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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
34/156

34 光の三原色

 微熱を帯びる、倦怠が心身に纏わり付いたような感覚。

 照らされて視界が眩む千尋が反射的に身体を逸らす。

 しかし何故か足裏が謎の強磁性により張り付き動けなくて、なんとか両腕で顔を守る体勢にしかならない。

 赤色の光線と翠色に変異した床からの余光が重なり、制服の一部が攪拌したような黄色光の斑点を帯びる。主な箇所としては左太腿で、他にもいくつか細やかに点在する。光線にも床面の変化によるダメージは一見して無い。だけどここまでが全て真希の計算通りで、千尋はまんまと嵌められた形だ。


「な、なんで足が……」

「あたしも何にも研鑽しないわけがないで……しょっ!」

「そ……ぐぅっ!?」

「あっ……いい千尋? 能力は、こう使うんだよっ!」


 時間差で千尋の身体に瘡蓋を抉られたような疼痛があちこちから刺激され膝から崩れ落ちる。特に左太腿の痛みが凄まじくて、連鎖的に痺れを来す。全て赤色と翠色の混ざった黄色の光源箇所、真希の指先を天井へと突き上げる合図と共に指定した場所への効力を発揮する。そもそも両足が思い通りに動作しなかったのも全て、彼女の能力によるものとなる。


「お、おいっ千尋!?」

「ちょっ! 何をしているのっ、真希っ!」

「何って墨花、貴女たちにもあたしの能力を披露してあげてるんじゃない? 分かりやすいでしょ」

「……分かりやすくって?」

「察しが悪いなー。あたしの光の三原色をモチーフにしてるらしき能力の方が、ただ透明化するだけの理人よりも有効で強力だと思わない?」


 窓枠から飛び降りて悠々と、患部を押さえて蹲踞(そんきょ)する千尋に歩き寄りながら、真希は得意げに墨花と苑士郎へと告げる。どちらに優位性があるのかをまざまざと見せつけるように。


「真希……」

「まあ、二人はそこで傍観してなよ……誰も殺したりはしないから、そこは安心して?」


 真希は蹲る千尋を俯瞰しながら苦笑する。

 彼女の発現能力【皓々三原色】。色ごとに予め設定された特性が異なる効力を駆使し、さらに色素を混ぜて新たな形状を構成することが可能。

 赤色が対象の身体へ熱を持たせ、青色が対象の感情を不安定にさせ、緑色が粘力も含有された磁力を発動される。そして赤と緑を混ぜた黄色は、磁力のトラップに掛かった状態に熱を与えることで完成する合成効力。対象箇所を負傷したかのように脆弱化させ、そこに付け込める。ある意味で色彩の無い【無色透明化】の理人とは対極ともいえる能力だ。


「あ……ぐ……」

「どう? 痛いよね千尋」

「痛く……なかったら……こんな、風になって、ない」

「だよね。でもそれ実際に血が出たりとかしないし、骨やら筋肉に異常があるわけじゃないから大丈夫だよ。ただちょっと神経や痛覚が麻痺状態になってるだけ……もちろん身体への障害が残ったりしないように加減はしたけど、あたしもまだ理人と同様に能力の扱いに慣れてないから、想定より強力なものになっちゃったかも、ごめんね……でもそうだとしたら、結構平気そうじゃない?」

「……どうして、僕にこんな——」


 おおよその目処はあるけれど、千尋は真希の真意を確認したいからこそ敢えて訊く。こうして島民同士で敵対意識を向けるのは、今後の行く末を加味した場合でもなんの益にもならないからと、ちゃんと彼女への理解を示すために。


「——例えばの話をするわ、あたしがこの能力を利用して人工島の外へ行こうと試みる……千尋はどうする?」

「そんなの、止めるに決まっている」


 段々と痺れが伴う痛みに慣れて、苦悶のまま喋っていた辿々しさが改善されてくる。いや千尋が疼痛に慣れたというよりは、真希が意図的に和らげさせたとするべきだろう。

 正々堂々と議論を交わすために。


「……でしょうね。千尋自身にはどうすることも出来ないと思うけど、理人がいる限り足止めにはなる。そして現状、理人は千尋側に付いている……このままだとあたしの計画が狂い続ける。つまり千尋が邪魔になってるの、だからこそあたしは千尋と理人に交渉を持ち掛けてると思って欲しいな」

「交渉? それってもしかして、さっき言っていた政府管制課への復讐を本当に果たすつもり?」

「んーまあ最終目標ではないけれど……そう考えてもらった方が簡潔で分かりやすいんじゃない? 折角授かった能力だもの、有効に使わないと宝の持ち腐れ……だよねー理人っ」


 真希は自由室内全体に響き渡るように、視認が叶わずどこに居るのか、透明化を継続中なのか、最早とっくに尻尾を巻いて遁走してるかもしれない理人へ声掛ける。

 協力関係にある千尋を見捨てるならそれはそれで願ったり叶ったりだが、そんな都合の良い展開にはならないだろうと呼ぶ。足止め用に緑色を床面に敷き続けているけど、千尋や墨花に苑士郎以外の反応はどこにもない。


「あれ……理人は居ないのかな? んーどうせなら、能力同士で力比べくらいしたかったんだけど……まあいないなら仕方ないか」

「そんなの、無駄なことだよ。二人して無益な攻防を繰り広げるだけだ」

「確かにそうかもしれない。けど、それを決めるのは千尋、貴方じゃない。千尋も墨花も苑士郎も含めて誤投与を受けているはずなのだから、あたしたちのように、覚醒するまでは引っ込んでたらっ!」

「悪いけど、それこそ真希に言われる筋合いはない。どうみんなと関わろうが僕の自由のはずだよ」

「……そう、あくまでそのスタンスを貫くつもりなのね。なら一つ忠告しておくわ——」


 まるで強情なだけの千尋に見切りをつけたように真希は踵を返して続きを述べる。

 手に負えない非能力者向けた侮蔑を込めて。


「——千尋は能力に巻き込まれて、死にたい?」

「……っ」


 千尋はすぐに答えられなかった。

 だってその言い分は紛れもない正論だったからだ。

 異能力に勝る普通の人類なんていない。

 真希が千尋の思考を拒絶したのも、能力行使をしたのも、全てその台詞の意味に集約されている。

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