帰還の準備
翌日、ウルフの子の元を訪れるセシル。
アメッサに案内されウルフの子に会う。
「体調はどうですか?」
「傷はちゃんと縫ったし大丈夫だよ。まぁ、しばらく安静にしなくちゃだけど。」
部屋の扉を開けると、そこでウルフの子が寝ていた。
セシルを見た瞬間、起き上がる。
アメッサが慌てて止める。
「駄目だよ。まだ安静に。」
また横に寝かせる。
ウルフの子は、素直に受け入れたようだ。
その頭を優しく撫でるセシル。
「そこらのウルフと同じと思えないぐらい素直ですね。」
「元々がそういう種族なんだよ。昔の資料では人と共存していたって話もあるんだ。」
アメッサが解説する。
人を襲うウルフしか知らないセシルには、想像が出来ないことだ。
しかし、実際に目の前のウルフの子は、人に身を預けている。
その様子を見たアメッサは感心している。
「とは言っても、私達も原種を見たのは初めてだからね。こんなに人になつくなんて驚いたよ。」
「やっぱり、凄い事なんですね。」
「そうだよ。今まではそれっぽい死体がある程度だったから、資料でしか知らないって教授しかいないんだよ。」
まさに未知の生き物。
資料通りに、襲わないとは限らない。
それなのによく置いてくれたものだ。
「必ず襲わない訳ではないんですよね? 面倒見て貰って良いんですか?」
「確かに資料通りにはいかないかも知れない。でも、その時はその時だよ。どんな結果だろうと新しい情報には違いないからね。」
凶暴なら凶暴で良いという事だ。
大事なのはどんな生態か。
それを知る事に価値を見いだしているのが研究員と言うものだ。
しかしと、付け加えるアメッサ。
「この子を預かれるのは研究の間。聞いているとは思うけど、人を襲う生き物として扱われる以上、研究が終わったら自然に返すのが決まり。どうするかは君次第だよ。」
「それなら聞きましたよ、でもまだ決めてないです。」
「分かってるなら良いんだよ。それまではちゃんと面倒見ておくから安心してね。」
そう言っているが、迷惑をかけている以上早く決めなくてはいけない。
しかし、セシルには生き物を飼うということがよく分からない。
そんな状態で、一つの命を背負うなんて出来ない事だ。
「生き物を飼うって大変なんですよね?」
「そうだね。手続きも面倒だし世話もあるしね。そういえば、私達の教授に会いに行くんだっけ。その時に、いろいろ教えてもらうのが良いよ。」
確かにそんな話をしていた。
あの教授には、また会う約束もしている。
丁度良いのかも知れない。
「では、しばらくお願いします。」
「任せて。次会うまでに傷は直しておくよ。」
診療所から出て研究所へと戻るセシル。
そこでは、既に会議が行われていた。
気づいたアリアが手招きをする。
「良いタイミングね。それで、ウルフの子の様子はどうだったの?」
「元気でしたよ。暴れる様子もないです。しばらく、安静が必要ですけど。」
向こうの情報を伝えるセシル。
そして、空いた席に座った。
すると、にっこり笑ったエメリナがセシルに言った。
「後は、私達が面倒を見るので安心してくださいね。」
「お願いします。」
エメリナに頭を下げる。
それと同時に、グレンが現れ席に座る。
アリアが、グレンに質問をした。
「皆はどうだった?」
「体の痛みが酷いらしいな。それでも、気持ち悪さが勝っているらしいが。」
「今回ばかりは仕方ないわね。それじゃあ予定通り、休暇を取るって事で。」
「それが良いな。あいつらは、しばらく戦えないだろう。」
それほど、手酷くやられたという事だ。
動けないのなら、戦えないのも仕方ない。
そんなグレンにエメリナが疑問を持つ。
「あなたも、昨日は歩けない程だったはずですよね。」
「彼はそういうものよ。もう、慣れちゃったわ。」
「そう言うことだ。気にしないでくれ。」
あっさりと、答えるグレン。
そう、とエメリナも考えるのを止めた。
しかし、するべき事は決まった。
これを踏まえて今後の予定を決める。
「それじゃあ、明日にでも帰還するわね。そこで教授に話を聞く。」
「それで、こっちは居場所を。ね。あなた達が会った施設長に連絡を取って合流するわね。」
「お願いするわ。とにかく情報が大切よ。頑張りましょう。」
お互いのやる事を確認し会議を終える。
そして、そのまま解散する。
研究所から出たセシルは、カリネに捕まった。
「荷物持ち確保。暇でしょ? 協力してね。」
「良いですけど。何処に行くんですか?」
「買い物だよ。ここを離れる前に、良い品質のを買って起きたいんだよ。」
セシルを連れたカリネが、店があるエリアに向かう。
研究所から離れると、大きな通路がある場所へと向かう。
そこにいた、とある人影が二人に声をかける。
「どうも、待ってましたよ。もう少しで町の一角のオブジェになる所でした。おや、予定より一人多いですね。」
「待たせてごめんね。彼は荷物持ちだよ。」
「なるほど、頼もしいですね。三人集まればなんとやら。」
人影の正体はスピナだ。
口ぶりからすると待ち合わせしていたのだろう。
カリネが事情を説明する。
「案内を頼んだんだよ。今日は、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくされました。任せて下さい。百人力でいきますよ。」
早速、スピナが通路脇を歩きだす。
二人もその後をついていく。
目的地は既に伝えているのだろう。
セシルが質問した。
「それで、何を作るんですか? 」
「ボウガンや大砲の強化だよ。もっと威力を出せるのを作りたいんだよ。」
「大事ですよね。私のロマンここにありです。」
前の戦いでもカリネの武器が役に立っていた。
しかし、まだ強くする必要があると思っているらしい。
早速、ある店の前で止まった。
「つきました。この都市自慢のお店です。」
「そうなの? じゃあ、入ってみよう。」
建物に入ると、そこにはありとあらゆる鉄具がある。
分からないほどの数が陳列されている。
嬉しそうに店内を見ているカリネ。
「凄い数だね。驚いたよ。」
「満足頂けたようで。まさに選び放題。」
「そんなに買わないけどね。でも、良かったよ。」
自慢と言うだけあって、種類も多い。
早速、鉄具を取るカリネ。
組み合わせながら、何かを考えている。
そんなカリネに、店の奥から現れた人影が声をかけてきた。
「ん? 女の客たぁ珍しい。何か欲しいもんでもあんのか?」
「どんな爆発にも耐える奴が欲しいんだよね。」
「どんな爆発でもか。随分、過激なもんを要求するなぁ。」
店長だろうか。
いきなりな言葉に戸惑っているようだ。
そんな彼に構わず、カリネが続ける。
「で、あるの?」
「勿論あるけど何に使うんだ?」
「これでも、ハンターチームのメカニックでね。強力な飛び道具を作りたいんだよ。」
「強力な飛び道具か。何度も使うとなると一回持てば良いって訳にはいかねぇな。」
店内の奥へ向かう店長。
三人も後についていく。
止まった先にあるのは、白く光る鉄具。
「ほらここだよ。」
「なるほど、高純度のが揃っているね。でも高い。」
「そりゃあな。それぐらいは当たり前だぜ。」
値段を見ているカリネは悩んでいる。
純度が上がると値段が上がるのは当たり前だ。
それも、カリネは分かっているはずだが、思ったよりも高いらしい。
「値引きとかしてない?」
「してねぇよ。ただでさえ高純度のは、品が少ねぇってのに。」
確かに、他と比べると高純度の鉄具は一つの棚の分しかない。
悩んだ末に、小さい部品を手に取っていく。
「仕方ない。一つ分しか作れないけど我慢しよう。」
「すまねぇな。それで、どんな飛び道具を作るんだ?」
「ボウガンだよ。」
「ボウガンに火薬なん使わないだろ。」
疑問を持つ店長だが、カリネは何も説明しない。
何か考えがあるのだろう。
それに何度も助けられたので、セシルは何も聞かない。
「よし、これぐらいかな。勘定よろしく。」
「おう。出来たら見せてくれよ。」
「上手くいったらね。」
店長は気になるようだ。
勘定を済ませた三人は店を出る。
荷物を持つのは、勿論セシルだ。
「いやぁ、中々の店だったね。」
「満足して頂けたようで何より。何事もなく私も満足。」
紹介したカリネも、満足してくれるか心配だったらしい。
店を出た三人は、来た道を戻る。
買い物は済んだらしい。
「さてと、帰ったら作業に取りかかりますか。」
「待ってください、何か騒がしくないですか?」
奥の方で誰かが叫んでいる。
その叫んでいる人達は、通路沿いに並び出した。
見ていた三人の前にも並んだ。
「危険だから離れてっ。」
どうやら、通行人が通路に近づかないようにしているようだ。
三人も、通路から離れる。
すると、スピナがある事に気づく。
「あの服、ギルドの制服ですね。正体見破ったり。」
「つまり、職員さんね。何があるんだろう。」
周りの通行人は、通路を見ている。
三人も、周りに合わせて通路を見る。
次の瞬間、通路の奥から激しい車輪の音が聞こえて来る。
それと同時に、通行人の悲鳴も。
「なんだあれ、でけぇ。」
「怖い。」
「あんなのが近くにいたのかよ。」
段々とその物体が近づくと三人の前を通った。
すると、カリネとセシルがその正体に気づいた。
複数の竜車に引っ張られている黒い物体。
「あれ、自分達が倒した奴ですよね。」
「だね、今運ばれたのか。」
そう、先日倒した漆黒竜の死体だ。
丁度都市に運ばれてきた所だったのだ。
スピナは感心している。
「死体なのにまがまがしかったですね。ここまで、大掛かりで運ぶのは初めて見たです。手間がかかってます。」
「よくある事なの?」
「えぇ、元々モンスターの死体を運ぶ為の通路ですから。でも、普通なら二人ぐらいで誘導してるんですけどね。今回のはまさに総出。」
あんなに大きい死体を運ぶ事が無かったのだろう。
通行人へのインパクトも大きいだろう。
普段見慣れていても、悲鳴をあげてしまうのは仕方ない。
漆黒竜の死体を見送った三人は、研究所へ戻った。
「それじゃあね。」
「また何かあったら呼んで下さい。まぁ、しばらくは忙しくなりそうですが。」
そう言って別れる三人。
荷物をカリネに渡したセシルは、研究所に入る。
明日の為に、疲れを取るべく休むのだった。
そして、そのまま次の日を迎える。
構成を作り直したせいで遅れました。
四章開始です。




