two
「ご希望はありますか?」
「プリンが入るやつ」
「かしこまりました」
会話が途切れ、三人は黙って歩く。だが、すぐに、夏月が口を開いた。
「花子ちゃんて、偉い人?」
「いえ。私は、ここの管理と皆様のお世話を任されているだけでございます」
「そうなんだ。偉い人かと思った」
「申し訳ありません」
なぜか謝罪を口にする花子に、夏月は不思議そうな視線を送る。それ以上、夏月が何かを尋ねることはなく、食堂へとたどり着いた。
食堂の中へ足を踏み入れると、そこは色彩の渦であった。色々な肌の色や髪の色。民族衣装にカジュアルな私服に制服と、何もかもが色とりどりであった。呆気に取られながらも、二人は案内された席に着いた。
並んで座る二人の向かいには、黒髪、巫女服の少女と、茶髪に派手なメイクをしたコギャル風な少女の姿があった。そして、夏月の横にはシスター服の少女、秋月の横には黒髪に普通の私服を着た物静かな感じの少女が座っている。
「はじめまして。稘 秋月と申します。隣は、妹の夏月です。よろしくお願いいたします」
極上の笑みを浮かべ、秋月が周囲へと挨拶をする。
「お願いします」
続いて夏月も軽く頭を下げた。
「蓮華でーす。よろしくー ってか、お兄さん、マジヤバくない? ちょー好み」
「すみません。姉です」
勢いよく手を上げてアピールする茶髪のコギャル風少女がまじまじと秋月を見つめる。
「天埜咲耶です。以後、お見知りおきを」
巫女服の少女が、丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いします」
同じように、秋月と夏月が返す。
「……ノンノ」
まっすぐ前を見たまま、秋月の隣に座るおとなしそうな少女が呟くようにそう言った。
「名前……」
間を置き、また呟くようにそう告げる。
「ノンノさん。これから、よろしくお願いします」
秋月が話しかけるが、特に表情や態度に変化がない。
「ノンノちゃんって、可愛い名前だね」
夏月がそう話しかけると、少しだけ表情が動いた感じがした。
「アイヌ語で花……」
短く、夏月に答えるようにそう口にした。その後、夏月は自分の隣に座る少女へ視線を移した。シスター服を着た少女は、胸の前で両手を合わせ祈りを捧げている。少女の祈りが終わるのを、夏月は黙って待つ。少しして、少女はゆっくりと目を開けた。
「あの……」
声をかけた夏月へと、少女は視線を向ける。
「僕、稘 夏月です。よろしくお願いします」