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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
19/156

19 見え隠れする優しさ、発見の糸口

 日向(ひなた)に漂う(しな)びた倦怠感は、太陽の光芒(こうぼう)と溶け込んだようにして安穏な温もりを(もたら)す。眠気が取れないせいか寝姿の黄色のジャージのまま着替えずに現れた苑士郎と、同じくパジャマであるモコモコのルームウェアに、日差し除けの麦わら帽子を被ってめんどくさそうな様相のメドウが千尋も墨花の前に倣う。


 特に必要もない休日登校から縁遠い二人が揃い踏む。

 そんな光景に、先程までの会話を含め未だ状況が掴めていない千尋。

 すると墨花が三者を見比べ、体調面は一目見て問題なさそうだと頷いた。

 そうして何がなんだかと眉を顰める千尋に対し、ここに苑士郎とメドウが学校に来た理由を述べていく。


「千尋、さっきの話に戻すけど——」

「——うん……そこに関係があるのなら」

「実はね、私は千尋に訊ねる前にもうある程度知ってはいたんだよね。千尋が帰った後、ここにいる黄色ジャージ苑士郎が、メドウのことを詳らかにバラしちゃってたから」

「……そのせいでわたし、墨花に待ち伏せされてめちゃくちゃ怒られた……苑士郎、くたばれ」


 容赦ない睥睨と罵声を浴びせる。

 もちろん本気でそう思っているわけじゃなく、いじけたフリをしたジョークだ。

 これもメドウなりの諧謔(かいぎゃく)ではあるが、少々演技力が高過ぎて本物の悪女の凄みすら彷彿とさせる。


「いや、隠していたことを故意じゃないとはいえバラしたのは悪かったけどよ……メドウこそすぐに帰るべきだっただろ、思ったより体調悪かったらしいじゃねぇか」

「あのときは大丈夫になっていたのよ」

「一時的かもしれないだろ。なに輸入港で俺にイタズラなんか仕掛けてんだ。あとそのくたばれはやめろ、心臓に悪い」


 それは千尋が女寮を離れた後の出来事。

 大広間にて失態を仕出かした墨花を励ましついでに揶揄(からか)ってもいた苑士郎は、唐突に何で千尋と居たのという問いに対し、手伝いに行ったと答える。しかしそこで切り上げておけば良かったものの、落ち込んでいた墨花のことを案じて喋り続けた結果、輸入港でのイタズラ関連でメドウの名前をうっかり口走ってしまう。

 ここでメドウが無断外出をしたと確信する。


 あれはやっぱりそうかと納得した墨花は黙々と玄関に移り、大広間からの侵入対策として、念のため苑士郎にその場へ居座り続けるよう頼む……正しくは半ば強制的に命令を下す。そうすれば大広間の窓からの経路は、他のみんなも居るために断たれたも同然だ。そこに敢えて堂々と玄関口から、千尋の部屋がある男寮からこっそり戻って来たメドウと鉢合わせる。その後は言わずもがな、気落ちしていたのが嘘のような墨花の叱責が女寮を轟かせた。


 みんながそれぞれの寮に帰宅した後、墨花とメドウは苑士郎を加えた三人で即席の反省会が行われて、今日の早朝集合にまで至る。


「ということで、二人には学校の掃除係を任命しました」

「……何がということで、だよ。清掃しながらお前が無くしたモノをついでに捜させようって魂胆じゃねぇか」

「何よ、悪い?」

「開き直んのかよ……つーかメドウは言い付けを破ったからってのは分かるが、俺って悪いことしてなくね? とばったりじゃねぇの?」

「目の前の席から煽ってきたのはどこの誰だったっけ? あれ結構イラッとするんだからね」


 墨花と苑士郎がお互いに睨み合う。二人が言い争いをするのはそれほど珍しくないせいか、様子を眺めていた千尋とメドウは、いつものことだと楽観視して見守る。

 これは要約するに掃除係という名の罰掃除で使いっ走りだ。もしメドウの存在を隠したことを責め立てているのなら千尋も該当するからフェアじゃないとは思ったけど、どうやら苑士郎の方は墨花の機嫌を損ねさせたから、ついでに巻き込まれたんだと理解する。


「まあ……日頃の行いなのだよ、苑士郎」

「なんでメドウまで上から目線なんだよ……つかお前、体調大丈夫なのか? それで外出禁止になってたんだろ?」

「……デリカシーがないわ」

「いやデリカシーもなにも、子どもの頃から容態のことは知ってるし今更だろ……はぐらかしてんじゃねえよ」

「……ダメだったら一緒に来ないわ、わたしは無理しないもの。さて、こんな直射日光を浴びるところにいたらお肌の大敵だし、わたしたちは早く校内に入りましょうか」

「おーい。罰掃除係が主導権を握るな〜」


 そんななおざりな野次など露知らずメドウは、千尋と墨花の間を通り抜けて校舎へと赴いて行く。やれやれと野次った苑士郎も後に続く。心なしかさっきよりも足早で、軽快な動きになっていると千尋は所感しながら見送る。


「……苑士郎とメドウも手伝ってくれるってことか」

「……実は私が頼んだ訳でも、命じた訳でもないんだよ。二人の方から話の流れで掃除係を買って出てくれたんだ。なんだか罰ゲームみたいになっちゃったけどね」

「……そっか。飄々として見えてみんなに優しいタイプだからね、二人とも」

「うん、そうかも」


 苑士郎とメドウの秘めたる優しさが反映された背後ろを眺めながら呟く。そうして千尋と墨花は捜索活動を再開しようと踵を返す……そのすぐ、あとだった。


「おいっ! 千尋ー墨花ーこっちに来いっ、鍵が見つかったぞー」

「「……へ?」」


 二人同時に間抜けた返事が出る。校舎周りから大声で呼び掛けて来た苑士郎のセリフをすぐに咀嚼出来なかったからだ。頭を冷やして思考を目覚ませる。言葉の意味を履き違えていなければ、それはまさに墨花が昨日から現在に渡って捜し続けていた寮の鍵ということになる。


「嘘っ……」

「とにかく花壇の方に戻ってみよう、墨花」

「あ、うん」


 千尋と墨花はすぐに苑士郎とメドウが見つめている校舎前のコンクリート段差のそばまで駆け足で向かい、そこにある花壇を共に覗き見る。


「どこ……」

「えっと、ちょっとこのお花のどかしてみると奥にあるのが見えるよ……ほら、あそこあそこ」


 苑士郎の前にしゃがんでいたメドウが青花の茎を折れないように掻き分ける。すると慣らした土に横たわる、ギンギラとした寮の鍵が二つ……確かにそこに転がっていた。


「あ……本当だ」

「んーさっきここ通ったのになんでって思ったけど、そうか花弁で隠れてたんだね」

「ふっふっふ、お手柄じゃない? わたし」

「調子乗んな……っていつもなら言いたいところだが、こればかりはナイスだメドウでかしたっ!」

「うんやった……あっもう、帽子取らな……もー髪に触れないでよ苑士郎ー」


 発見したメドウを讃えるように苑士郎が頭を強く撫でる。

 ちょうど手元にしゃがんだメドウの頭があったからと反射的に触れたようだ。故意ではないが被っていた麦わら帽子までも叩き落とす形にもなる。

 するとたちまち、麗しいブルーブラックのショートヘアの頭頂部があらわになり、苑士郎がよしよしとこねくり回したせいで寝癖みたいにぐちゃぐちゃになった。

 ただ払い除ける素振(そぶ)りこそしているけど、メドウも表情はにこやかで満更ではないみたいだ。


 その背後で胸を撫で下ろす素振りの千尋。

 隣でまじまじ寮の鍵を見つめている墨花。

 しかし、お互いに寸秒の既視感に眩む。

 それは偶然か否か、吉凶どちらかの前兆か。

 五年前に千尋が紛失した寮の鍵が見つかった場所と、ほとんど同じ位置にある。

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