three
「き、気軽に話しかけてこないでよね。敵同士なんだから!」
そう言いながら、少女は顔ごと視線を逸らした。
「ごめんなさい……」
言われてみればそうなのだと思い、落ち込みながら謝罪を告げる。
「べ、別に謝る事じゃないし」
そう言いながら、少女は夏月に視線を戻した。見るからに肩を落とし落ち込む姿が視界に入ってきた。
「アリーチェよ」
「アリーチェちゃん。あの、僕、話しかけないように頑張るから……」
「べ、別に話しかけるぐらいいいわよ」
「いいの? ありがとう」
今度は嬉しそうな夏月の笑顔が、アリーチェの視界に入る。
「あなた、日本人?」
「夏月だよ。えっとね。日本人とアメリカ人。両親の仕事の都合でアメリカに居たんだけど、学校に入るからって日本に来たんだ」
「所属はどっちなの?」
「所属?」
アリーチェの問いに、夏月は考え始める。考えるが、意味が分からず答えが出てこない。
「すみません。まだ、どちらとは決めていないんです」
秋月が助け船を出す。
「貴女の神は、それを良しとしたの?」
アリーチェの問いに、夏月は再び考え込む。そういえば、自分が代理を務める神は何なのかと考えるが、どんなに考えても浮かばない。
「しづきちゃん。僕の神様って何?」
秋月に視線を移し、そう尋ねた。
「聞いていない」
何度か一郎に尋ねたが、その度にはぐらかされていたのだ。
「ごめんなさい。分かんないみたい……」
アリーチェに視線を戻し、夏月が答える。すぐに、あきれたような顔を返された。
「なに? あんた、自分の神様知らないの? ちょーウケるんですけど」
蓮華が夏月を指さして笑う。
「しかも、今時、ぼくっ娘だし。マジウケルー」
「深大寺さん。もうすぐ食事なのでお静かに願います」
蓮華の横から、咲耶が窘める。
「はーい」
目の前に並べられていく料理を見つめながら、蓮華がふざけた感じで返事をした。
「そういえば、みなさんは自分の神様をご存じなのですか?」
秋月が尋ねる。
「はいはい!うち、日本仏教」
秋月に向かって勢いよく手を上げて蓮華が答えた。
「うち、家が寺だしさ。まーしょうがないよねって感じ?」
「日本神道です。深大寺さんと同じく、家が神社です」
「……アイヌ」
最後にぽつりとノンノが答えた。
「アリーチェちゃんは?」
「我が神は、主イエス・キリストただ一人」
アリーチェは再び胸の前で両手を組み、祈りを捧げる体勢を取った。
「みなさん、ご存じなのですね」