4(完)
これで完結です
「『何もないはない』かぁ~」
「遥、なんか言った?」
「ううん、美咲。独り言」
私は今、美咲と一緒に新幹線に乗っていた。私の実家のある逆河市に帰るためだ。東京駅からこだまで1時間40分くらい。美咲にとってこだまで移動というのがまずびっくりだったらしい。
「え、こだまなの?のぞみとかひかりとかじゃなくて?」
「うん、だって逆河はこだましか止まらないから」
「そうなんだ」
「まだ新幹線とまるだけいいって」
「そっかあ」
美咲は新幹線の中でもはしゃいでいた。途中の静岡駅を少し過ぎたあたりで、富士山が奇麗に車窓から見えるポイントがある。そこは地形の関係からそれまで見えていた方向と逆から富士山が見えるので、さっきまで通路の反対の席の方で見えていた富士山が美咲の横で見えるようになったのが嬉しかったんだと思う。私もそれに付き合って写真を撮ったりしていたから、逆河駅についた時にはちょっと疲れていた。
「ふー。美咲、ここが逆河だよ」
「ここが遥の地元かあ~」
「私の実家はもっと駅から離れたところにあるけどね」
「うわあ~ロータリー広い。いいなあ」
「…聞いてないや」
そんな普段と比べてテンションが5割増しで高い美咲を連れて親の車を探すけど……車がない。
「――はあ?!」
「遥、どうしたの?」
「親が迎えに来れないって。もう、どうしよう。バス乗らなきゃ。ごめんね」
「全然いいって。バス停どこ?」
「あそこ。…あ、」
目的のバスは目の前で出発していってしまった。
「どうしよう…」
「なんで?次のバスまで待てばいいんじゃないの?」
「美咲、逆河をなめちゃだめだよ。次のバスは1時間後」
「え、1時間後?!」
「だから言ったじゃん、田舎だよって。まあ、申し訳ないけど親が迎えに来れないみたいだし、次のバスを待つしかないや。本当ごめん」
「しょうがないよ。でも、次のバスが1時間後ってすごいね」
「でしょ?まだこれでもましな方だよ。あのバスなんて1日に6便しかないからね」
隣のバス停を指さしながらそう言った。もうこうなったら田舎だって開き直るしかない。バス停横のベンチに座って1時間。これでも私達は女子大生なので話は沢山あるわけで。喋っていたら1時間はあっという間に過ぎていった。
「あ、このバスSUICA使えないから運賃無かったら両替してね」
「使えないの…!了解」
そんなことを話しながらバスに揺られること25分。駅では私たちの他に3,4人いた乗客ももう私達しかいなくなって、私は降車ボタンを押した。
「遥、本当にここ?全然家見えないんだけど」
目の前には一面の田んぼが広がっている。家はかろうじてぽつぽつと見えるばかりだ。
「一応ここが最寄りだよ。まあ、ここから1Kmくらい歩くけど」
「あと1Kmかあ。ここまで来たら近いのか遠いのか分からなくなってきた」
「だよね」
そんなことを喋りながら田んぼ道を歩く。
やっぱ何もないじゃん。城先輩はああ言ってたけどさ。
そう思いながら歩いていた私は、横を歩く美咲の顔を見て驚いた。てっきり遠くてうんざりしているかと思ったら、目をキラキラさせて辺りを見渡しながら歩いていたのだ。
「美咲、そんなここ面白い?」
「うん。だって、私こんな景色初めて見た。これが『田園風景』かあ。田園都市線なんて目じゃないね」
「初めて見たの?」
「遥だって知ってるでしょう?東京に住んでてこんな景色中々見れないって」
「――みつけた」
見つけた。すとんと心に落ちた。美咲はこの風景に感動するんだ。私にとっては『当たり前』で、だからこそこれは無いものとして扱っていたけど、違う人から見たらこれは十分『在るもの』なんだ。
なんだ。そうだったのか。城先輩、私分かったかも。
「美咲びっくりしたら」
「うん、びっくりした…って遥!方言!」
「うん、方言だよ」
「喋りたくないんじゃあなかったの?」
「なんかいいかなって。別に変じゃないら?」
先輩。何もないはなかったよ。私が気づいてないだけだった。ああ、早く先輩と方言で喋りたいな。
ありがとうございました。