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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第一章
15/156

15 無色透明人間

 遅めの食事を終えてしばらく女寮にある丸テーブル組のみんなとゲームを交えて団欒としていた千尋は、採点考察を述べ区切りがついたところで立ち上がり、大広間を後にする。そのまま廊下をほぼ直線上に歩いて女寮の玄関をくぐる。

 日中のじんわりとした熱気と高湿度が嘘のように、暗闇の只中の空気はとめどなく澄んでいて夜風が心地良い。きっと部屋着のジャージだと軽く身震いをしかねない冷たさで、生地の厚みのある半袖制服が最適だと胸の内側で感受する。


「そろそろかな……」


 昔は星一つなかった夜空を希薄に眺めながら千尋は呟く。

 その昔とは、具体的に表すと五年前。

 忽然とソフィアが姿を消した年と同じ。


 翌年から星座の位置関係や季節性が子どもたちの学習に必要不可欠と判断されアップデート。今では(そび)()つビルもネオン看板などの電飾が少ない人工島だからこその特権と言えるくらい、煌々とした天辺(てんぺん)の星空を一望することが出来る。

 科学の教科書に記してあったものを読んだだけの浅い知識だけど、晩秋だしあの辺りにアンドロメダ銀河があるんだろうかと朧げな予測を立てていると、そんな千尋の元におずおず近づいて来る足音が響く。


「千尋君……おつかれ……」


 訥々として発せられた言葉にすぐ気が付き、星空から足音がする方角へと向き直る。しかしそこには確実に人が動き話している気配があると言うのに……誰も居なかった。いや、これは肉眼で視認することが千尋には叶わなかったと言うべきかもしれない。


「ううん。それは僕のセリフだよ」

「どう、だったかな? 様子は……」

「ちょっと戸惑ってはいたけどいつも通りだったよ。それで多分、みんなが戸惑ったのは僕が関与していたからじゃないかな、ほら……昔に似たようなことがあったわけだしね」

「……それなら良いんだけど、ごめん」

「……謝らないでよ。それに謝るのなら僕の方だ。こんな他人を試すようなことを無断でしているんだからさ」


 どこに居るのかが千尋には分からないせいか、自然と居場所を間違えないように俯き気味に返事をする。こうすれば正確な位置は当てられないけれど、大きく外れることはない。


「誰も違和感はない感じだった?」

「うーんどうだろう。大丈夫だとは思うけど……もしかしたら苑士郎が疑っているかもしれない。ああ見えて昔から勘が鋭いしね」

「苑士郎君以外にはバレそうではないと言うこと……かな?」

「明日にならないと分からないけどね。でも墨花と僕だけで鍵を捜索することになってるから、疑われてもそこまでで追求してこないと思う。それよりも……ここまでの行動経路で能力に気付かれた形跡はある?」

「無さそうだよ。来訪者がいないせいもあるだろうけど、やっぱり監視の線は違いそうだね。どちらにせよ仮に気付かれていたとしたら翌日には消えているかも……五年前のソフィーみたいにね……」


 ソフィーとはソフィアの愛称だ。というより寧ろ、当時から本名であるソフィアと呼ぶ島民の方が珍しい。それこそ千尋と小春くらいなものだ。

 そんな千尋は、相変わらず独り言のように言葉を紡ぐ。

 行使された能力は用心してか、はたまた臆病だからなのか姿を表すこともなく、またそのような気配もない。いや、島民みんなに共有された無慈悲な過去が五年前とはいえ(よぎ)るのに、心情を考慮すれば簡単にカミングアウトする訳がないのかもしれない。


「……僕はもう、あんな思いはしたくない」

「同感だよ。ボクも発現したからこそ、一層そう思うのかもしれない。まだコントロールも不完全だけど」

「うん。でも……僕たちが生まれてすぐに人外並みの能力に目醒める確率を弾き出した科学者は凄いね。注目されたいがために戯言を謳って、世の中に危機を煽っているだけじゃなくて……本当に的中させたんだからさ」

「そうだね。その証明は少なくとも自分がいつでも出来るしね……絶対にしないけどさ」


【HMGG細胞】と新規物質【TOUNO】の誤った複合による副作用として、人工島のみんなには当時の人知を超越する能力に覚醒する概算を導き出す。当然科学的根拠が念入りに検証された上で、当時はただの連合に過ぎなかった現在における世界政府が承認したからこそ、千尋たちはこの人工島での生活を余儀なくされていた。例え覚醒するに至らなくても、投与された被害者が既に人類と比較して異常値を検出した結果がデータベースに残っているので、最終的に疑わしき存在は摘み出す精神で隔離したとされる。


 ただあくまで十五年前の科学技術による算出で、予測値では十年後辺りとなされていたことから、いわゆる人工の超能力者が現れる理論が事実であるか否かは長らく不明だった。けれど千尋を含め、島民の中でも限られた少数名はこれらの仮説が正であることを知っている。


「ごめんね……こんな危険なこと」

「いやいや。確かに危険ではあるけど……折角の能力、有効利用しないと損だから。そっちこそ色々と偽装してくれてるんだし、お互い様だよ」

「うん……もうちょっとだけ協力してくれる?」

「ううん——」


 しかしその少数名が能力をひけらかすことは皆無。

 同じ人工島で暮らす子にも、殆ど教えていない。

 何故なら。新たに人類の範疇を凌駕した能力に開花した島民に、政府関係者や来訪者などが勘付いたら、それらもう保護対象ではなくなってしまう蓋然性が高いからだ。


「——もうちょっとと言わず、協力は惜しまないよ。最初はたまたま同じ境遇ってだけだったけど、本物の家族以上に連れ添った人を裏切らないよ」

「……優しいね。だからこそ、なによりも無垢な力を持っているのかもね」

「……そうなのかな? よく分からないや」

「自身のことって意外と分からないこと多いもんね」

「だね。あっ、例のものはあの場所に置いといたから、速やかに取っといて」

「了解。墨花が意識していないうちに済ませるよう努めるよ」


 やんわりと微笑んだ声色が千尋の鼓膜に届く。

 そして再び、姿形が視認出来ない地点から足音がする。

 踵を返したようにゆっくりと遠ざかって行く。

 発現能力の作用、【無色透明化】。

 その存在を千尋は、当面隠し通さなければならない。

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