レッスン二、実技
翌日、再びアメッサの医務室へ。
トーパとアメッサは、既に揃っていた。
アメッサが、膝の上のウルフの子の手を振った。
「やぁ、今日も良いレッスン日和だね。」
「レッスンに天気なんて関係あるの?」
「気分だよ。気分。あるよね? そういうの。」
はいはいと軽く流したアメッサ。
トーパ的には、天気が良い方が良いらしい。
その話を聞きながらも、昨日の椅子に座った。
これで全員が揃った。
トーパが、授業を始める。
「ともかく、今日のレッスンを始めるよ。今日のレッスンはこれ。生活環境だよ。」
「生活環境?」
「そ。身だしなみだね。自然で生きてるから、泥まみれになるのが当たり前だけど、毛並みを気にする種族なんだよね。この子もよく自分の毛を整えているよ。」
「じゃあ、綺麗にしてあげる方法を教えてくれるんですね。」
「そうそう。私達がやっている事を今日は君にやってもらうからね。」
一緒に過ごすには、身だしなみにも気を付ける事も大事。
人と獣が生活するという事は、そういう事なのだ。
トーパが、移動する。
「じゃあ、こっち来て。」
「え? あっはい。」
向かった先は流し台。
色々な薬品が並べられている。
そこに、ウルフの子を置くアメッサ。
トーパが水温を調節する。
「よし。こんなもんかな。セシル君、これ持ってね。」
蛇口を持たされるセシル。
すると、トーパがお湯を出した。
蛇口の先から勢いよくお湯が出る。
「そのまま、ウルフの子の頭に思いっきりかけちゃってね。」
「あっ。足の包帯は水を弾くから大丈夫だけど。直接かけないでね。」
言われた通り、ウルフの子の頭にお湯をかけるセシル。
ウルフの子は、降り注ぐお湯に耐えている。
すると、トーパが指示を出す。
「首や体を揉むように洗ってあげてね。気持ち良いらしいよ。」
「そうだね。普段からもそういう所を揉んであげるといいよ。」
「基本、そうやって交流を深めるのがいいんだよ。」
言葉が通じないなら、体を使って気持ちを伝えれば良い。
そうやって、気持ちを伝えて絆を深める事が共に生きるという事だ。
すると、アメッサが薬品を投入。
ウルフの子が泡立ってきた。
「そのまま続けてね。出来たら、水をかけてあげてね。」
そのまま泡を立て、揉んでいく。
しっかりと揉んであげると、ウルフの子は気持ち良さそうにしている。
上だけでなく、足も洗ってあげる。
そして、水で泡を流す。
しばらくそうしていると、トーパがお湯を止めた。
「よーし、こんなもんだね。汚れがある時は、しっかり落としてあげてね。」
トーパが蛇口を閉めると、アメッサがウルフの子をタオルで包む。
そして、隣の台に移した。
その場から離れて、セシルに譲るアメッサ。
「今度は、しっかりとタオルで拭いてあげてね。」
「セシル君も服が濡れたままなんて嫌だよね? それはこの子も同じなんだよ。だからしっかりと拭いてあげてね。」
人間は服を変えられるが、ウルフの子はそうはいかない。
ちゃんと拭いてあげないと、ずっとそのままなのだ。
言われた通り、しっかりとウルフの子の体を拭いて水分をとってあげる。
しっかりと拭き終わるとアメッサが確認する。
「はい。しっかりと拭けてますね。濡れたらちゃんと拭いてあげる。分かりましたね?」
「はい。分かりました。」
「では、ご褒美にこれをあげよう。」
懐から何かを取り出すトーパ。
畳まれたくしだ。
それを、セシルに渡した。
「これで、この子の毛並みを整えてあげてね。」
「それ、この子用に作った奴で、お気に入りって言ってたやつじゃ。」
「これは、支給品だよ。私のはちゃあんとあるよ。」
もう一つの同じ形のくしを懐から取り出したトーパ。
配るようのやつだから、あげても良いらしい。
すると、セシルが質問した。
「この子用? わざわざ作ったんですか?」
「当然。馬用のなら沢山あるんだけど、違う毛並みに使えないからねぇ。」
「まさか、配るようのを用意するとは思わなかったけど。」
「思ったらすぐ行動。研究者のサガみたいなものだよ。」
「それはまぁ、否定できないけど。」
アメッサもまた同じという事だ。
だけど、そのお陰でこうやって助けて貰っている。
という事で、早速ウルフの子の毛にくしを通していくセシル。
「全身くまなくね。そう。優しくゆっくり。」
「さっき言った気持ちいい箇所も、しっかりと通してあげてね。」
言われた通りにくしを通していく。
ウルフの子は、気持ち良さそうにしている。
すると、毛並みがふんわりと輝いてきた。
トーパがその毛を掬う。
「この毛、凄いよねぇ。抜けたのがあったらちょうだいね。」
「はいはい。ほどほどにしてね。ちなみに、洗うのは拠点に帰ってからで、無理に毎日洗わなくてもいいよ。」
「匂いにも敏感だからね。この子自身の匂いを流しすぎちゃうのも良くないんだよ。」
「そういうものなんですね。」
匂いと汚れは違うという事だ。
とにかく洗えば良いというわけではない。
くしを通し終えるとウルフの子は寝むそうにしている。
アメッサがその頭を撫でた。
「ふふっ、もう寝て良いよ。」
それだけで、あっという間に寝てしまった。
丸まって寝息をたてる。
トーパがウルフの子の首をつついた。
「気持ち良さそうにして寝るよねぇ。」
「そうだね。それほど気持ちよかったんだね。」
「という事で、今日のレッスンは終了。明日、リハビリついでに最後のレッスンをするからまた来てね。あ、昨日あげた笛を持参で。」
とうとう明日、糸を抜く。
つまり、一緒に動けるというわけだ。
別れを告げて研究所に戻る。
その翌日。
医療室に向かうと、その前にアメッサとトーパがいた。
アメッサの腕にはウルフの子がいる。
「やぁ、今日の天気もレッスン日和だね。」
「今日ばかりはそうだね。雨じゃなくて良かったよ。」
「外でするって事で良いんですよね。」
「そうだよ。最後のレッスンは一緒に過ごして貰う、だよ。」
一緒に過ごす。
つまり、実際にどう一緒に過ごすのかを見るという事だ。
トーパが説明する。
「この横にテントを張って、そこで過ごして貰うよ。ちなみに、これから与える試練をこなせば食材がアップ。ゲームみたいで楽しそうでしょ?」
「何かあったら私達が動きますから。安心して下さいね。」
「じゃあ、早速試験の内容を言うよ? まずは、行って来いと帰って来いを覚えさせる。だよ。まず、それが分からないと学校の授業が出来ないからね。」
この二つの指示は、大前提なのだろう。
でもやり方が分からない。
トーパが説明する。
「まずは、この子を離すから笛で呼んで見て。ちなみに長く吹いてね。」
「じゃあ、離すよ。」
アメッサがウルフの子を離すと、セシルに向かって駆け出した。
すると、とことこ嬉しそうにセシルの下に向かっていく。
笛を取り出したセシルは、笛を長く吹いてウルフの子を迎え入れた。
撫でてあげるとワンと吠えた。
トーパが許可を出す。
「良いよ。今度は笛を吹きながらこっちに来てねー。」
「あっ。ゆっくりで。」
笛を吹きながら走り出す。
後ろを向くと、ちゃんとついて来ている。
そして、二人の下にたどり着いた。
アメッサがウルフの子の頭を撫でる。
「出来たら撫でてあげてね。」
「誉めるのも、覚えさせるのに重要なんだ。じゃあ、もう一回。」
再び、笛を吹きながら走り出す。
先程までいた場所へと戻ってくる。
後ろを向くと、ちゃんとついて来ていた。
今度はセシルが頭を撫でる。
「よーし。もう一回。」
それから二度、同じ事を繰り返す。
その間、二人は何かメモを取っていた。
そして、トーパが止める。
「良いよ良いよ。じゃあ次は、これを使って。」
セシルにボールを渡すトーパ。
素材は柔らかく指が沈む。
トーパが説明する。
「じゃあ、一回だけ、ぴって吹いてこれを投げてね。」
「ちょっとで良いんですね?」
「そうそう、ちなみに飛ばしすぎないでね。」
笛を軽く吹いてボールを投げてみるセシル。
投げるといっても、軽く放るぐらいだ。
すると、ウルフの子が飛びかかった。
ボールを抱えて噛みついている。
トーパがそれを見とれている。
「良い。何でカメラを持ってきてないのか。」
「トーパ?」
「おっと。じゃあ長く吹いて呼んで見て。」
笛を吹くと戻ってきた。
ボールを持って、とことこ歩いて戻ってくる。
成功だ。
ボールを受け取り、頭を撫でるセシル。
「良いね。もう一回。」
再び笛を吹いて投げる。
ウルフの子は、また飛びかかった。
ボールにしがみつく。
そこで、長く吹くと戻ってきた。
ボールを受け取り、頭を撫でる。
「お利口ですね。」
「当然だよ。元々、群れのボスの指示を聞いて動く種族だからね。これぐらい出来て当然なんだよ。と、仮説を立てたけどその通りだったね。じゃあ、もう一回お願いね。」
それからまた二回、同じ事を繰り返す。
どうやら、ちゃんと覚えたようだ。
二人はまた、メモを取っている。
そして、トーパが止めた。
「順調だよ。仮説通り、指示にしたがっている。」
「そうだね。後は、どれくらい優先して動けるかだけど。」
「まぁ、後でいいっしょ。という事で、試練の一つ目はごうかーく。」
「良かったです。」
「それじゃあ、休憩。もとい、傷口を見るからね。セシル君も来てね。」
ウルフの子を抱えたアメッサが台の上に置いた。
仰向けになるように寝転がせる。
そして、ボトルを出してセシルに渡す。
「傷を見てる間、水をあげてね。」
「えぇと、どうすれば。」
「取り合えず、ボトルの横を押し込んでみて。」
言われた通りにしてみると水が出た。
口の奥にかかるそれを飲んでいく。
しかし、沢山の水が溢れてしまう。
トーパがそれを見て悩み出す。
「初めてボトルで飲ませてみたけど飲み辛そうだね。」
「口の形からして難しいのかな。」
「ふむふむ。なるほど、そういう事か。」
何かひらめいたのか、トーパは頷いている。
そして、アメッサが傷口を見終えた。
「問題なし。次の試練にいっても良いよ。」
「りょうかい。次の試練は、初めてのご飯作り、だよ。横にある、調理台一式を用意しておいてね。」
「ちょうど昼時だからね。こっちにあるから。」
アメッサの指示に従い、道具を取り出していく。
台の上に板を。
そして、岩で円を作りその中に木を置いていく。
「よいしょっと。そっちの準備は出来た?」
「出来たよ。」
医療室に入ったトーパが箱を取り出した。
それを開けて取り出すと、沢山の魚が入っている。
そのうちの一匹を取り出した。
「はい。これ。」
「切れば良いんですか?」
「そうだよ。真ん中の骨から切り離すようにズバッと。」
ナイフを取り出したトーパ。
お手本として、片方の肉を削ぎ落とした。
そして、セシルに場所を変わる。
「こんな風にすれば良いから。」
「やってみます。」
同じように切る。
上手く出来たようだ。
トーパがそれを棒に指した。
「なかなか良いね。昔、やってた?」
「昔、村で獣を解体してましたよ。」
「クレハ村でしたっけ。流石、職人の村出身ですね。」
工芸品は作っていなかったけどナイフで切る技術は教わってある。
それが、役に立ったという事だ。
すると、トーパに棒を持たされる。
「少しで良いからね。身を少し焼く程度で。」
トーパが木に火をつけてその中へ。
魚の身の色が変わった程度で火から離す。
「アメッサ。お願い。」
「はーい。」
棒を受け取ったアメッサは、先の魚を落とす。
そして、スプーンでほぐしていく。
魚の身は潰れて、ミンチになる。
「問題なし。良いよ。」
「本当ですか? これ、結構得意かも。」
「頼りになるねぇ。それじゃあ、試練は合格って事で。」
二つ目の試練も無事終了。
自分達の魚を焼いていく。
次の試験に向けて腹ごしらえをする。
基本、犬と同じ感じに扱います。
違う所もありますが、ウルフだからという事で(言い訳)。




