fifteen
秋月が無表情に語りかけた。悔しそうな視線を、一郎は楽しそうに話している二人へと向けた。その様子を、秋月は観察するように見つめた。国家公務員ではあるが、年齢的にもまだ二年ほどと言ったところだろう。特になにかの権力があるわけではない。おそらく、家は普通の一般家庭と思われる。ジョンと比べると、これと言って優れたところがあるわけではない。ただ、日本という国は捨てがたい。
秋月は、一郎とジョンを見比べた。個人で判断をするのなら、比べるまでもなくジョンである。だが、日本とアメリカで比べた場合、これは非常に悩むことになる。とりあえずは、このまま契約を伸ばし様子を見るのが一番だと結論を出した。
「しづきちゃん?」
突然、名を呼ばれて声のした方を見た。そこには、心配そうな顔をして覗き込んでいる弟の顔があった。
「大丈夫?」
不安そうな表情に、笑みを返した。
「少し考え事をしていただけ」
「それなら良かった」
嬉しそうな表情で答える。男という生き物はどうでも良いが、弟だけは可愛かった。肉親だからというのもあるかもしれないが、秋月に取っては、別のカテゴリーに存在する生き物だったのだ。
秋月は一郎を見た。スイーツに釣られている夏月は、ジョンをとても気に入っているようだが、日本との関係もしっかりとしたものにしておきたいと考える。
「えーと……岡田さん?」
「鈴木です」
無駄だと分かっていても、一応、一郎は自分の名字を教える。
「そうですか。それで話があるのですが、よろしいでしょうか?」
爽やかな笑みを浮かべ、誘いをかけた。
学校へ帰ってくると、急ぎ夏月は食堂へと向かう。
「みえちゃん!」
食堂にたどり着くとすぐに調理室へ向かい、目的の人物を呼んだ。すぐに、調理室から一人の女性が顔を出す。
「あらあら夏月ちゃん。もう帰ってきたのかい?」
「うん」
夏月は、目の前の肝っ玉母さんのような相手に花束を差し出した。
「これ、いつもオヤツをくれるからお礼」
ピンクを基調とした豪華な花束を差し出す。
「あらあらまぁまぁ」
驚きの表情を浮かべて花束を受け取った。
「こんな立派な花束を貰ったのは初めてだよ。ありがとうね」
嬉しそうな様子を見て、夏月はホッとした表情を浮かべた。
「すみません。いつも妹がお世話になっております」
丁寧に頭を下げる。
「稘 秋月と申します。妹が迷惑をおかけしたりしてませんでしょうか?」
「あ、あの……比嘉美枝です……」