five
夏月は、軽くため息を吐いて困ったように天井を見上げた。
「アリーチェちゃんは、ぱそこん得意?」
「いえ……」
トーンダウンし、悲しそうな表情をしてアリーチェが答える。
「そうなんだ。僕と一緒だね」
沈んでいるアリーチェとは反対に、夏月は嬉しそうに笑った。他愛もない話をしていると、授業の開始を知らせる鐘が鳴った。教師が入ってくると号令がかけられ、起立、礼、着席と一連の動作が行われる。授業や生活に関しては、日本の学校を基本としているようだった。
授業中、夏月は何度もあくびをする。今日のことが楽しみすぎて、夕べは興奮し、あまり眠ることが出来なかったのだ。眠い目を擦りながら、なんとか授業を耐え抜く。授業の終わりを知らせる鐘が鳴り、教師が教室を出て行くと夏月は机に突っ伏した。
「ずいぶんと眠そうだったわね」
アリーチェは横目で夏月を見ながら話しかけた。
「うん……。夕べ、あんまり眠れなかったんだけど……」
その先の言葉を濁し飲み込んだ様子に、アリーチェは納得したように頷いた。
「さっきの授業、もの凄く眠くなるものね……」
「うんうん……」
机に突っ伏したまま、今にも寝てしまいそうな様子で夏月が答えた。その後の授業も眠さと戦いながらなんとかクリアし、昼休みになったとたん夏月の目と意識が覚める。
「アリーチェちゃん! ご飯だよ!」
勢いよく立ち上がり、夏月はアリーチェに期待に満ちた目を向けた。
「お昼は、朝と同じ食堂だから」
少し気圧されたように答える。それを聞いた夏月は、勢いよく手を差し出した。
「早く行こう!」
少し戸惑いながら、アリーチェはその手を取った。
「ごっはん! ごっはん!」
嬉しそうに歌いながら、夏月は朝と同じ席に着いた。食堂にはすでに生徒が到着しており、おのおの好きに過ごしている。
「アリーチェちゃん、ここね」
夏月は自分の隣の席をぽんぽんと叩く。少し夏月を見つめた後、アリーチェは指定された席に着いた。
「言われなくても、ここが私の席よ」
「あ、そうだったんだ。僕、知らなくて……」
「別に、今日が初めてなんだから知らなくて当然よ」
「うん、ありがとう」
屈託無く笑う夏月から、アリーチェは視線を反らした。
「夏月」
聞き慣れた声が、すぐ横から聞こえてきた。
「しづきちゃん!」
すぐに声のした方を向き、嬉しそうに相手の名を呼ぶ。
「どうだった?」
一人になった弟を心配し、様子を尋ねる。
「あのね、アリーチェちゃんに消しゴム貰った!」