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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
27/156

27 危惧された予想が論証により定理になる

 千尋の先を行く墨花と付き添いの苑士郎が向かったのは、教室から階段を降りてすぐにある自由室。そこは学校の一室の中でも最大の広さを誇っていて、その気になれば島民全員が布団を敷いて寝泊まりするとなっても全然余裕があるくらいの面積だ。

 広大さの理由は、元々はこの一室が室内スポーツやレクリエーションを行うために作られた、謂わば体育館のような扱いだった過去があるからだ。今でこそ別途体育館が建設されたことで当初の目的が形骸化されてしまったものの、祭りや舞台演劇の準備、扉一つで繋がっているため校庭での体育やスポーツに遊ぶ合間の日陰休憩所の役割を担う。つまり、まだまだ健在の自由空間となる。

 室内は耐久性を備えたブラウンフローリングがその平行面積とのマリアージュな荘厳さを帯び、なんらかの行事の進行もないため雑多な置き物や忘れ物も皆無。千尋たちはまるで空きのフロアを貸し切ったような開放的な居心地の良さを感じることだろう……後ろめたいことが、何もなければの話だが。


「ここでいいかな」

「一階……わざわざここに来るってことは、なにか僕に手伝って欲しいことでもあるの、墨花?」

「まあ、この部屋に呼ぶときって大体みんなその理由だろうね。でも今回は違う……そうね、どこから話そうか——」


 それからしばらく寂寞とした時を刻む。

 (おもむろ)にバッグを掛け直しつつ、発言を待つ千尋。

 両手を逆側の肘に乗せ、やや俯き思案中の墨花。

 お互いの出方を神妙に伺う苑士郎。

 三者がどうしようかと悩んだ末の静止。

 呼び出された手前で千尋から無理に切り出せず、苑士郎は実質第三者であり、気が乗らないから何もしない。

 そのまま墨花から口火を切られるまで、なんとも形容し難いギクシャクとした沈黙に包まれていた。というより墨花が主導してくれないと話が進まない。


「——じゃあまず、千尋と二人で管理担当だった日のことを訊ねてもいい?」

「うん。それが何に繋がるのかはよく分からないけどね」

「……その日の欠席者は誰が覚えてる?」

「今日の欠席した子に伊波奈を抜いた残りの人、じゃなかった? だから六人だね」

「あってる。女の子三人、男の子三人。名前を挙げると……いや、それはあと回しでいい」


 訂正の意味を込め、両眼を長く閉じる。

 そして一息を入れてから墨花は続ける。


「訊きたいのはね。これは他の子の主張も交わっているんだけど、その日の寮は男女共に放課後、既に空いていたの。これがどういう意味か分かる?」

「いや……そんなに不思議に思うことなのかなとは……」


 千尋が首を傾げる。

 しかし墨花が間髪入れず、かぶりを振る。


「ううん、私は変だと思った。早朝に寮は私と千尋が託した苑士郎が施錠していた。そして鍵は私が紛失してしまい結局翌日まで見つからなかった。なのに当日、誰も下校後寮に戻るときに、寮前の扉が開かないって苦情を寄せてないの」

「苦情……」

「あと欠席者の誰かに内側から開けてもらった報告を誰もしていない。千尋が私の代わりに受けたのかなって考えたけど、あの日千尋は最後に帰って来ていた。だからそれもない……なのにみんななんで普通にしてたのかなって——」


 千尋は墨花の言い分を聴いてようやく、納得気味に相槌を打つ。確かに通常なら誰かが扉が開かないと、管理担当に指摘して来そうなものだ。学校帰りで早く寛ぎたいという心理も働き、また気兼ねのないメンツならば尚更だ。

 千尋視点では墨花が報告を受けて、無くしたことに気が付いたのかなと自己完結していたけど、そうじゃないのなら話は別。しかも男女両方の寮となると、千尋と苑士郎に疑惑の矛先を墨花が向けるのもおかしくない。


「——ここから推測するに、私が苑士郎のバカが掛け忘れてたか、男女両方の欠席者一人ずつがこっそりと外出していたケース」

「おい誰がバカだ」

「うるさいな、今話の腰を折らないでくれる? 私の方……女の子の方はそれが誰だか分かってる」

「……メドウ、だね」

「うん。こっちの寮で休んでたのは水仙、メドウ、小春。その中で外出したのは彼女だけ。千尋たちと一緒に居て夜遅くまでほつき歩いていたみたいね。だから女の子寮の施錠が解かれた理由は分かっていて、メドウ本人にも確認を取っているから間違いない——」


 つまりは女寮は理由の解明は済んでいる。

 千尋と苑士郎も実際にメドウと逢って、輸入港からの帰り道を共にしていたから更に外に出た確証を得ることだろう。

 となると残る疑問は、男寮がなぜ開いていたのか。

 墨花と苑士郎が千尋に声掛ける時点で一緒に居たことから、おそらく墨花はまず代わりに鍵を預かって施錠もしたはずの苑士郎の話を訊き、その上で千尋にも声掛けたと考えるべきだ。これがただの保険なのか、もしくは真相への核心を付くためなのか、千尋としてはもう言わずもがなだ。


「——それでここからが私の仮説なんだけど、私は先に苑士郎にこのことを訊いたの。最後に施錠したのは苑士郎だからね。でも話を聴いてみると私が知る情報といくつか齟齬があった。そしてメドウと話したときにもやっぱり私と異なることを言っていた。当初は消去法で千尋にも訊ねようかくらいの気持ちだった……——」


 墨花が学校から荷物を運ぶ千尋たちが少し見えたと知ったときに、これは不都合だと千尋は思っていた。例え人物像があやふやでも、シルエットはわかるだろうからだ。

 墨花の仮説を滔々と述べる。

 千尋と苑士郎は相変わらず静観するしかない。


「——でも、男の子寮を開けたと思われる子と千尋が最近になって深く関わっているみたいで、疑念が強くなったの。そして寮の鍵が無くなったこと、見つけた場所、あとは今日……今さっきだね。拓土と椎が三階にいた千尋のことを話してくれて、この島に私たちが住まわされている原因を照らし合わせた……【HMGG細胞】関連の事故のことね。そこから導き出されたのは……私たち被害者の中にもう、能力を使える人物がいる。それをどうしてか……千尋が隠蔽しているんじゃない? 違う?」

「……っ」


 千尋は絶句する。そう反応するしか無くなる。

 まさかここまで詰められているとは予期してなかった。

 まだ話すときではないと考えていたから。

 瞬間的に千尋はどう弁解しようかと迷う。

 いや、迷ってしまった。

 それが肯定を意味すると、頭では分かっていながら。

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