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「ねえ、遥の地元って静岡だよね?」


夏休みが近づいたある日、そう聞いてきたのは同級生の足立美咲だ。東京出身で実家暮らしの彼女とは入学後すぐに仲良くなり、大学内だけでなく休日にも一緒に遊ぶ仲になっていた。


「そうだけど…それがどうかした?」

「遥、夏休みのどこかで帰省するでしょ?そのときに私も一緒に行きたいなぁ、なんて」

「別に私はいいけど…美咲こそ私の地元なんかついてきて本当にいいの?」

「なんで?」

「だって…何もないよ」


東京に来て3か月。ますます私の地元である静岡に対する劣等感は高まっていた。駅に行けばすぐに来る地下鉄。お店のバリエーション。お洒落な飲食店。そして、たくさんの人。東京なら静岡と違って欲しいものはすぐに手に入る。

そんな東京と静岡なんかを比べることがおこがましい。そう思っていた。


「いいじゃん。私、静岡もいいところだと思うけどなぁ~。富士山あるし、食べ物も美味しそうだし」

「富士山見えるって言っても私の実家は近くじゃないから余り見えないよ。スカイツリーの上からの方が良く見えるかも」

「え~そうなの?」

「そうそう。ホントに私の実家は観光地でも何もないし、ただの田舎だって。それでもよかったらお母さんに聞いてみるけど…」

「いいの?!お願いします、遥!」


はぁ、なんで美咲がそんなにあの田舎に関心を持つのか分からない。東京で遊んでた方が絶対楽しいのに。

まあ夏休みには実家に帰らなきゃだし、とりあえず電話してみるか。


『はい、堀内です』

「――もしもしお母さん?遥です」

『あら遥。元気にしてた?』

「うん、元気。お母さんたちも元気?」

『こっちも皆元気にやってるわ。それで遥、今日はどうしたの?』

「えーっと、夏休みのことなんだけーが…」

『ん?遥こっち帰ってくるって言ってたじゃん?帰ってこれんくなった?』

「違う違う、そうじゃなくて。こっちの友達で足立美咲って子がいるだけんど、美咲が夏休みうちに来たいって」

『あら、お友達?東京からこっちじゃあ何もないかもだけどいいの?』

「うん、私もそう言ったけどいいって」

『それならうちは構わないわ。お父さんも絶対喜ぶし』

「じゃあ詳しいことはまだ決めとらんで、決まったらまた連絡するわ」

『分かった。じゃあまた帰ってくる日決まったら連絡頂戴な』

「うん…じゃあね」


電話を終えて、待っていた美咲に報告した。


「お母さんいいって」

「本当?やったー」

「そんな喜ぶことじゃないって」

「そんなことないよ。だって遥の地元だよ。超気になる。私静岡初めてだし」

「静岡初めてだったら、もっと熱海とか伊豆とかそっちの方がいいのに」

「いいのいいの!…あ、そういえばさ」


美咲が話題を変えた。


「さっき遥が電話で喋ってたのって、あれ方言?私、遥が方言喋ってるところ初めて聞いたかも」


え。私さっきの電話、方言喋っとったの。あ、今のも方言じゃん。

そんなしょうもない事が頭の中をよぎる。今まで方言出ないように注意してたのに。もう、今までの苦労が水の泡だ。東京にいて、家族もいないからかあまり気にしなくても良くなってきたなあって最近思ってたのに。家族との電話だからって気を抜きすぎた。はあ~、私のバカ。


「――か、遥ってば!もうどうしたの?さっきから全然返事しないで。どうかした?」

「あ、ごめん美咲。ちょっと考え事してて」

「考え事?」

「うん。……あのさ、さっきの私、そんなに方言出てた?」

「さっき?…ああ、電話の時のこと?」

「そう」

「別に、語尾とかイントネーションとかがちょっと違うかな~ってくらい?いつもあんな感じで話せばいいのに」

「なんで?方言なんてなんか田舎っぽいじゃん」

「いいよ方言。かわいくて」

「かわいい?どこが?」

「だって、遥は方言の方が昔から喋ってた言葉なわけで、要はネイティブってことでしょ?電話の時の遥めっちゃいい感じだったよ」

「えーそうかなぁ」

「そうだって。今度から方言で喋ってよ」

「んー、考えとくね」

「それ絶対やらないやつでしょ」


結局、流してしまった。方言の方がいいだなんて、東京人は変なことを考えるもんだなあ。いい感じって、周りに方言の人あまりいないからでしょ。そもそも美咲は出身東京だから地方出身の気持ちが分かってないんだ。絶対みんな苦労してるに決まってる。

その日はちょっとモヤモヤしたまま美咲と別れた。

ありがとうございました。


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