漆黒竜発見からの敗北。
ここにいるはずの化け物がいない。
竜車から降りた一同は、辺りを警戒しながら周りを見渡す。
残骸の影まで細かく調べるもそれらしき物は見つからない。
その間地面の足跡を調べるアリア。
「草が完全に散っている場所が怪しいわね。」
「奴が踏んづけたって事だな?」
「そういうことよ。そこを辿ると場所がわかる。」
グレンの質問に答えながら、ある場所へと視線を向けるアリア。
その部分だけ、異様に草が散って地面が見えている。
そして、見事に足跡が残っている。
「随分と行ったり来たりしているようね。」
「だな、足跡が異様に多い。」
「あの先は森?」
グレン達が出て来た森から出て、草原を通過して左の森に。
上から見て、くの字を描くように移動している。
森から出たのにまた森に戻っている。
「山岳地方の奥には行ってないみたいだけど。」
「ウルフが棲む山が見えるな。」
足跡は、ウルフが棲息している山に向かっている。
そして、山からも足跡が来ている。
ここから分かる事は一つ。
「確か、あっちにもエリアの出入口があったはず。そこから入って来たのね。」
「山と山脈の間にある空間の事か。」
「そうよ、あそこの奥に森が伸びているの。そっちにもエリアの境界線があるのよ。」
つまり化け物は、草原エリアを通らず、エリアの横から入って来たということだ。
更に言うと、足跡が何度も行き来している事から、何度も出入りしているようだ。
そこで、手帳の内容を思い出したシルファが質問した。
「あの先に、村があるん。」
「よく知っているわね。確か地図にあったはずよ。」
「まぁ、今回の騒動がその村の消滅から始まってるって事なんよ。」
手帳を振って、情報源を示す。
段々、話が繋がってくる。
話をまとめたアリアが口を開く。
「もしかしたら、そこを巣にしている可能性があるわ。」
「行ってみる価値はありそうだな。全員、竜車に乗り込め。」
足跡が多いということは頻繁に出入りしているということだ。
たまたま通っただけなら、足跡が何度もつくわけがない。
一同が乗り込むと、竜車が動き出す。
目的地は、足跡の先。
「ここからは、いつ遭遇するかは分からないわ。常に警戒して。」
再び森に入ると、奥に向かって進む。
所々、上が引きちぎられている樹の間を抜けていく。
エリクが、道を見ながら言った。
「まるで、来るなら来いって言われてるみたいだぜ。」
「わざわざ、作った訳では無さそうなんよ。」
「都合がいい。」
もはや、無理矢理作られた道だ。
まるで、グレン達を誘うように。
「ここを通る度に、邪魔な物を取ったのね。」
「お陰で助かったがな。」
この道の先に目的地があるということだ。
竜車が二つの山の間を抜けた。
ウルフが棲む山と、山岳地方の周りを囲う山。
アリアが、解説する。
「この横の山も山岳地方の山の一部だけど、あまりの角度にどんな生き物も登らない。だから、この山が越境線として扱われているのよ」
留まれる場所が無ければ、歩く事が出来ないし巣も作れない。
まさに、自然の城壁。
その山の沿いにある森を進むと、予想通りに滅んだ村が見えた。
それと同時に強烈な臭いも。
「モンスターの糞の臭いね。やっぱりここが巣なんだわ。」
「この辺で止めよう。あそこの樹に隠してくれ。」
一部分の樹と樹の間に、竜車が入れそうな空間がある。
そこで止まると、まず偵察組が降りた。
その後に、ハント組が続いた。
「今回ばかりは一緒に行くぞ。」
相手が相手だけに、見つかれば逃げれる保証がない。
いつでも戦闘に入れるよう用心しての事だ。
村に入ると、安全を確保しながらゆっくりと進んでいく。
シルファが、村の惨状を見て言った。
「もう、家なのか壁なのか分からないんよ。」
「確かにな、人が住んでいた形跡が分からない。」
そう答えたグレンが、瓦礫を一つ掴んだ。
すると、あっさりとそれが崩れた。
ただ、変な塊がそこらにあるだけだ。
この光景を見たセシルが、自身の村を思い出す。
「これが、襲われた村の末路なんですね。」
「この村を助ける人がいなかった。残酷だな。」
そう答えるグレン。
モンスターや獣は、人間の全てを根こそぎ奪う。
通った後に残るのは、ただの無だ。
話も程ほどに、足を進める。
すると、コガラキが手のひらを向け、一同を静止させた。
「ここで待ってるっす。」
何かに気づいたのか、他を残し一人で向かう。
耳をすませたコガラキが、それを便りに進んでいく。
そして、壁を覗くと漆黒の大きな物体がそこに転がっていた。
それから、唸るような音を何度も立てている。
「この音、イビキっすか。大きな口、間違いないっす。」
コガラキが気づいたのは、このイビキだったのだ。
どうやら、寝ているようだ。
確認を終えると他のメンバーの下に戻る。
「目的を確認したっす。あっしが見ていた所で寝ていたっす。」
「腹が一杯になったからぐっすりか。」
エリクが、そう言った。
先程の大羽鳥を食って眠たくなったのだろう。
だから、巣に戻ったのだ。
「ならば、今のうちに仕掛けよう。」
コガラキの先導に、一同がついていく。
グレンが出した指示通りに、化け物を囲むような配置についた。
前に出るグレン。
手をあげて始めの合図を出した。
深呼吸し落ち着くと、武器を持って駆け出した。
そして、化け物の首下に大剣を叩き込んだ。
しかし・・・。
「手応えがない。だと。」
全力で振り下ろしたのだが、傷を与えたという感触がない。
ドラゴンほど固いわけでは無い。
しかし、大剣を通させないほどの何かがあった。
しかも、それで漆黒の化け物が起きてしまった。
グレンが叫ぶ。
「失敗だっ! 構えろっ!」
目を開けた漆黒の化け物が立ち上がった。
そして、気分が悪いのか壁に突っ込んだ。
空高く飛ぶ瓦礫。
視線を下げてグレンを見た。
すると、空に向かって吠えた。
ぐぅおぉぉぉぉぉぉおおん。
怒りをぶつけるような、衝撃のある咆哮。
耳を塞ぎながら、耐えるハント組。
遠くにいた偵察組ですら、耳を塞ぐ位の音量。
意識が飛ばされない様に耐える事しか出来なかった。
「なんつー声だっ。」
「耳がっ。」
「うるさいんよっ。」
なんて言っているが、咆哮にかき消され発した本人にすらも届かない。
しばらく続いた咆哮が収まった。
しかし、激しい耳鳴りが残り続けている。
体勢を立て直そうとしたグレンに、胴よりも長く太い尻尾が迫る。
「速いっ。」
避ける事は出来ないが、防ぐ事は出来た。
しかし、なんの意味も無い。
尻尾の一撃を受けたグレンは、はるか後ろに吹き飛んだ。
その拍子に、背中を強く打ち付け激痛が走る。
「がぁっ。」
激痛で体が動かない。
立ち上がる事も出来ない。
他のメンバーは、とっさの事に声が出なかった。
地面に落ちたグレンに、漆黒の化け物が迫る。
その様子を見たシルファとユーリアが駆け出した。
「させないんよっ。」
「止まれっ。」
漆黒の化け物に一撃をくわえる。
しかし、ものともしていない。
むしろ、攻撃した二人の腕に激痛が走った。
「かってぇ。」
「でも、鱗の硬さじゃない。」
鱗には、ヒビが入った。
だけど、薄皮が軽く剥がれた様な感触。
その奥の肉体が、武器を弾いたのだ。
しかし、グレンへの歩みは止まった。
「漆黒の竜。」
「いや、竜なんてレベルじゃないんよ。」
足元の二人に気づいた。
そして、尻尾を振るように一回転。
それを避けながらシルファが叫んだ。
「全力で仕掛けるんよっ。」
「隙を見せたら終わりだなっ。」
飛び出したエリクが、漆黒竜の首下に槍を刺す。
しかし、弾かれる。
噛みつきが迫るも、持ち手で防ぐ。
その間に、シルファとユーリアが、首を左右から切りつけるが効果はなし。
「どうすりゃいい。」
「手だて無し。」
「って、余所見してたら来るんよっ。」
三人に向けて突っ込む漆黒竜。
なんとかかわす。
しかし、シルファが避けた場所に瓦礫が飛んできた。
避けられず直撃した。
「があっ。」
漆黒竜が、瓦礫を投げたのだ。
倒れたシルファはピクリとも動かない。
そこに、迫る漆黒竜。
エリクが横から突っ込んだ。
「させねぇっ。」
首下に改めて槍を刺すが、やはり駄目だ。
むしろ、頭突きをくらい吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられるエリク。
「ならばっ。」
頭に飛び乗ったユーリアが、首に双剣を何度も叩き込んだ。
やはりそれでも、傷がつかない。
軽く首を振った漆黒竜は、体勢を崩したユーリアを頭突きで飛ばす。
圧倒的な、力と早さと硬さに手も足も出ずにやられてしまう。
「今だっ。」
声がした直後、漆黒竜が煙に包まれる。
瓦礫から現れたグレンがシルファを持って抱えた。
抱えたまま走り出す。
「生きてるか?」
「なんとか生きてるんよ。」
死んではいないが、ダメージは大きい。
他の場所では、コガラキがエリクを持ち、セシルがユーリアを持った。
グレンの向かう場所に向かって走り出す。
そして、同じ壁に集合し隠れた一同。
グレンが息を吐いて一息ついた。
「参ったな、攻撃が通らん。」
「あれの感触は筋肉なんよ。」
「私もそう思う。」
筋肉だけであの不条理な身体能力を実現しているのだ。
もはや、人間ではどうする事も出来ない。
攻撃した時の感触を思い出すエリク。
「筋肉だけで弾くなんて初めてだぜ。」
「鱗とはまた別の硬さなんよ。」
「まだ、腕が痺れる。」
「竜車のボウガンでないと無理だろうな。」
痺れて腕が上がらない。
その状態で、ポーチからドリンクを取り出して飲む三人。
グレンは既に飲んでいる。
しかし、痛みは取れない。
「駄目だ、もっと上の奴じゃねぇと。」
「全然足りないんよ。」
「ダメージが、深い。」
あまりのダメージの大きさに、ドリンクが効かない。
動かす度に激痛が走るのだ。
もっと強い奴が必要だが、そうなると。
「これ以上の上のドリンクは持たされていない。竜車に戻らないと。」
「って事は、この中帰らねぇといけないのかよ。」
壁の向こうで激しい音がしている。
煙から出た漆黒竜が、一つ一つ壁を壊しているのだ。
ここも、いつかは危ない。
「俺達を探してんのか。」
「相当怒ってるんよ。」
「出た瞬間、襲われる。」
姿を表した瞬間、突っ込まれて終わりだろう。
しかも、避ける体力も逃げる体力も無い。
もはや、逃げる事は不可能だ。
そう、一つの方法以外は。
「自分が囮になります。」
秘策があるセシルが囮に名乗り出る。
当然の事、グレンが反対する。
「セシルが? 無茶だ。」
「囮ならあっしがいくっすよ。」
「いや、コガラキさんは皆を守って下さい。」
動けないハント組だけを残す訳にはいかない。
それに、セシルには考えがあった。
「大丈夫、自分に秘策があります。」
「秘策?」
遠くから見ていたセシルだからこそ分かるもの。
分かるセシルだからこそ出来る事。
溜め息をついたグレンが、セシルの肩を叩いた。
「俺達はどうすればいい。」
セシルの提案を受け入れるグレン。
進んできた森の先へと指をさしたセシルが指示を出した。
「この森の先に竜車に乗って向かって下さい。」
山岳地方の生き物を拒むように立てられた大きな山。
その沿いにある森の先。
セシルが思い浮かぶ決戦の地はそこにある。
越境線越しから直で山岳地方のエリアですが、崖のような山が塞いでるので大丈夫なのです。




