three
なぜなのか、ハードカバーのものが多く、一郎とジョンは両手にいくつも紙袋を持っていた。本の重みが手にかかり、二人は時折、本が入った紙袋を床の上に置く。
「それにしても、まだ買うんすかね?」
「あの様子だと、そうだろうな……」
二人は秋月を見ながら、揃ってため息を吐いた。
「そういや、そろそろ昼っすけど、昼飯はどうするんすか?」
ジョンがそう口にしたとたん、夏月が振り返った。
「ごはん?」
今までおとなしく姉の後をついて回っていて、少し存在を忘れかけていた二人の視線が動いた。
「そうっす」
「なに? なにを食べに行くの?」
期待に満ちた視線を向けられ、ジョンは一郎を見る。
「何を食いに行くっすか?」
「とりあえず、個室を予約している」
「料亭っすか? 芸者っすね!」
嬉しそうにジョンが答えた。
「若い女性が、そんなところを喜ぶわけないだろ!」
「え? 先輩が選ぶところよりは間違いは無いと思うっすけど?」
若い女性の好むところなど、全く分からない一郎が、不敵な笑みを浮かべた。
「今回は、女性職員にアンケートを採ったので、間違いはない」
以前、秋月と夏月の制服を作るために採寸をしに行ったとき、一郎はなんの迷いもなく大衆的なハンバーガーショップへ入っていった。若い者が好きだ。それだけで店を決めていた。
「それで、何を食べに行くの?」
更に期待を膨らませた夏月が一郎を見上げた。
「イタリア料理です。女性にもの凄く人気のお店だそうです」
「先輩にしては、まともなところを選んだっすね」
ジョンの言葉に、一郎は満足げな表情を浮かべる。
「山本さん、ぽち」
呼ばれて、二人は秋月の方へと向かった。
「これ、お願いします」
両腕に抱えた本を二人に差し出し、極上の笑みを浮かべる。
「よろこんで!」
二人は揃って答えると、手にしている紙袋を置き、本を抱えてレジへと走っていった。
「夏月は? なにか必要なものはないの?」
秋月に問われ、夏月は考える。だが、何も思いつかず首を傾げて更に考えた。
「えーっとね……」
夏月は更に考える。考えている間に、一郎とジョンが紙袋を手にして戻って来た。
「どうしたんですか?」
夏月の様子を不審に思い、一郎が尋ねる。
「あっ!」
突然、夏月が小さく叫び、ぽんっと手のひらを拳で叩いた。
「僕、花子ちゃんにお土産買いたい。あと、アリーチェちゃんでしょ、それからノンノちゃん。それで、みえちゃんにも!」
「誰?」
最後の名前に、秋月が思わず疑問を口にした。