強襲からの救出。
「すごい事になってたねぇ。」
他人事のようにシルファは先程の出来事の感想を伸べる。
緊張をほぐすことに専念していたセシルも、その事を忘れ目の前の出来事を眺めていた。
落ち着いて考えるとふとした疑問が沸いてくる。
「何であんなに騒ぐほどなのにギルドは今まで放置していたんですか?」
当然の疑問である。
町の流通に影響があるんだから対処に動いてても当然なはずだ。
何故、今まで放置をしていたのだろう。
「コングの王は、獣界の王でもあるんよ。」
シルファは、さも当たり前の様に答える。
他のハンター組も説明を補足する。
「自然界には、巨大な虫や肉食の化け物がたくさんいるが、コング種はそれらを制して活動している。」
「中にはドラゴンを片手でねじ伏せるって奴も観測されているらしいぜ。」
「ギルド側もハンターを安易に送れない。」
その辺のハンターを送っても簡単にお陀仏である。
そういう理由から、ギルドは今まで何も出来ないでいたのだ。
「そんなこんなで俺たちにクエストが回されたと言うことだ。」
グレンは、がははと楽しそうに笑っている。
そんな相手に挑むのに恐れはないのだろうか。
あまり気にしているようには見えない。
「おかげで助かったがな。」
「まったくなんよ。」
そんな話をしている間にも、竜車は目的地に着々と近づいていく。
遠くに山しか見えない広く見渡せる通路から、森の脇を通る通路へと進んでいく。
先程から竜車の横を通っていた商人の馬車も数が減っていく。
グレンは、竜車の前座にいるアリアに声をかけた。
「馬車が減ってるな。そろそろ目的地か?」
「らしいわね。確かギルドの職員が交通規制をしてるらしいけど。」
竜車を進めていると通路の先に人影が現れる。
旗を上げ制止の指示を出しているので、その前で竜車を停止させる。
ギルド職員の制服を着ているその人影に近づいてきたので、グレンも竜車から降りて職員と対面した。
「クエストを受けたハンターチームだ。」
「ようやく来たかい。守ってくれてはいるけど心細くてねぇ。」
ホッと一息をつく職員。
近くの馬車に警備はいるようだが、とても強そうには見えない。
ひたすら、襲われる恐怖と戦っているのだろう。
「情報を教えて貰いたい。」
「そうだな、奴らは大体昼頃に動く。そんときは大体兆候が起きると監視の職員が合図を出すから交通を止めるんだよ。」
「監視とは?」
「遠くから森全体を見ている職員がいるんじゃよ。何かあれば連絡を寄こしてくる。」
「これまでに誰か通りましたか?」
「あぁ、少し前に馬車が。護衛がいたし連絡もないから通したよ。」
グレンは、頭の中で整理しながら情報をまとめていく。
もう昼はこえる頃だろうが、連絡は無いようなのでまだ動いてはいないだろう。
これらの情報を元に、作戦を始める時間を計算していく。
「なるほど、アリアの予定通りに来れたようだな。それでいつ動く?」
「今は、森で餌を集めている頃かしら。食事中に狙いたいから、今から偵察を向かわせて良いかも。」
「俺をそう思う。コガラキ、セシル。出番だ。」
「はいっす。鳥を飛ばしておくっすね。」
グレンは竜車に向かって呼び掛ける。
呼ばれたコガラキは、笛を吹き鳥を飛ばす。
とうとう出番が来た。
セシルは、深呼吸をして体を落ち着かせる。
「大丈夫っすよ。あっしの指示に従えば安全っすよ。」
「分かりました。」
コガラキとセシルは竜車から飛び降りる。
グレンはセシルの肩に手を当て安心させる。
「コガラキ、セシルを任せたぞ。セシル、焦らなくても良いからな。」
「分かってるっすよ。セシルをちゃんと守りきるっす。」
コガラキが森に向かうのでセシルもその後に付いていく。
その瞬間だった、連絡用の通信機が鳴り響く。
その場にいた一同は、動きを止めそちらを見る。
「はいもしもし。こちら西側の・・・」
『緊急連絡、緊急連絡。馬車が襲撃された。』
「何だって、動く兆候の連絡は無かったはず。」
受話器を取った職員は慌ているのか声を荒げだした。
受話器の向こうも慌てているのか、大きい声が受話器から聞こえてくる。
あまりの大きさの声に、内容がグレン達にも筒抜けた。
「ブラフね。」
アリアがぽつりと呟く。
職員達が状況確認をしている傍ら、グレンはアリアに質問する。
「どう言うことだ?」
「コング達は、自分達の動きに人間が反応しているのに気づいたのね。だから、隠密して動いていない様に見せかけた。そうしたら、案の定、罠にかかった人間が現れた訳ね。」
セシルは、あっという間に看破したアリアに驚いたが、そんなことをこなしてみせたコング達の頭脳の高さにも驚いた。
職員は、警備に指示を出し救助の準備に入っている。
グレン達もそれに会わせ動き出す。
「シルファ、コガラキ、セシル。行って頂戴。」
「自分もですか!? 自分戦えないですよ。」
「今はそれで良いのよ。頼んだわ。」
良くわからないことを言われるが、言われたからには行くしかない。
シルファは、ナイフを掴み竜車から降りる。
ほいっ、とセシルとコガラキに投げ渡すと腰に着ける。
「いいわね。勝ったらダメよ。」
「分かってらぁ。」
セシルも、シルファとコガラキに習いナイフを腰に着け待機する。
二人が何を言っているのか聞こうとしたが、走り始めたのでセシルも後に続く。
その際、警備に声をかける。
「先に行っとくぜぃ。」
それだけ言って加速する。速い。
昨日教わった事が役に立っているのか、何とか二人に食いつくがそれでも少しずつ距離が離れていく。
道を走っていると目の前から三人の人が走ってくるのが分かる。
きっと、例の商人だろう。
シルファが横に手を出して制止を促したので、速度を落として商人達の前で止まった。
セシルは息が上がっているが二人は何とも無いようだ。
「助けてくれぇ。」
商人達は、一同に気づくと声を上げる。
「護衛はどうしたん?」
「俺達を助ける為に残ったんだ。」
セシルは、何時ものような軽い口調ながらも、真剣さが伝わるシルファの声に驚きつつも、コガラキに合わせ周りを警戒する。
「この先に俺達の仲間がいるんよ。それまで気張りんさい。」
「わ、分かった。」
何度も頷く商人。
じゃあ、行きましょか、と二人に声をかけると再び走り出す。
二人もそれに続く。
それからさらに走ると、目の前に馬車と人影、さらにその周りを囲うように毛むくじゃらの大きな物体が複数いる。
あれが、フォレストコングと呼んでいた奴だろうとセシルは理解する。
「来るなっ。あっち行けっ。」
「止めてくれぇ。」
逃げようとする護衛らしき人達は、逃げようとするもコングに行く先を防がれて逃げれない。
まるで、遊ばれているようだ。
シルファは、ナイフを抜くと一体のコングに斬りかかる。
傷は浅い。
「セシルっ、あっしに会わせるっす。」
コガラキが護衛の前に立ったので、セシルも護衛の前に立つ。
二人して、ナイフを抜き構える。
シルファは、改めて斬りかかるも大振りだからかわされる。
「やあーーーっ。」「や、やあーーーっ。」
コガラキを見るとまるで素人の様に振り回すので、セシルもそれを真似して振り回した。
何だかコング達に、その様子を馬鹿にされながら見られているようだ。
しばらくそうしていると、コング達は飽きたのか馬車の荷物を持って森に返っていく。
コガラキと共にセシルはコング達が逃げた先を警戒する。
護衛達が、床に座り込む。
「助かった。あんた達は?」
「ハンターチームなんよ。あいつらを討伐しに来たんよ。」
「そうか。何で大袈裟に動いてたかは分からないがとにかく助かった。ありがとう。」
代表して喋っていた護衛が頭を下げると、他の護衛も続いて頭を下げる。
護衛達は体力が失われているのか、肩で息をしている。
あのままだったら、死ぬまで遊ばれていたかも知れない。
「そういえば、俺達を雇っていた商人を見なかったか?」
「途中で見かけたんよ。今頃、俺達の仲間に守られてるころなんよ。」
「そうか、よかったっ。」
安心して肩を落とす護衛。
商人を無事守れた事に安堵しているようだ。
体を張ってまで逃がしたんだ無理もない。
「それで、あんた達はこれからあいつらのボスを倒すんだろ?」
「その為に、情報を集めようとしたら連絡が来てね。俺達が助けに来たとこなんよ。」
まさに動こうとした時の事だった。
お陰で迅速に動けたのだ。
「そもそも、何であんたらこの時期にこの道を通ったん?」
「あぁ、この先の道にある病院の薬が切れたらしくてね。私の家族もいたもんでこうやって護衛ついでにお見舞いのフルーツを持って様子を見に行こうとしたんだよ。まぁ、全て取られてしまったけどね。」
あははと、乾いた笑いをして項垂れている。
余裕そうに笑ってはいるものの、今にも泣き出したいはずだ。
その様子を見たセシルは、何か胸に込み上げてくる物を感じる。
それを感じ取ったコガラキが、セシルの肩に手を置き落ち着かせる。
そう、冷静さを失ってはいけないのだ。
「シルファさん、あっしらはこのまま偵察に向かうっす。」
「そうかい、じゃあ俺は、護衛達を連れて戻るんよ。まだ、警備は来なさそうなんで途中で拾ってくわ。」
「了解っす。ではこれで。」
コガラキが、森の中に入っていくのでセシルもそれに続く。
シルファも動き出したらしく、足音が聞こえる。
「良く我慢したっすね。」
コガラキは歩きながらセシルに声をかける。
セシルは、コガラキのお陰で落ち着けている。
「コガラキさんがいなかったどうなってたか分からなかったです。」
「良かったっす。怒った所で何も解決しないっすからね。怒る代わりにクエストをこなす事によって被害者にむくいる。これもハンターの仕事っす。」
コガラキは、指を立て自慢気にセシルに語る。
ハンターとはただターゲットを倒すだけでは無いのだ。
セシルは、コガラキの言葉を胸に秘める。
こうして、二人は森の奥に入って行くのだった。




