3
関西弁違ったらごめんなさい。
あれから、私と美咲の距離感は少し開いた。別に仲が悪くなったわけじゃない。私があの時の美咲の言葉を引きずって、勝手にギクシャクしてるだけ。でもそれだけ美咲の「もっと方言喋ればいいのに」は私の中で大きく、未だに消化できていなかった。美咲もそんな私に再び同じ話を持ち掛けてはこなかった。
そんな私達に気づいていたのだろう。夏休みを間近に控えた7月の終わりのある日、城先輩とある話をした。
「なあ遥ちゃん。最近美咲ちゃんと上手くいってないん?」
「…別に喧嘩とかはしてないですけど」
「喧嘩はっちゅうことは、何かあったんやな?」
「まあ、はい」
「その顔は何かに悩んどるな?ウチで良ければ話聞くで」
「…いいんですか?実は――」
私は、城先輩にあの日のことを洗いざらい話した。電話のこと、美咲が言ったこと。私が思ったこと。そして、期末試験が終わったら一緒に実家に帰ること。あれから誰にも話していなかったことを、全部話した。
「――それで、私、美咲とどうやって接していいか分からなくなっちゃったんです」
「そんなんがやったんやな。ウチは方言ええなって思うけど、遥ちゃんはちゃうの?」
「だって、方言ってなんか田舎っぽいじゃないですか」
「ウチは大阪弁喋ってるけどな」
「大阪は都会だし、いいじゃないですか」
「ほな、遥ちゃんはおうちが田舎なんが嫌なん?」
はっとした。今まで無意識でしか気が付いていなかったけど…
「……そうかもしれません」
「ほな、話は難しくあらへん。遥ちゃんのおうちは静岡やっけ?」
「…?そうですけど」
「遥ちゃん、静岡は東京と比べて田舎やからなんもないって思ってへん?」
「なんで分かるんですか?」
「ウチもそない思ってたからやで」
「そうなんですか?!」
え、ちょっとびっくりだ。関西の人って自分に自信がある感じがするから、そんなことは思わないと思っていた。それに城先輩は大阪出身だ。大阪は東京に匹敵するくらいの大都市だし、私からしたらどっちも大都会なのに。
「びっくりした?」
「はい。だって大阪ってすごい都会じゃないですか」
「せやけど、東京と比べたら大阪かて負けるわ」
「でも、大阪はお好み焼きとか、たこ焼きとか美味しいものもいっぱいあるし、USJなんかもありますよね。静岡なんかと比べたら全然いいじゃないですか」
「遥ちゃん、そこやで」
「そこ、ですか?」
「おん。ウチは東京に来るまで大阪のいいとこさらさら知らなかったんやで。大阪弁かて初めの方は使わんやうにしてたんや」
「え、そうなんですか」
「せやで。そやかて、東京で大阪弁て目立つやろ?」
「まあ、それはそうですけど…」
「大阪は東京と比べてなんもないって思ってたから、自分に自信がなかったんやんな。せやけど、なんもないなんてあらへん。確かに、静岡は東京と比べて無いもんも多いやろけど、静岡にあってん東京にないもんも絶対にあるやん。『なんもない』なんてあらへんのや」
「何もないなんて無い…」
城先輩のその言葉が私の中に響いた。でも、静岡にあって東京にないものがあるのだろうか。その時の私には全くもって分からなかった。
考え込んでしまった私に先輩はこう言った。
「ウチも気が付いたんは最近やからな。こんどおうちに帰るんやったらその時にじっくり探せばええやん」
そうかもしれない。ちょっと帰省のモチベーションが上がった瞬間だった。
ありがとうございました。