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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
21/156

21 お茶請けには粉糖を塗した手作りビスケットを

 自室に戻った千尋は部屋着に着替えてベッドにうつ伏せになる。昼食のサンドイッチをいくつか食べて空腹が満たされたせいか、眠気が襲ってきて逆らえずに双眸を閉じる。

 そのまま想像の世界に浸る。苑士郎が何をどこまで察しているのか千尋には分からない。だけどひとまずは彼が述べた静観するという(むね)を信じて良いかなと受け流す。


 別に(いが)み合っている訳でも、仲違いをしている訳でもない。寧ろこの人工島で暮らすみんなの中ではよく一緒にいる。昼食のときには牽制し合ったことなどすっかり忘れたかのように、家族からの届け物の中身についての話に花を咲かせてたくらいだ。主に救急箱に入ってそうな絆創膏や包帯などが、毎回荷物に詰められていることをお互いに苦笑する。

 千尋が子どもの頃に転んで出来た擦り傷を心配して送って来たからというもの、ほぼ習慣のように千尋の両親が荷物に入れてるのを、苑士郎が知っているからこその苦笑い。

 本当に他愛のない会話を交わしていた。


 ただちょっと不満点が露わになっただけ。

 今回の場合において価値観に相違があっただけだ。

 例えるならご飯派かパン派かで揉める程度の些細なすれ違いに過ぎない。普段の生活まで持ち越すことはない。


「おーい千尋、寝てんのかー?」

「……ん?」


 上体を僅かに起こす。しばらく両眼を閉じていた明順応の影響で、(もや)がかかったような視界でまま千尋は自室の入り口を流し見る。扉の前には、寝ているのかと訊ねてきた明通寺(みょうつうじ) 塔矢(とうや)と、その一歩手前に遠敷(おにゅう) 理人(りひと)が居る。


 染髪したグレーヘアの刈り上げベリーショートに、左まなじり付近にある三つの黒子と口元を広げると現れる八重歯が揚々とした雰囲気を纏い、バンドTシャツにカジュアルベストを羽織りダメージジーンズという、なんともやんちゃな装いをする塔矢。

 対して無造作の黒髪にインドア派を象徴するような真っ白な地肌に、涼やかな塩顔でさりげなく微笑む姿が彼の柔和な性分を表し、上下濃紺のジャージを几帳面にファスナーを首元まで締めて着ている理人。二人で癖毛が一層酷くなった、ぼやけた千尋を見据える。


「ああ、また来たんだ?」

「おおうっ! 暇だったからなっ! つか千尋、髪の毛ボサボサだぞ」

「眠そうにしてたけど大丈夫?」

「……うん。一瞬だけ眠れたし、もう塔矢と理人の二人が部屋にいるのは慣れてるし……というか塔矢、自分の部屋が全開になってるけどいいの?」

「閉めんの面倒だからそのままでいいやって思ってな。どうせ千尋の部屋からたまに見れるし、なんか取りに戻んのも楽だしよ〜」


 そんな会話をしながら、二人は千尋の部屋の入り口からベッド付近にある折り畳みテーブルまで当然の如く進み、それを囲うようにして座る。ベッドに座ったままの千尋、入り口扉から遠い右斜めに理人、その対面で千尋からは左斜めに塔矢がそれぞれ習慣のように寛ぐ。


「これ、プレゼントな」

「プレゼント?」


すると塔矢はそのテーブルの上にジッパーバッグに入ったビスケットをお茶請けにと置く。プレゼントというよりはご近所さんからのお裾分けのようなジッパーバッグの中には、粉糖が塗され大きさにちょっとバラつきがあるビスケットが二十七枚あって、手作りなことが一目で判る。


「ビスケット……これ、塔矢が作ったの?」

「へぇーよく出来てるね」

「いいや、これは小春が作ったもんだ。俺が千尋の部屋に遊びに行くっつったら、食べ切れないからみんなでどうかなって託された。なんか朝方にいっぱい作りまくったらしいぜ」

「そっか小春……」


 小春は料理が上手なのを千尋はよく知っている。もっと言えば料理だけじゃなくて、あらゆる細やかな作業を器用にこなせる。調理は島民みんなで持ち回り制を採用しているから全員ある程度の技術や知識を有するけど、その中でも小春は担当外でも創作する頻度が高く、精度も高い。だからこのビスケットが小春作というのが、千尋は妙に納得出来る。


「あと一つ、小春から千尋に伝言だけど」

「えっ? あっ……ごめん理人……」

「おいおいめっちゃふらついてたが。大丈夫か?」

「……うん、大丈夫。それで伝言ってなにかな?」


 千尋は見当が付かなくて、同時に足元まで覚束なくグラついしまう。これは寝惚けていたせいもあるし、小春から伝言があることに虚を突かれたせいもある。

 具体的には千尋がお茶漬けの飲み物を取りに冷蔵庫へ向かおうかなと、ベッドから立とうとしたところで急停止。危うく理人に激突しそうになるのを無理やり回避し、またベッドに座る。

 理人が慌てる最中、めちゃくちゃな動きだったなと若干失笑しつつ塔矢がタイミングを見計らって、一呼吸挟んで小春からの伝言を告げる。


「最近逢ってないけど、元気かな? ……だってよ」

「……そういえば逢ってないね。うーん、どちらかというとそれ僕のセリフなんだけどね。小春の方が学校に来てないし、ご飯も時間外に食べてるみたいだし」

「確かにそうかも。昨日も学校に居なかったね」

「うん。でもなんか、こうやってビスケットを作れるくらい元気そうなら逢えなくても嬉しいね……もちろん逢えた方が良いんだけど……ああそうだ、作ってくれてありがとう……は、また逢ったときに自分から本人に言うべきだね」

「ああ……それがいいな」


 千尋は小春が最近学校やみんなの前に来ない理由を知っていて、怪我や病気じゃないからあまり心配はしていなかったけれど、やはり少ない島民だとちょっと逢えない人がいると寂しい。だからこうやって遠回しなメッセージでも、小春の近況が伝わるのは素直に嬉しい。

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