない……もし千尋も、墨花と苑士郎にも言えるけど、あなたたちも顕現した暁にはあたしと手を組んで、やられる前に不穏な管制課を倒そう」


 そう言って千尋に向け手を差し伸ばす。その途中で真希の手の平は青色から赤色に変色する。彼女なりに矢先の展開への熱意を表したつもりなのだろう。提案としては、全く魅力がないわけじゃない。

 千尋も政府管制課について不審点を挙げるなら枚挙に暇はない。だけど同等に人工島の工面を継続して来たことも知っている。どちらも信じたいし、どちらも疑わしい。けれど一つだけ確かな予想図がある。


「それは無理だよ」

「……なんで?」


 簡素に千尋の持つ情報を下地にした結果を伝える。

 そして真希の喫驚を構わずに続けて述べる。


「詳しくは言えないけど、良心的な意味で真希には無理だ。その計画はどこかしらで崩壊する」

「……なんで、そんなことを言い切れるの」


 真希が鋭利な視線で千尋の断言を問う。

 返答しなければ、返答次第では、今にも能力を行使した攻撃を仕掛けると暗に告げる様相のまま、あちこちで破片が零れ落ちるような物音にも気が付かずに。


「……それは——」

「——千尋君、遅れてごめん」

「あ……理人っ」

「な!? 理人!」


 理由を渋々答えようとした千尋を、透明化したままの理人が多方面から重複した声色を放ちながら意図的に遮る。そのせいか、どこに居るのか、真希は気配からも掴めていない。ただ彼女の発現能力の性質上、大概な場所に能力を発動すれば的中するかもしれない。理人の声が聴こえ理解した途端、千尋との会話を中断して緑色の光沢を地面に敷く。


 レーザーとステルス。有色と無色のコントラスト。ここまで一連の流れで数少ない真希の失態は、自由室への突入時に窓ガラスを派手に砕いた挙句、千尋に対して温情を持って接していたことだ。

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