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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
101/156

101 発火の元

 弱まった炎の障壁は、窓を開けて吹き通しの良い状態だというのに、一緒に開けるのを忘れて閉ざされたままになった剥き出しのカーテンのように波打ち翻す。人工島はシステムの未発達により現状、ほとんど体感的に無風であることが多い。だからこの比喩は千尋たちにはなかなかピンと来ないだろうが、押しては引かれる浮力で揺らぐたび、遮蔽の意味を一時的に為さなくなると解る。

 図らずか否か、千尋はジオの発現能力であるその障壁を正面突破しようと、耐性が確認された左腕を僅かな隙間へと突き出し攪拌させることで、彼自らの身体が通り抜けられる通常空間を創る。


「苑士郎大丈夫!? すぐそっちに行くっ」

「全然余裕っ! 焦んなくて良い……ははっ、順応力高過ぎだし、無茶するなぁ、おい」


 燃え滾る炎に迷わず腕を入れる千尋に苑士郎は苦笑する。

 発現能力か、異様に耐性のある人体なのかは区別が付かないが、いずれにしてもバケモノ染みていると。それは異能の有無に関わらず、千尋を焚き付ける行動力の威勢になる。


「ジオは……」

「どうしたっ? まさか……」


 全部を掻き分けたわけじゃない。

 いや、元より一人分のサイズでは無理だと目測で悟っていた。千尋は多少の火傷を承知で灼熱の障壁の隙間へ飛び込む。そんな刹那、持て余す空中にてジオを一瞥して、一つ思い違いをしていたと気付く。


「意識が、ある?」

「えっ……ああ、ジオは倒れただけで眠っちまったわけじゃねぇぞ」

「そぅ……いだっ——」


 千尋は着地をしようとして失敗し、すっ転ぶ。

 火の元からダイブし、めちゃくちゃな体勢で数回転。

 まさに身体が火達磨になるのを防ぐような所作だ。


「——そ、そっかよかった」

「……頭打ってないのか? 今の?」

「うん……それよりもジオだよ苑士郎。すぐにあの炎から遠ざける、これさえ達成出来れば良いから」

「ああ。つーか、遠ざけるだけで良いのか? まあ確かに呼吸のしやすいところへの移動が優先だが、消火とかも必要なんじゃ?」

「ううん、消火は要らないよ。だって——」


 ジオの発現能力は燃え盛るこの灼熱。一見すればそうにしか映らないし、苑士郎もほぼほぼそのように断定していただろう。千尋のように一部耐性がある程度の謎の異能と比較すれば、発火能力は明らかに人智を超えていると言える。

 けれど千尋は、ジオの発現能力の正体が発火ではないと、対峙していたときに思う。最初は直感でしかなかったが、火焔はいつもジオの周囲に纏わりついていただけで、ジオ本人に干渉することは一度もなかった。


 おまけに幾つか放出された火種は間も無く消失。

 距離が遠ざかり威力が減少するにしたって、あまりにも貧弱過ぎる。

 供給源の管状のパイプがいきなり断ち切れるかのようだ。

 まるで接触すらしないジオの周辺に依存しないと、火力が保たず生きていけないと言いたげに。


「——ジオの能力は、発火した炎を増幅される能力だから。助熱性、支熱性っていう言葉が適当かな」

「んん? そりゃ何が違うんだ? どっちも炎を司るんだろ?」

「最終的には、そうだね。同じに見えても仕方ないと思う。でも根本的なところで違うよ——」


 千尋は苑士郎に説明しながらでも、ジオを救いに行こうと赴くが、まんまと突き抜けられた炎が黙って惚けているはずもなく、無けなし残力が抵抗し、なんとか最短経路だけは潰していった。しかし辛うじて時間稼ぎになる程度だ。

 千尋と苑士郎、二人が臆するには燃料が不足している。となると遠回る余白を利用し、ジオの発現能力の詳細を共有した上で、二人で突撃を仕掛けるのが確実な手段と判断する。


「——どこからもなく火を発するのと、発せられた火を強化させるのは別の原理。つまりはこの場合、ジオの能力は後者なんだ」

「後者……」

「うん。それで僕らが見ている炎は、ジオの能力によって成立していると言っていい。その条件がどうやら、ジオと一定の範囲にあること……苑士郎も経験したと思うけど、射出された炎はすぐに消えていたでしょ?」

「ああ……あっそうだ! 俺も少し校舎を盾にして隠れたとき、変だと感じたんだ」

「変?」

「あの威力がそのままだったら、壁越しとはいえ衝撃波ぐらい、もっと感じてもおかしくねぇと思った。でも今にして思えば、急激に弱まっていたんだろうな。んで、そこの壁面が欠けたのもおそらく、トリノの影響が残っていて脆かったと考えれば合点がいく」

「なるほど、トリノの能力の残滓……僕が視認していた以上の威力に見えていただけってことか……——」


 そう呟きながら千尋は左腕を見遣る。もしかしたらこれが発現能力なのかなと考えていたが、そもそもジオの火焔が実態的に全然熱を帯びていない場合もあり得る。制服の一部が燃えて消し炭になった疑問点は残るが、確定に至るまでの根拠が減る。


「——話を戻すけど、これまでずっと炎はジオに当たってすらいないこと、遠ざかるだけで簡単に弱まること、常にそばにいないとダメなことを加味しても、ジオ当人に発火能力は無いと思われる。ジオ以外に起きる発火の要因なら幾つもあって、シンプルに摩擦とか、垂れ幕に直射日光が集中したせいとか、雨が降ったばかりや冬模様で乾燥していたせいとか、どこかしらの漏電とか……本人の前では言えないけどトリノの能力が連鎖的に作用した場合もあるね」

「……つまるところは、とにかくジオをあの近くにあるであろう、火の元から思いっきり遠ざけてやれば良いってこと、だよな?」

「うん。二人で行って、最低でも僕らのどちらかが連れ帰るんだ」

「了解だ。なんだよ、随分と解りやすいじゃねぇか」


 苑士郎は平手と拳を突き合わせる。

 いつでも大丈夫だという志しがひしひしと伝わる。

 千尋もその意向を汲み取る。

 千尋と苑士郎、二人でジオの救出に向かう。

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