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黒の厄災の王

 「オオカミさんごめんなさい」



 私はグッタリと倒れ込んだオオカミを地面に置いて頭を下げて謝った。しかし、そんな私の仏の精神を裏切るように残りの二体のオオカミが私に襲ってきた。


 二体のオオカミは私の背中にかぶりつくが、あっけなく牙が砕けてしまう。しかし、オオカミは諦めはしない、鋭い爪で私の背中を必要に引っ掻き回す。



 「くすぐったいです」



 私にはオオカミ達がジャレあって私の背中をさすっているように感じた。その感触は母が私が病気で苦しい時に背中をさすってくれたような、優しい温もりを思い出させてくれるような感触であった。



 「本当ならお母さんと一緒にピクニックに来たかったなぁ〜」



 私は背中の優しい温もりを感じて母のことを思い出していた。しかし、私のそんな気持ちをオオカミ達は察することなく鋭い爪で私の背中を引っ掻き回す。すると爪は全て砕けてしまい肉球だけが残る。だがオオカミ達は諦めずに肉球で私の背中を殴りつける。オオカミの肉球の攻撃は私の背中をツボを刺激してとても気持ちが良かった。



 「ありがとうオオカミさん。私の体を気遣ってくれてマッサージでもしてくれているのね。でもね、私は丈夫な体を手に入れたので大丈夫よ」



 私は振り返り二体のオオカミを強く抱きしめてあげた。するとオオカミは泡を吹いて死んでしまった。



 「えぇ〜何で死んでしまうのよぉ!私は優しく抱きしめただけなのにぃ〜」



 二体のオオカミは死んでしまうと体の中から赤い石が浮かび上がってきた。



 「何かしら」



 私は赤い石を手に取ってみた。



 「なんて綺麗な石なのかしら。指輪か髪飾りにしたら私もバエルかもしれないわ」



 私はとても綺麗な赤い石を手に取り空にかざして眺めていた。



 「俺の息子達が殺されるなんて・・・」



 私の前に先ほどのオオカミの3倍以上の大きさのオオカミが姿を現した。



 「このオオカミさんは言葉を喋れるの・・・」



 私は大きなオオカミの姿よりも人間の言葉を話す方に驚いていた。



 「あ!そうか。夢の中だからオオカミさんが言葉を発してもおかしくないよね」


 「何を言っているのだ人間の小娘が!俺はヴォルフロード。この世界にある7つの厄災の1つ『黒の厄災の王』である。俺は人間の言葉を理解し喋ることもできるのだ」


 「え!ここは私の夢の世界よ。勝手に私の夢の中の設定をおかしくしないでくれるかしら」


 「ここはカラミティー大陸の漆黒の森だ。俺はこの地に100年も住む漆黒の森の管理者だ。俺の息子を2人も殺すとはお前は何者だ」


 「殺すつもりはなかったの。ただジャレあっていただけなのに・・・」


 「言い訳など聞きたくない。強き者が生き弱き者が死ぬことはこの森では当然のこと。お前が強者であり俺の息子が弱者であっただけだ。それが自然の摂理なのだ。ただ、俺の息子を殺すほどの腕前を持つお前のことを知りたいのだ」



 そうか・・・私は弱者だったから病気で死んでしまうのだろう。それが当然なのであろうと私は納得していた。



 「ここは本当に私の夢の中ではないの?」


 「そんなわけがあるまい。俺は100年もこの世界で生きてきた。お前はなぜ夢の世界だと思うのだ」



 私はこれまでの経緯を説明した。



 「それが本当なら不思議な話だな。しかし、ここはお前の夢の世界でないことは確かだ。そして、お前が俺の息子達を殺したことも。お前の話だと俺の息子達はお前に抱きしめられて死んだのだな。でも、そんなことが信じられるわけがない。お前が殺したアンファンとバンビーノは俺の後を継ぐ時期『黒の厄災の王』に1番近い存在であった。それが、人間ごときに殺されるなんてありえないのだ」


 「でも・・・本当なのよ。私が優しく抱きしめただけで死んでしまったの」


 「ありえない。俺達の体はどのような魔法も跳ね返し、どのような武器も破壊する無敵の毛で覆われている。そして、ダイヤモンドすら簡単に砕く鋭い牙と爪も持ち、人間などに絶対に負けることのない『黒の厄災』と恐れられているのだ」


 「おかしいですわ。オオカミさんの毛並みはモフモフで気持ち良かったはずですし、そんな鋭い牙も爪もなかったはず・・・あったのは優しく甘噛みしてくれる心遣いのあるお気持ちと、温かいふわふわの肉球だけでしたわ」


 「そんなはずはない!お前はどうやって俺の息子達を殺したのだ」


 「先ほども言いましたが、優しく抱きしめただけよ」


 「そんなことはありえない。無敵の毛で覆われている俺たちを抱きしめるなんて不可能なのだ」


 「それなら試してみましょう」



 私はヴォルフロードに近づいていく。しかし、ヴォルフロードは後ろへ後退していく。



 「そんなに怖がらなくてもいいのよ」



 私は手を差し伸べて笑顔で歩み寄る。



 「だめだ!近づくな。そうだ!俺について来い。本当にお前が抱きしめて息子達を殺したのか確かめることができるちょうど良いモノがある」



 私はヴァルフロードをハグするのは諦めて、ヴォルフロードの後をついて行く。



 

 「この大木を抱きしめてみろ!お前が本当に息子達を抱きしめて殺したのならこの大木をへし折ることができるだろう」


 「えっ・・・何で大木なんて抱きしめないといけないのよ」



 ヴォルフロードに案内された場所は、漆黒の森と言われる森の中心部に聳え立つ大きな大木の目の前だった。その大木の太さは直径2mほどあり高さは30mほどである。



 「黙って俺の言う通りにしろ」


 「わかったわよ。でも、か弱い女の子が大木なんてへし折れるわけがないわ」



 私はオオカミを二体殺した後ろめたさから、仕方なくヴォルフロードの言う通りに大木にハグすることにした。


 

 「いい香りだわ」



 私は大木を優しく抱きしめて、大木の発する自然の優しい香りを感じてホッコリした気分になっていた。



 『バリバリ・バリバリ』『バリバリ・バリバリ』『ズドーン』



 大木は私が抱きしめると激しい音を立てながら倒れてしまった。

 


 「私・・・なんて力持ちなのかしら!!!」



 私は自分が力持ちであることに気づいた。



 「もしかして、神様が私の願いを叶えてくれたのかしら」



 私が自分の怪力に気づいた頃、ヴォルフロードは体を震わせながら恐怖に慄いていた。


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[一言] 主人公より母のその後のほうが気になった
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