one
「すみません。ここは学校だと聞いてきたんですが……」
「はい」
階段を上る足を止めることなく、花子が秋月に答える。
「二階がそれぞれの居住スペース、一階が学舎となっております」
「なぜ、洋館なんですか?」
「靴を脱ぐ習慣の無い方が多いとのことで、と伺っております」
階段を上りきり廊下を歩いて行く間も、秋月は花子に話しかける。夏月は、物珍しそうに周囲を見ながら二人の後に付いて行った。
「こちらがお部屋です」
廊下に並ぶドアの一つの前で、花子が足を止めた。ドアのプレートには、夏月と秋月の名前が書かれていた。
「ありがとうございます」
二人が揃って礼を述べる。花子は丁寧に深々と頭を下げた。二人が部屋の中に入るまで頭を下げ続けているような様子に、慌てて夏月がドアノブに手をかけ一気に開けた。
「夕食は19時になります。時間前にお迎えに参ります」
二人が室内に入ったのを確認すると花子が夕食に付いての説明をした。
「はい。ありがとうございます」
礼を述べ、頭を下げ続けている花子を見ながら、夏月がドアを閉めた。
「ご飯、楽しみだね」
嬉しそうにそう言いながら、夏月は部屋を見回した。室内は、二人には十分すぎる程の広さだった。備えられている家具は少ないが、シンプルで質のよい物が最低限、置かれていた。夏月は、勝手に自分のと決めたベッドに腰を下ろす。秋月はチェストの引き出しを開け、中を確認している。先に送った必要な衣類などがきちんと納められていた。
他に必要な家具や物があれば手配して貰えるのだろうかと、秋月は考える。とりあえず、花子が夕食前に迎えに来ると言ったので、その時にでも尋ねてみることにした。
時計が18時50分を示すと同時に、ドアがノックされた。
「はーい」
返事をしながら、夏月がドアへ走った。急いでドアを開ける。
「ご飯?」
ドアの前の花子に、嬉しそうに夏月が尋ねた。
「はい。食堂までご案内いたします」
軽く頭を下げた後、花子が歩き出す。その後を、夏月が付いて行き、秋月がドアを閉め鍵の確認をしようとしたが見つからず、場所が場所名ため必要無いのかと勝手に納得をして二人の後を追った。
「すみません。家具とかは頼めば入れて貰えるのでしょうか?」
「はい」
秋月の問いに花子が即答する。
「では、本棚をお願いできますか?」
「デザインとかのご希望はありますか?」
「いえ。花子さんにお任せします」
「かしこまりました」
「あ、僕は冷蔵庫!」