牙を剥く自然の脅威。
歩く先に森が見えてきた。
ナイルが皆に聞いた。
「森か。どうする?」
「大鼠は、森に巣を作る。たぶん、この先にあると思う。」
「私もここで間違いないと思う。」
「おっしゃあ。じゃあ、さっそく行こうぜ。」
我先にと森に入るナイル。
他のメンバーも後に続く。
先は、樹で隠れて見えない。
立ち塞がる樹を避けて先へ進む。
終わらない樹に、ナイルが疑問を持つ。
「本当に巣なんてあるのか? 空間すらねぇぞ。」
「あるはずだよ。たぶん。」
巣があるから大鼠の子供が現れたのは間違いない。
しばらく進むと、セシルが立ち止まった。
空を見上げている。
それに気づいた皆が、セシルを見る。
ペータがセシルに声をかけた。
「どうしたんだ。」
「臭いが。」
「臭い。確かにするけど。」
臭いが気になるセシル。
なにせ、前に嗅いだ事があるからだ。
そう、血の臭い。
セシルの代わりにシェルが答える。
「血の臭いか。」
「何だって!? そうなのかセシル。」
「間違いないと思う。でも、場所が分からない。」
間違いないなく、臭いがするのだ。
でも、辺りに充満して出所が判らない。
姉妹も同意する。
「うむ、獲物を解体していた時に嗅いだ臭いと同じだな。」
「そういえばそうだね、解体小屋の臭いがいつもこんな感じだったんだよね。」
「じゃあ、この辺りか。シェル、場所は分かるか?」
ナイルがシェルに聞いた。
首を傾げながらも先頭に出るシェル。
道を変えて先に進んでいくと広間に出る。
そこにある光景に一同が呆気にとられた。
「ここなのか、って何だあれは。」
「虫がたかっているね。でもあれは。」
ナイルの疑問にルイが答える。
まさに、何かの物体にたかっているようだが、虫が邪魔で分からない。
広間にナイルが出た。
「虫なんて追っ払えば良いだろ。」
「ちょっ、少しは周りを警戒して。」
ナイルを追ってラックも出る。
仕方ないので他のメンバーも出た。
たかっている虫を追い払うナイル。
「おらぁ、邪魔だぁ。」
「俺達も払おう。」
他のメンバーも、虫を斬って追い払う。
軽く短剣で斬っただけで、多くの虫が逃げていく。
段々と、隠れていた物があらわになっていく。
それは、本来倒すべきだった大鼠の親だ。
「何だよ、既に倒されてんじゃねぇかよ。」
その正体に、落ち込むナイル。
やっと戦えると思ったらこの有り様だ。
シェルが死体を確かめる。
「この臭いの正体はこいつで間違いない。」
「じゃあ、俺達の役目は終わりって事だ。」
「そりゃあ、無いぜ。」
「残念だったね。役目が無いなら、もう帰ろうか。」
ラックがナイルを励ます。
本来倒すべき相手はもういない。
ならば、足止めの必要もない。
立ち去ろうとした瞬間だった。
シェルが皆を止める。
「待て。」
「どうした?」
「こっちに何か来ている。」
ペータが聞くと、シェルがそう答える。
さっきの襲撃の事もあるので、一同は警戒をする。
確かに、虫の羽音が近づいてくる。
ナイルがシェルに聞いた。
「虫の羽音か?」
「いや、ただの羽音じゃない。」
シェルが言った。
羽音は、他のに比べて大きい。
すると、スイが叫んだ。
「こっちだっ。」
スイが見ている方に視線が集まる。
その先の樹の奥から、他よりも大きい虫が現れた。
それに向けて構える一同。
「なんだよこいつ。こいつらの親か?」
「虫の群れは、他の子供も混ざるからボスの方が正しいよ。」
「へぇ。って言ってる場合かよっ。」
ナイルの疑問に、ラックが答える。
しかし、虫のボスは既にこちらを見ている。
ペータが、ナイルに言う。
「どうする?」
「どうするっつったって。よぉっ!?」
急に、ボスが突っ込んできた。
対処しきれずに、先頭のナイルが吹っ飛ばされた。
空を舞うボスは、もう一度突っ込んできた。
ペータと、シェルが受け止める。
「くそっ。」
「押されるっ。」
勢いと重さで増した突進の威力は大きい。
段々、押し潰されていく。
すると、姉妹が同時に飛び出した。
「「そのままでっ。」」
押し潰そうとするボスを左右から斬った。
地面に倒れるボス。
解放されたペータが追撃を入れようとするが、空に逃げられる。
ペータとラックが悪態をつく。
「ちくしょう。」
「これじゃあ、届かねぇぞ。」
空にいるため、短剣じゃ届かない。
一人を除いて。
ラックが叫んだ。
「セシル、お願い。」
「はいっ。」
「皆はセシルを囲んで。」
それぞれ、返事をしたメンバーは、セシルの周りに集まる。
セシルに背中を向けるように周りを囲み、ボスを迎え撃つ。
真ん中のセシルは、空のボスに向けてボウガンを撃っていく。
だけど、当たらない。
「くっ、自在に動いて当たらない。」
「落ち着け、焦らなくて良い。」
「おぅ、いくらでも守ってやるから安心しな。」
ペータとナイルが、セシルを落ち着かせる。
その間にも、ボスが勢いをつけ突っ込んでくる。
それを、ナイル、シェル、ラックの三人で押し返す。
そこに、ボウガンの矢が飛ぶも当たらない。
「よっしゃあ、三人でなら何とか行けそうだぜ。」
「でも、当てれないっ。」
「細かく動いてるからな、向かう方向さえ分かれば。」
スイの言う通り、左右自在に動くので、偏差射撃が狙えない。
だけど、その言葉でセシルが作戦を閃いた。
ポーチから玉を出す。
ペータが聞いた。
「何する気だ?」
答えず、近くの樹に投げた。
直撃した玉から煙が出る。
いつもの、普通の煙だ。
上に昇った煙は、空を覆う。
「こっち。」
「なるほど、セシルを追うぞ。」
駆け出したセシルを追って、樹の下に移動する。
樹に背中を預けたセシルを中心に、半円で周りを囲んだ。
セシル以外は、しゃがんで待機。
すると、ボスが降りてきた。
「予想通り。」
見えなくなったので、降りてきたのだろう。
しかし、こっちは羽音で場所が分かる。
姿を現した瞬間、ボウガンの矢が刺さった。
吹き飛ぶボス。
「もう一発。」
今度は、長い矢を飛ばすと、ボスに命中。
ボスを貫いた矢は、ボスごと飛んで後ろの樹に刺さった。
暴れるボスだが、動けない。
「止めは貰うぜっ。」
駆け出したナイル。
斬りかかるも、直前で抜け出し空へと逃げた。
空を斬る短剣。
セシルが謝る。
「ごめん。浅かったっ。」
「気にすんな。どっちみち、あれをぶら下げたまま飛べねぇだろ。」
ナイルの言う通り、最初の矢は刺さったままだ。
重いのか、傷が深いのか、飛びづらそうにしている。
実際、高度もそんなにない。
姉妹が指摘する。
「落ちてきているな。」
「動きも遅いね。」
「そんじゃあ、今度こそ止めは貰うぜ。」
必死に浮こうとするボスに、ナイルが斬りかかった。
次の瞬間、樹から飛び出した何かがボスを突き刺した。
とっさに引いたナイル。
「何が起こったっ。」
とっさの事で、ナイルがしりもちをついてしまう。
唖然として、ボスを突き刺したそれを見ている。
他のメンバーも同じく見ている。
それは、長い紐状の物。
しかも、赤色で生々しい。
「ナイル下がれっ。」
「分かったっ。」
ペータに言われた通りに急いで下がる。
そんなナイルを庇うように立つ他のメンバー。
すると、紐がボスを持ち上げた。
そのまま、樹の奥につれていく。
警戒を強める一同。
「どうする?」
「どうって。隙を見せたら次は俺達だぜ。」
ペータの質問にナイルが答える。
あの早さには、誰も気づけなかった。
動きを見せたら、狙われる。
そうすると、一瞬で終わる。
セシルが提案する。
「ゆっくり下がろう。」
「それが、良いな。」
「それじゃ、ゆっくりだよ。」
姉妹が同意する。
ゆっくりと、音をたてずに下がっていく。
すると、ラックが虫に引っかかり後ろにこけた。
「痛っ。」
「ラック!?」
大きな音が出てしまった。
次の瞬間、飛び出した紐状の物がラックに迫る。
気づいた時には、すぐ側まで迫っていた。
「しまっ。」
悪態をつく暇もない。
紐状の先端が、ラックに向かう。
すると、衝撃音と共に紐状の物が弾け、すぐ横の土に刺さった。
「えっ。」
直撃はしなかった。
しかし、恐怖で声が出ず固まっているラック。
スイが、ラックの前に落ちたボウガンの矢に気づいた。
「セシルか?」
見ると、セシルは、ボウガンを構えていた。
そして、新しい矢を装着している。
安堵の表情をしているセシルが言った。
「間に合った。」
紐が飛び出た瞬間。
皆がラックを見ていたのに対して、セシルは紐を見ていた。
咄嗟に撃ったのが、紐状の物に当たって軌道をずらしたのだ。
安心したのも束の間、紐状の物が元の場所に戻っていく。
その代わりに、舌を伸ばした大とかげが出てきた。
紐状の物は、大とかげの舌だったのだ。
スイが叫んだ。
「モンスターっ。何でこんな所に。」
「まずいっ。俺達が敵う相手じゃないっ。」
ペータも叫ぶ。
構えるペータだが、一瞬で短剣がへし折れた。
「えっ。」
いつの間にか舌が迫っていたのだ。
へし折れたのに気づいた瞬間、ペータの体は宙を舞っていた。
もう一度、ラックに舌が迫るが、シェルが割り込んで軌道をずらす。
「させん。」
しかし、あっと言う間に吹き飛ばされた。
今度は、姉妹が舌に攻撃を仕掛ける。
「ルイっ。」
「分かってるよ。」
しかし、かわされて吹き飛ばされる。
吹き飛んだ者は、全く動かない。
「ふざけんなよっ。」
ナイルが叫んだ。
動けるのは、セシルとナイルだけ。
たった、一瞬の事。
しかも、相手は全く動いていない。
少し舌を振るっただけで、この有り様なのだ。
やけくそぎみに駆け出したナイル。
「くそがっ。」
舌を潜って大とかげに突っ込む。
それに対して、一度舌を戻す大とかげ。
ナイルに向けて舌を振るうが、はじかれる。
セシルのボウガンだ。
「ありがとよっ。」
セシルの援護を察したナイルが、大とかげの懐に飛び込んだ。
大とかげに向かって短剣で斬りかかった。
しかし、刃は皮膚を通さない。
「ちくしょうがっ。」
舌で吹き飛ばされる。
大とかげの前に落ちたナイルは、地面を転がる。
そのナイルに、無慈悲にも舌の先が向いた。
「させないっ。」
ボウガンを大とかげに向けるセシル。
その横を影が通り抜けた。
ナイルが目を閉じる。
「皆、すまん。」
覚悟を決めるナイルに何かが覆い被さった。
そして、悲鳴。
目を開けると、自分の上にラックがいるのが分かった。
血が、お腹の横から垂れている。
「ラック。どうして。」
「気づかれたのは僕のせいだから。」
「何言ってんだ。傷は、大丈夫なのか?」
「うん。セシルが逸らしてくれたから。でも。」
痛みで、言葉がつまる。
一呼吸して言う。
「捕まっちゃった。」
「なっ。」
ラックの足を見ると、舌が巻き付いている。
そして、少しずつ引きずられていく。
無理に体を起こしたナイルが、足を掴んだ。
「くそっ。話せっ。」
一緒に引きずられるが、掴める力も少なく手を離してしまう。
そして、ラックが宙に持ち上げられた。
ナイルが叫んだ。
「ラァック!!」
ラックが、舌と共に口に運ばれていく。
次の瞬間、矢が舌を貫き樹に刺さった。
セシルのボウガンの矢だ。
舌の収納が止まる。
ナイルの前に、セシルが立った。
「セシル。すまねぇ。」
「大丈夫だよ。」
不思議と恐怖はない。
何故なら、聞き覚えのある竜車の音が迫っているから。
ボウガンを向けるセシル。
それに対して、舌を引っ張るのを止めた大とかげがセシルを見る。
セシルに突っ込んだ瞬間、大とかげの顔が爆発した。
広間に聞き覚えのある声が響いた。
「ひーーっと。最っ高っ。」
「なるなぁ、俺も負けてられんっ。」
その直後、影が飛び出し鉄の塊を、大とかげの顔に叩き込んだ。
大とかげの体が、横に吹き飛んだ。
更に、舌に叩き込む。
舌がちぎれ、ラックが落ちてくる。
「わぁーーっ。」
「おっと。」
影が落ちてくるラックを受け止めた。
そして、鉄の塊を背中にかけた。
「元気にしているか? 若いの。」
その影は、ははと笑って大とかげを見た。
大とかげと言っても、顔の位置が三メートル位です。
それでも、モンスター級なんで大がついてます。




