セシルの秘策。
壁を覗いて、漆黒竜を観察するセシル。
仕掛けるタイミングを、確認する。
そのセシルに、コガラキが近づいた。
「あっしの鳥を、サポートにつけるっすよ。」
「はい、ありがたく受け入れます。」
一人でやると言ったものの、心配は残る。
味方が増える事は、とても心強いのだ。
最後にポーチを確認する。
準備が出来た。
「じゃあ、行ってきます。」
漆黒竜との距離は空いている。
いつでも行ける。
そう合図をしたセシルにグレンが答える。
「今のセシルなら、充分行けるだろう。自分を信じろ。」
「はい。」
そう言ったと同時に、壁を飛び出したセシル。
瓦礫をかわして、森へ向かう。
セシルに気づいた漆黒竜が追いかけてくる。
その足音で、見つかった事を確認する。
(やっぱり遅い。秘策その一だ。)
漆黒竜の動きは速い。
でもそれは、ためを作っての事だ。
貯めた力を解放しているだけ。
動いている漆黒竜に、ハント組が攻撃を当て続けれたのはそれが理由。
(継続する動きは苦手だと思ってたけど。どうやら正解だな。)
しかし、相手は巨体。
その分一歩が大きい。
遅くても、セシルに追いつける。
そこでセシルは、瓦礫を越えながら走っていく。
それに対し、漆黒竜は瓦礫を避ける。
さすがに、いちいち越えながら進むのは無理らしい。
(こっちは直線で行ける。どうだっ。)
大周りする漆黒竜との距離が広がっていく。
そして、だんだん漆黒竜の足が遅くなる。
その原因は、漆黒竜の図体にあった。
(よし、秘策その二。こっちも問題なし。)
あんなに大きな体を、動かし続けるのは無理なのだ。
動かし続ける度に、スタミナが一気に減ってしまう。
つまり、追いかけっこはこちらが有利になるということだ。
(そして、秘策その三っ。)
一気に森へと突っ込んだ。
次の瞬間、背後の樹に瓦礫が衝突した。
間一髪、しかしセシルは読んでいた。
(動きが速い相手には物を投げる。これも合ってた。)
森を走るセシル。
漆黒竜も森に入ったようだが、動きづらそうだ。
これもセシルの読み通り。
(秘策その四。身動き取れないだろ。)
どんどん距離を離していくセシル。
目的としていた山に辿り着いた。
そう、始めから目的はこの山に登ることだ。
山に登る為に、一旦森を抜けようとする。
その直前に、ハプニングが起きた。
「ヤバイ。来るっ!」
後ろからの音に、すぐさま森の奥に引き返した。
その直後、目の前に漆黒竜が降ってきた。
山へと向かう間に、立ち塞がれてしまう。
跳躍力は、考えになかった。
(別の入り口にいかなくちゃ。)
また、森の中を走りだす。
すると、またもや後ろで嫌な音がした。
そちらを振り向くと、木が降ってきた。
すかさず、樹に隠れてやり過ごす。
「しまったっ。」
降ってきた木は、先を塞ぐように横たわっている。
急いで越えようとするも、すぐ後ろまで迫って来ている。
次の瞬間。
ぴーひょろろろ。
コガラキの鳥が漆黒竜の邪魔を始めた。
ちょっかいかけて、直ぐに離れる。
その間に、木に登って向こう側に下りる。
「助かった。ありがとう!」
鳥に礼を言って再び走り出した。
それを見た漆黒竜が、鳥を無視して追いかけてきた。
そして、再び後ろから音がした。
「またかっ。」
目の前に、漆黒竜が降ってきた。
樹が邪魔なら飛び越せば良い。
先程の一回で学んだのだ。
涎を垂らした漆黒竜が迫ってくる。
急いで引き返すも、そこには木が道を塞いでいる。
横に周ろうとするも、セシルの前に回りこまれた。
(こうなったらっ。)
まだ使いたくはなかったが、ポーチの煙玉を掴んだ。
取り出そうとした時、何かの鳴き声が聞こえた。
わうっ、ばうっ。
声のした方を見ると、見覚えのある白い毛並みのウルフの子。
先程、助けた時のウルフだ。
駆け出したウルフの子は、漆黒竜の足を走り抜ける。
漆黒竜がそれを追う。
「助けてくれたのか?」
ぽかんと見ていたが、そんな場合ではない。
急いで山へと向かう。
森を抜けて山に着くと、足がかけれそうな場所を急いで登る。
その直後、漆黒竜が後ろに降ってきた。
「こっちだっ。」
わざわざ声をかけて相手を誘う。
すると、漆黒竜がセシルを追いかけ山を登ってきた。
人、一人しか通れない狭い道を爪を使って器用に登ってくる。
これで良い。
(本当は、もっと早くに登りたかったけど。)
お陰で、早くかけ上がらないといけない事になったのだ。
しかし、ハプニングがあったものの、ここまでは予定通り。
ただひたすら、山の斜面をかけ上がる。
しかし、ここで問題が起こる。
「まじかよっ。」
こっちに向けて漆黒竜が跳んできたのだ。
寸前の音で気づいたセシルは、道を外れ斜面をかけ上がり樹にしがみついた。
その直後、セシルがいた場所に漆黒竜が着地した。
ひと息ついて、樹を足場に体勢を立て直す。
「ふぅ、危なかった。」
こちらを見上げている漆黒竜。
他の樹を乗り継いで上に向かおうとした瞬間だった。
漆黒竜がセシルに向かって咆哮した。
ぐぅおおおぉぉぅ。
間近で咆哮を聞いたセシルの視力と聴力が消え失せた。
そして、意識も。
「・・・。」
意識を失うと、樹に吊り下がった。
全てが、真っ暗に。
その時、肩の痛みで意識が覚醒した。
気づけば、先程のウルフが肩を噛んでいたのだ。
激痛が、失った物を呼び起こしていく。
「痛い、痛い、痛いっ。もう目を覚ましたからっ。」
はたかれて、ようやく口を離した。
噛まれた場所を押さえる。
ひりひりと、痛みが続く。
「でも、助かった。」
ウルフの子の頭を撫でて、次の樹に移動した。
このままでいると、落ちてくのを待っている漆黒竜が、しびれを切らして跳んでくるかもしれない。
次々と樹を渡って、ウルフの子と共に上を目指す。
漆黒竜も、上へ続く道を探して登っていく。
「ついたっ。」
上から山を見て曲がり始めるポイント。
要するに、山の角に位置する場所。
つまり、ここから先は道が無い。
「来たなっ。」
セシルのいる場所に、漆黒竜が追いついた。
ポーチから煙玉を取り出したセシルは、すぐさま地面に投げた。
セシルを煙が包む。
そして、走り出した。
これがセシルの最後の秘策。
「来るならこいっ。」
漆黒竜は、セシルが逃げるのを察した。
目の前に立ち塞がろうと、煙の奥に跳んだ。
しかし、その先はない。
その瞬間を、地面に伏せていたセシルが見ていた。
「秘策その五。落っこちろっ。」
セシルは、漆黒竜の側面が擦れているのに気づいていた。
そして、それに紛れて血がついていたことに。
それに気づけたのは、山から落ちた時に大羽鳥の死体があった時だ。
なぜあんな所にあったのか。
そもそも、なぜ崩れていたのか。
それは、大羽鳥が漆黒竜に捕まり、何かの拍子に共に落ちたから。
そのまま、重い漆黒竜が遠くに飛んで樹の上に落ちたから。
「ならば、もう一度落とせってね。」
山の斜面を、転げながら落ちていく。
その際、体のあちこちを地面に叩きつけていく。
何度も回転しながら落ちていくと、ついには空中に投げ飛ばされた。
そして、地面にある森に落っこちた。
森の樹が全身を突き刺した。
その様子を下から見ていた者達がいた。
「言われた通り、森の先で待ってたら、たいそうな物が落っこちてきたんよ。」
「本当にやり遂げるなんてな。」
「よく頑張った。」
森の外にいたハント組が武器を取る。
竜車の二階に上がり、その時を待つ。
がはは、と笑ったグレンが前に出る。
「ハンターとして一枚剥けた訳だ。次は俺達の番だな。いくぞ。」
次の瞬間、森から漆黒竜が出てきた。
ウルフの子の大きさは、人の膝ぐらいです。
成長して、最大でお腹か胸かって所です。




