31 平和的な最たる手段と現実を受け入れるための方法論
もっと平和的な手段もあっただろう。
実際【無色透明化】の能力を穏便に済ませる方法だって考えてた。
けれど千尋は敢えて島民のみんなが困る方を選択する。
だってこれは、決して他人事じゃないのだから。
「苑士郎の言う通りだね。こんなの理人にも悪いことをしている。僕もそれを分かっているつもりだよ」
「なら……——」
「——でも敢えて、理人には悪役を買って出て貰ったんだ。多分だけど理人の発現能力に対して僕たちはすぐに受け入れられないと思う。非現実的に見えて隣り合わせだからね。だから外堀を埋める必要があった。いつか訪れるであろう新たな能力者が現れても受け入れられる土壌がね——」
墨花と苑士郎がさらに口を噤む。
どうやら受け入れ難いというのは図星のようだ。
平然を装って、千尋はさらに話を続ける。
「——理人にはわざと能力を悪用させて、もしバレたときに印象に残りやすくしようと思ったんだ……能力を隠す苦悩、一人でどうすることも出来なくて、コントロールが効かず事故を起こすかもしれない。例えそうなったとしても自身を、能力を使う誰かを責めずに能力と向き合う。意図せず悪用した場合も嫌悪から入らず、分析から入るために。つまりは理人をモデルに、能力は最初から上手な使用は困難だと間近で体感して、これから覚醒した場合にも迷惑を掛けてしまうことを気に病みにくい土台が必要だと思った。みんなのハードルを低めに設定してもらうためにね。要するにこの人工島で暮らす全員が個人差ありで能力に覚醒すると仮定し、受け入れるとまではいかなくても、誰かに迷惑を掛けてもしょうがない……くらいの気持ちになって欲しい」
伝えたいことが多すぎて長々と、まとまりなく捲し立ててしまう。千尋の気持ちを簡潔にすると、彼ら彼女らにはいずれ能力が発現し、自由に操れないまま、ゆくゆくは持病と同じように受け入れて進むしかない。だから被害者同士一緒に乗り越えようということだ。
能力をやや悪用させたのは、主目的もあるが他に、島民みんなの誰かが能力に覚醒すればするほどトラブルが発生するリスクが高まること。それこそモノが無くなるどころの騒ぎじゃない場合だってある。故意であれなかれ理不尽を被るかもしれない。だからこそ能力に対する理解と耐性、そしてトラブルに協力して対処する姿勢を千尋は最初に確認しておきたかった。この人工島で誰かを見捨てるなんてあってはならないから。悪役を主に演じるのは千尋という犠牲で充分だと。
「二人に言っておくと千尋君はね。ボクとボクの能力の両方をみんなに理解をしてもらえる方法を探してたんだ。確かに褒められたやり方ではない。それでも個人的にはみんなに能力のことを恐れられ、誰にも気付かれずにこんなことも可能だから注意しようって、ボク自身への戒めにもなった。危険性を改めて知るきっかけになったと思う」
「……危険性か、そいつは確かに実行してみねぇとわかんねーな。白状すると千尋が消えて理人と一緒に現れたとき……頭が混乱した。なんなら命の危機みたいなものすら、感じたかも知れねえ」
それは苑士郎の素直な感情。
危険が近くにあることをさっき身を持って知ったばかり。
そばでは墨花も同調するようにやや俯く。
彼女もまた、似たような感想を抱いていたようだ。
「それが正常だろうね。でも流石に怖がられる視線には慣れないけど……現実はそうなるよ誰でも」
「ああ……こんな感情までも含めて、危険性があるってことなんだろうな」
「うん。きっと取り繕うことだって一応は出来るんだろうけど、やっぱり変に能力を茶化したりしない方がいいとボクは考えてる。千尋君も同じなんじゃないかな?」
「……どうなの、千尋」
「僕は——」
作戦を実行に移してもなお、千尋は悩み迷う。
何故ならみんなに周知してもらうだけなら、正々堂々と人工島に隔離された主な理由である発現能力が現実になったと宣言すれば良かった。みんなを信じるなら最善の手段だ。
けれどそう都合良くはいかないだろうと踏む。
そんな経験が一度あったせいも、少なからずある。
前置きすると、みんなを全く信じなかったわけではない。
でも勝手に倫理や論理を掲げて黙って受け入れろなんて、虫がいいにも程がある。あまりにも横暴だ。
そしてもう一つ、千尋は発現していない人を巻き込みたくなかったから。悪用させたわけにも内包されるけど、理人の能力行使に勘付く別の能力発現者が既にいるのではないかとも仮定していて、まずは能力者同士を集めようとした。結託させようと動いたとするべきかもしれない。
これが正しい選択だったのか未だに分からない。
だから千尋は今も誰かのために頭を抱える。
「——概ね理人とおんなじだね。このことを粗略にしたくはない……なんせ僕らが人工島に連れてこられた主因なんだよ、これは……ふざけてられないよ」
【無色透明化】の効力範囲は想定より狭かったし、本質まで気付かれてはいないけど拓土と椎は違和感を持っただろうし、まだ発現していない墨花と苑士郎にはこうして看破されてしまっている。正直誤算だらけだ。
彼ら彼女らが一番傷付かない最善策はなにか、幸せな選択肢はなんだったのか、それは未来の人工島のみんなしかきっと知る術がない。




