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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
100/156

100 あいつのように

 千尋はジオと苑士郎、そして泣き喚くように消耗具合を考えていない火焔の弱体化と位置関係を把握。そして今はまさに、千尋のために敷いた障壁へのエネルギーの一部と青草が燃えた助熱を組み合わせて、苑士郎を退(しりぞ)けんとする一撃を構成中の火種を見る。


「苑士郎っ!」

「ああ、聴こえているぜ千尋。ちょっとばかり時間が掛かっちまいそうだが、心配すんな——」

「一旦、ジオのところに突進せず、退き下がってその火を避けることだけ考えて欲しい」

「はぁ!? んなこと出来るわけねぇだろうがっ。そこにジオが居るんだから、引き摺ってでも連れ戻さねぇと——」


 そんな暇はないと、苑士郎はかぶりを振る。

 ただ大人しく撤退するなんて答えるわけないだろうなと、薄々千尋も分かっていた。

 仲間思い故の無鉄砲さを含めて、彼の優しさの源だ。


 でも苑士郎が千尋の言うことを聴かず、肥大化するであろう火種にも屈せず突っ込もうとするのは、あくまで理由が彼そのものを案じただけに過ぎないから。畢竟するに苑士郎自身よりもジオを優先したからだ。


 ならばと千尋は、より苑士郎の説得に赴いた補足をする。

 ここに居る二人が、今よりも救いのある方法の提示だ。


「——僕にジオを救う策がある。だから今だけ、苑士郎は一旦、あの炎から確実に逃げて欲しいんだ……」


 千尋はちゃんとした策略を、どことなく仄めかす。

 更に今だけ、一旦、のように一時的な処置であること強調した上で、苑士郎を逃げる方向に突き動かそうとする。


「一旦……ねぇ——」


 苑士郎は千尋の提案を訝しむ。

 これは全くの嘘じゃないが、僅少のブラフも交えている。

 ただ苑士郎にとって、そこはさして問題じゃない。

 他者を無理に動かすのには方便もあるだろうと、千尋へのの理解が及んでいるからだ。

 ならば何を気にするのか。それは彼自らの行動心理から、千尋も同じなんじゃないかと疑っている……つまり、自己犠牲での発言かどうかだ。


「——それはよ千尋……お前も含まれているんだろうな?」

「……うん」


 千尋は曖昧に返答する。

 多寡であれ、詭弁が含まれていたから。


「ははっ、随分と迷った声じゃねぇか、図星か?」

「隠せそうには、ないね……」

「たりめーだ……ちゃんと言ってみろ、それから考える」

「……ごめん。白状すると、一か八かなんてほどのものじゃないけど、多少僕らに危険が及ぶかもしれないやり方ではあるんだ。でも、気絶してるジオをすぐに助ける手段でもある

「へぇ」

「だから……頼むよ」


 揺らめく炎の波の隙間。

 千尋と苑士郎の視線が、時節ぶつかっては閉ざされる。

 本当に僅かな僅かなアイコンタクト。

 されど長年の交友から、表情の精査をするには十分だ。

 千尋の覚悟、後悔、煤汚れがこびり付いた左頬。

 双眸から滲む潤み、きつく閉ざした唇。

 苑士郎にとって、映される全てが言葉よりも重い真実だ。


「いや待て。俺の方も一旦待ってくれ」

「な……」

「大丈夫だっ千尋……そこで見とけっ。だがごちゃごちゃと説明してる余裕がねぇ」

「それは、どうするつも——」


 そう千尋が訊ねる間も無く、苑士郎は勢力を拡大し続けている火種と対峙する。しっかりと見据え、炎の結集体が射出されるであろう瞬間を、コンマ一秒でも逃すつもりはないと言いたげに。

 やがてそれは、さっきまで千尋を襲撃していた火玉と化し、不規則な振れ幅を誇ったまま苑士郎目掛けて放たれる。

 弱体化のせいで不完全な球体になり、まともな軌道を描けていないだけだが、この予測しにくいブレは、回避に特化した行動思考の苑士郎には有効に働く……まさに偶然が成せる業。苑士郎にとって不運で不都合な一撃となる。


「——来るなら来やがれ……千尋が策があるっつってんだ。乗っからねえわけないだろうがよっ!」


 苑士郎には身体能力を底上げする方法がない。

 発現能力を知っているだけの、いわば有識者だ。

 理人のように透明化出来るわけじゃない。

 塔矢のように建造物を具現化するわけじゃない。

 真希のように光線を放てもしない。

 ましてや千尋みたいに、いきなり左腕だけ発現能力に耐性をみせることに賭けるなんて無謀も……出来かねる。

 苑士郎はただただ、理解があるだけ。

 人工島民のみんなの歓喜はもちろんのこと、反対に苦しみ、痛みすら、彼自身のことのように胸を締め付けるだけだ。


「しかも、頼まれちまった……からな」


 それは千尋と同等かそれ以上にある、無力の自覚。

 同時に何を信じるのが得策か、冷静に思考する時間。

 目測、火玉との距離、身体の柔軟性……千尋が比喩的に無数の火玉をいなし続けていた姿が脳裏に焼き付いてる。


「ははっ——」


 苑士郎は馬鹿らしいと苦笑する。

 何を信じるかなんて、無駄な時間だと帰結したからだ。


「——一発躱すぐらい、俺にだって出来るよな」


 苑士郎は徐々に後退して、火玉との距離を弁える。

 そしてちょうど着弾するであろうタイミングを脳内で予測し、もし彼のところに到達した場合に備える。

 火玉の変化だけが厄介で、この要素だけが意外性になり得る。だからこそ無闇な遁走ではなく、(くだん)のブレに対応すべく一定の線引きをする。


「よしっ、俺の方なんとかなる、あとは……」


 苑士郎自身で思案した、一番回避率の高い行動。

 彼の運動神経も相まって、火玉は手前に落っこ散る。

 それでいて今、ほぼ同時の行動だ。ジオの発現能力の行使が分散した隙に、不定に揺らぐ炎の障壁に、果敢にも左手を掛ける千尋を最も信頼した囮作戦にもなる。

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