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そう一郎が言い終わると同時に、玄関のドアが閉じられた。言葉の意味を理解し、秋月は慌てて靴を履き外へ飛び出したが、そこには既に二人の姿はなかった。
高い塀に囲まれた大きな門の前で、一台の車が止まった。運転席から一郎が降り、後部座席のドアへと向かう。一郎がドアを開けようと手をかけた瞬間、勢いよくドアが開く。急なことで一郎は避け損ない、もろに当たってしまった。
「失礼。伊藤さん」
「いえ……」
ぶつかった額を押さえ、ずれたメガネを直しながら一郎は平然を装った。あれから何度か電話で連絡があったが、肝心なことは何度尋ねてもはぐらかされ、今日を迎えてしまった。車中でも色々と質問をしたが後で分かるというだけで、苛立ちが限界に近い状態であった。
「疑問なんすけど、なんでかのじょはいつも鈴木の名字を間違えるんすか?」
助手席から降りるとすぐに後ろの後部座席のドアを開け、ジョンは夏月に尋ねた。
「間違えるんじゃなくて、覚えてないというか、覚える気がないというか……。しづきちゃん、男の人はどうでもいい人だから、あまり気にしない方がいいです」
「男嫌いってことっすか?」
「嫌いじゃなくて、どうでもいいという感じ……」
「つまり、GLの人ってことっすか?」
「じーえる?」
不思議そうな顔をして小首を傾げる夏月の側に、秋月がやってきた。白を基調とした制服姿の二人が並ぶ。
「なんか、マジパネェ美形な兄と妹って感じっすね」
スラックスの男子生徒の制服の姉と、スカートの女子生徒の制服の弟が並んでいても、特に違和感は無かった。
「そういえば、その制服、要望を受けてから急いで作ったのですが、お気に召していただけましたか?」
一郎が、怖じ怖じと尋ねた。
「悪くはないです」
素っ気なく、秋月が答えた。
「あ、そういえば、なんで僕はスカートなの? しづきちゃんと逆だよね?」
「そっちの方が夏月に似合うよ」
そう答えた秋月に対し、夏月は軽く頬を膨らまして抗議を示す。だが、秋月は特に気にかける様子もない。
「とりあえず、詳細は中で伺えるんですよね?」
まだふくれている夏月を放置し、秋月が尋ねる。
「あ、私たちは、この中に入れないんです。なので、詳細は中の人に聞いてください」
「そっす。男子禁制なんす」
二人の言葉に、秋月は考え込む。
「じゃあ、夏月はこの中には入れないのでは? これでも一応、男ですし……」
秋月はゆっくりと、視線を夏月へと移す。
「あ、たぶん大丈夫です」