群れの強襲。
「よっしゃあ、何とかなったな。」
最後の一匹を倒したナイルが叫んだ。
あれだけいたのを、被害無しに倒せたのだ。
他のメンバーも喜んでいる。
「ペータとラックの作戦がはまったな。」
「確かに、上手くいって良かったよ。」
「そうだね。それに上手くいったのは、皆が頑張ったおかげだよ。」
男性チームのメンバーで健闘を称えあっている。
実際、壁という大変な役目をこなせていた。
そして、貢献したのは彼らだけではない。
「あんたらもありがとな。」
「当然の事をしたまでだ。」
協力してくれた、他のハンター達に礼を言うナイル。
彼らの協力で、壁が丈夫になったのは事実。
姉妹とセシルも合流する。
「やぁ、お疲れ。」
「おぅ、あんたらもお疲れ。相変わらずのすげぇ連携だな。」
「君達が食い止めてくれたお陰だよ。」
「そうそう、無茶苦茶やりやすかったよ。」
姉妹がそう答える。
中に入り込んだ数は、丁度二人で相手が出来る量だった。
壁の皆が、調整していたのだ。
そんな皆に、申し訳なさそうに言うセシル。
「自分は何も出来なかったんだけど。」
「何言ってんだ。後衛を守るのが俺達の役目だ。ちゃんと役目を果たせたって事だ。」
「ペータの言う通りっ。それに、獲物を取られちゃたまんねぇしな。」
ペータとナイルが、セシルを励ました。
とにかく、敵を倒せたのは事実だ。
ラックが皆に提案する。
「そろそろ次行こうよ。」
「だな。このまま俺達で、全部やっつけちゃおうぜ。」
まだ、始まったばかり。
いつまでも立ち止まっている訳にはいかないのだ。
しかし、シェルがそれを止める。
「待て、物音がする。」
「何も聞こえないけど。」
ルイがシェルに合わせて耳をすませる。
しかし、何も聞こえない。
シェルには何か聞こえているようだ。
ナイルが、シェルを支持する。
「こいつ、耳が良いから間違いねぇよ。で、何が聞こえんだ?」
「足音、沢山の、こっちに来る。」
その言葉に一同は警戒する。
周囲を見渡し、それにそなえる。
すると、その答えが一同の前に現れた。
ルイが叫ぶ。
「あっ、群れが来る。大鼠の子供の群れだよ。」
ルイが指を指した方を見た一同も、それを確認する。
そこには、先程よりも沢山の数の群れがこちらに向かって来ている。
一同は、慌てて陣形を立て直す。
ペータが叫んだ。
「何だよあの数っ。」
「さっきよりも多いなっ。行けそうか?」
「当然っ。」
スイに言われると、当たり前のように返すナイル。
ナイルとペータを先頭に、群れを迎え撃つ。
群れを押さえ込むが、多勢に無勢。
沢山の数が中に入り込む。
「くそっ、悪いっ、そっち行った。」
「何とかしよう。ルイ。」
「分かってるよ。」
しかし、とにかく数が多い。
姉妹も対処しきれない。
動きが硬直したスイに一匹が迫るが。
「させないっ。」
セシルがそれを撃ち抜いた。
更にもう一匹。
姉妹が対処できないのを撃ち抜いていく。
「良し。これならっ。」
「スイ姉っ。速度をあげるよ。」
速さを増した二人が、群れを減らしていく。
そして、姉妹が戦えるようセシルが調整する。
壁役も、押されながらも耐えているようだ。
先頭にいる二人が、群れに負けじと斬っていく。
「ちっ、しつけぇなぁ。」
「数は減っている。耐えるんだっ。」
ペータの言う通り、数は減っている。
半分以上は減っただろう。
その時を、セシルが狙っていた。
ポーチから玉を取り出して、群れに投げつけた。
地面についた玉から煙が出る。
「セシルか? 何だこれは。」
「目眩ましか?」
先頭の二人が、煙を見ている。
すると、煙に包まれた群れの一部が散らばった。
シェルがその煙の臭いに気づいた。
「これは、薬品の臭いか。」
「なるほど、この臭いで逃げた訳か。」
ペータが、セシルの目的を理解した。
セシルが投げたのは、嗅覚が鋭い生き物が不快になる臭い。
人間には通じないが、大抵の獣には有効だ。
煙が晴れると、そこには背中を見せて散らばる群れ。
ペータが叫んだ。
「よしっ、陣形をやめて攻めるぞっ。」
「待ってましたっ。」
ナイルが真っ先に飛び出した。
他のメンバーも、続いて群れを襲う。
あっという間に追い付いて斬っていく。
「逃げる奴らに遅れをとるかよっ。」
「全員が逃げている訳じゃないんだから、調子に乗らないでねっ。」
ナイルをラックが制す。
大体は逃げているが、そのうちの数匹は向かってくる。
手ごわい相手なのは、間違いが無いのだ。
散らばるっているのを、男性メンバーで斬っていく。
一方、多く集まっている場所を攻める姉妹。
「ルイっ、まとめて斬るぞっ。」
「わかっているよっ。スイ姉っ。」
二人ゆえに手数が多い為、素早く数を減らせるのだ。
そうして数が減っていき、全ての大鼠の子供が全滅したのであった。
最後の一匹を斬ったナイルが、地面に寝転んだ。
「くはぁ、きつかった。まじで。」
「ほんとだよ。セシルがいなかったらどうなっていたか。」
ラックも同意する。
ナイルの周りに、皆が集まってきた。
あの煙が巻かれてから、攻勢が逆転したのだ。
ボウガンをしまっているセシルに感謝をするナイル。
「本当に助かった。ありがとな。ていうか、あるなら早く使ってくれよ。」
「あの場合だと無理だったんだよ。頭が良い仲間の人によると、興奮した相手には効かないって。あくまで、戦意を失いかけている相手にしか効かないらしいよ。」
「へー。セシルの仲間が言うならそうなんだろうな。」
エリア奪還の時に使った臭いだ。
アリア曰く、意識を誘導する為の物であり、興奮して頭が回っていない相手には聞かないとのこと。
ナイルが耳をすませているシェルに聞いた。
「シェル。どうだ? 他にはいないか?」
「音はない。問題はないだろう。」
淡々と答えるシェル。
もう群れはいないようだ。
そもそも、何故群れが来たのか。
群れが来た場所を見たナイルが言った。
「もしかしてよ。この先に親がいるんじゃないか?」
「確かに、親がいてもおかしくは無いけど。」
ラックが同意する。
子供が来たという事は、巣があるという事だ。
巣があるのなら親もいるはずだ。
楽しそうにナイルが言う。
「じゃあさ、俺達で倒しちまおうぜ。」
「えっ、無理に決まってるでしょ。」
いきなりの提案を慌てて否定するラック。
親は、そこらの小物とは違うのだ。
ペータもラックに同意する。
「ラックの言う通りだ。大鼠は、大物の部類。大物と戦った事がない俺達には、荷が重い。素直にギルドに報告して、後は任せよう。」
「私もそれが良いと思う。」
スイも、ギルドに任せる派に同意する。
大物を狩るのは、腕利きに任せる方がいい。
しかし、ナイルは引き下がらない。
「大物っつったって、雑魚の方だろ? それに、戦った事が無いって言うんなら、一生戦えねぇだろ。折角のチャンス何だぜ? 頼むっ。」
必死にお願いをするナイルに、ペータは悩む。
どうあっても行きたいようだ。
こうなると、全く引かないのを知っているのだ。
ラックが会話に割り込んだ。
「もしかしたら、こっちに来るかも知れないよ? 早く逃げた方が良いよ。」
「だったら、尚更俺達でどうにかしないとだろ? もし無理だったら、ちゃんと逃げるからよ。」
「本当に逃げるんだな?」
「あぁ、約束する。」
黙って考えるペータ。
本当なら行くべきでは無い。
でも、ナイルの言う通りな所もある。
「対処が遅れたら襲われてしまう。途中で強襲されれば、ひとたまりもない。という事か。」
「そう言われてみれば、情報を持ち帰るまでに全滅したら意味がないよね。」
情報を伝えれなければ、ギルドの対処が遅れてしまうだろう。
その為にも、確実に情報を伝えなければいけない。
ラックが情報をまとめる。
「情報を伝えないといけない。でも、途中で襲われるといけない。」
「その両方をこなすしか無くなるわけだな。」
「そうなると、二つのグループに別れるべきなんだけど。」
「戦力が減ると言う事だね。」
スイが断言する。
また同じ事が起きないとも限らない。
そうなると、対処が難しくなるだろう。
ペータが溜め息をついて決断する。
「仕方ない。ここは逃げるべきだけど、ナイルの言う通り親をどうにかしないといけない。」
「おっ。さすがペータ。」
「だけど、あくまで足止めが目的だ。いいな? シェルはどうだ?」
「お前達に任せる。」
調子に乗り始めたナイルに、釘を刺すペータ。
計らずしも、ナイルの意見が通ったのだ。
ペータは、話を聞いていた他のハンターに提案した。
「そういうことだ。これはこっちが決めた事。あんた達に危ない事をさせるつもりはない。だから、ギルドに親の情報を伝えてくれないか?」
「分かった。引き受けよう。」
「姉妹とセシルもだ。逃げてくれても構わない。」
今回の計画は、男性チームで決めた事だ。
姉妹やセシルには関係ない話だ。
ルイがスイに聞いた。
「だってさ。どうする? スイ姉。」
「正直帰るべきだけど、向こうの言う事も正しい。それに、ほおっておく訳にはいかないからな。」
スイは悩んでいる。
ほっといて、死なれる訳にはいかない。
それに、足止めなら多い方が良い。
スイが提案する。
「私達も行こう。ただし、無理はしない。それで良いな。」
「あぁ、ナイルが無理を言うようなら引っ張っていく。約束する。セシルはどうだ?」
「自分も戦うよ。」
セシルも、姉妹と同じ考えだ。
それに、皆が行くのに自分がいかない訳にはいかない。
何だかペータは、ほっとしているようだ。
「そうか、セシルが来るなら安心だな。サポートは頼んだよ。」
「さっきみたいなの、期待しているぜ。」
ナイルが言う。
ともあれ、やるべき事は決まった。
早速、行動に移す。
情報を伝える役の他のハンターと別れて先へ進む。
ナイルが先頭に出る。
「よっしゃ、大物との初めての戦闘だ。楽しみだぜ。」
「言っておくけど、深入りはするなよ。」
「何度も言わなくても分かってるって。」
楽しそうなナイルを呆れた目で見るペータ。
それを気にもせず、ナイルはどんどん進んでいく。
臭い玉は、煙が少ない分、効果が少ないです。
びびっている相手に、やべって思わせるだけです。




