nine
契約書とペンを持ちながら迫り来るジョンから逃げるように、夏月は後退る。
「えっと、あの……。僕は男なので結婚は無理……」
「大丈夫っす。同性でも余裕で結婚できるっす」
「Shut the fuck up!」
突然、響いた声にジョンがビクついた。そして声がした方を見る。
「かのじょ、口が悪いっすね……」
「えっーと、ポチ? があまりにもうるさいんで……つい……」
そう言い、秋月はさわやかな笑顔をジョンに向けた。
「ポチって俺のことっすか? きれいな顔できついこと言われるとたまらないっす。かのじょ、よかったら俺とけっこ」
最後まで言う前に、ジョンの顔面をクッションがふさいだ。
「黙れ! と言ったはずですが?」
「はい! 黙るっす!」
大きく手を上げ、ジョンはそう答えた。
「では、長谷川さん。続きを」
もう、訂正するのもめんどくさくなってきた一郎は、そのまま説明を続けることにした。
「添付されてきた情報は、今の我々ではまだ実現不可能なものばかりでした。それらの権利を手に入れることが出来れば、実質、世界を支配することが出来ます。なので、各国は一人でも多くの乙女をと必死になっていますが、宗教と国は切っても切れないというところが多く、なかなか上手くはいきません」
「そんな凄い情報と神様の代理と何の関係が?」
「バトルシステムとバトルフィールドの構築に必要なんです」
「そうですか」
あまり突っ込んだ事を聞いても分からないと思い、秋月はそこで話を終えようとした。
「分かりました。代理バトルには参加をするとして、条件があります。一つは、私も参加させること。もう一つは、所属どうこうは最後に決めさせていただきます」
「それでしたら、乙女にはバトルのサポートが一名付く事になっていますので、そちらで参加が可能です。所属の件に関しましては、上と相談しますので、後ほどでよろしいでしょうか?」
「分かりました」
秋月の返事を聞き、一郎とジョンは立ち上がる。
「それでは、長々とお邪魔しました」
揃って深々と頭を下げ、玄関へ向かって歩き出す。これでやっとやっかい払いが出来ると思うと、見送りに向かう秋月の足取りも軽くなる。玄関から出て行こうとする二人を、最高の笑顔で見送る。
「あ、それでは、入学の準備は、こちらで進めておきますね。ご両親からは許可を頂いていますので……」