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「じゃあ遥、私達は帰るけど…」
「しっかりやるんだぞ」
父と母は玄関先でそう言った。見送る私の後ろには申し訳程度に荷ほどきされた部屋がある。まだ大半の荷物が段ボールに詰め込まれているこの部屋で、今日から4年間生活するのだ。
「大丈夫だよ、私だってもう大学生になるんだし」
そう私は答えた。
「3食ちゃんと食べるんだぞ。あと、なんかあったらすぐに帰ってこい」
「あなた、そんなこと言って。すぐに帰ってきてほしいのはお父さんの方でしょう。でも遥、無理しちゃだめよ」
そんなことを言いあっている両親にうん、と返したものの私は必要以上に帰省しようとは思っていなかった。そのために地元にも同じような系統の大学があったにも関わらず、わざわざ東京の大学に進学したのだ。
父と母がいなくなった部屋で、私は初めての一人の夜を迎えた。何となく音がしないのが気になって、繋げたばかりのテレビの電源をつけた。知らない、地元では放送していない番組だった。
…そうだ、何一人になってしんみりしちゃってるの。私は東京に住みたくて進学したんでしょうに。東京にはお洒落なお店もかわいい服もいっぱいある。今からSNS調べて行きたいところ探そう。バイトもして、大学生を謳歌するんだ!
引っ越してから1週間がたった。私は初めての東京暮らしを楽しんでいた。それと同時に自分の田舎臭さに少し引け目も感じていた。ファッションやメイクはこの1週間で大分良くなったと思っている。しかし、方言だけは治らなかった。店員さんと話している時は丁寧に話すから問題ない。でも、独り言で勝手に出てくる方言や、ほかの人と自分のイントネーションが違うなあと意識する瞬間、自分はいつまでたってもあの田舎出身だということは変わらないことを嫌でも実感させられた。
「城先輩って関西弁喋ってますし、関西出身ですよね?」
「そーやで。ウチ、実家が大阪やねん。遥ちゃんは出身どこなん?」
「……静岡です」
「静岡かあ~。ええとこやなあ」
「…ありがとうございます。何もないとこですけれど」
サークルの新歓で一緒になった城先輩はザ・関西人という感じの喋り方をしている。
関西弁っていいな。こうやってすぐに話のタネになるし。あと、イントネーションがちょっと可愛いのもいい。
その点静岡は微妙だ。標準語みたいなイントネーションをしている癖に、語尾だけ「~だら」とか「~だに」とかついたって田舎臭いだけだ。自分が話しているのが方言だっていう認識も薄いから、ふとした時に指摘されて気づくことも多いし。やっぱ不便だ。
ありがとうございました。
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