講習
「私は今日の講習の講師であるフィーブルだ。よろしく頼む。」
教壇に立つ男性はそう名乗った。
講習を受ける生徒達もよろしくお願いしますと頭を下げる。
フィーブルは、生徒達の手元にもある物と同じ本を上げる。
「講習の内容を伝えるぞ。まず皆の手元にある本を見てくれ。この本を元に講座をしたあと実践練習を行う。必要な道具はこちらで用意してあるので気にしないでくれ。」
フィーブルは、本を机の上に置きページを開く。
ページに書かれてある内容を読み上げ次のページへと進む。
依頼の受け方や、達成したらどうするか、どのような仕事があるのか、といったハンターとしての仕事の流れを主に講座が進んでいく。
大体、数十分だっただろうか、フィーブルは最後にと言いページを開かせる。
そのページには、沢山の人が川に花を流す絵が書かれている。
「この絵は、亡くなったハンターを追悼する様子を書いた絵だ。ハンターとは、危険と隣り合わせの仕事だ。そんな場所に、足を踏み入れる事を忘れてはいけない。」
セシルは、村が襲われた事件を思い出す。
どんなに世界が過酷なのかは、それに触れたセシルがよく分かっているのだ。
フィーブルは、一息つくと手を叩き注目を集める。
「最後に暗い話をしてしまったが、良いことだってある。是非、楽しいハンター生活を楽しんでくれ。」
その言葉を最後に講座が終わった。
すると、フィーブルは生徒に立つよう指示をする。
生徒達はその通りに立ち上がる。
「これから、実践訓練に向かう。ついてきてくれ。」
部屋を出るフィーブルについて生徒達も部屋を出る。
その際に生徒達は、各々会話をしながら進んでいく。
部屋を最後に出たセシルは、その様子を眺めながら進んでいる。
話を聞く限り、以外と知り合い同士で来たものもいるらしい。
一人で歩いていたセシルはその中のグループの一つに声をかけられる。
「おっす、君は体は大丈夫か? 俺なんてずっと座ってて辛いんだよなぁ。」
「いやいや、この程度で体を痛めてたらハンターなんてやってられないよ。」
「まったく、最も体を鍛えないと。」
セシルに声をかけた男の人は背中を叩かれている。
そんな男の人も、力なら負けないぜと楽しそうに笑っている。
セシルは、そのグループに質問をする。
「仲良いですね、友達ですか。」
「おうとも、昔からの顔馴染みだ。」
「家が近かったから自然とね。」
「ハンターになるのも、こいつがせっかくだしチーム組もうぜって言い出して。」
背中を叩かれた男性は照れ臭そうにしている。
セシルも昔に幼馴染みと森で駆け回っていたので、友達同士でハンターになるのも楽しそうだと思ったのだ。
話を聞きながら通路を歩くと、ギルドハウスの奥に位置する訓練場にたどり着く。
ギルドハウスの職員らしき人達が椅子に座って紙を見ているのが見えた。
立ち止まったフィーブルは生徒達に呼び掛ける。
「はい、自分の番号の場所に並んで。」
床に先程の様に番号があるので、各自自分の番号の場所に並ぶ。
番号がある場所には、それぞれ防具が置かれていた。
フィーブルは、全員揃った事を確認すると、棚から取り出した防具を着ける。
「私と同じように防具をつけてくれ。」
生徒達は、言われた通りに防具を着ける。
与えられた防具は革製、グレン達が着けていたものと同じような物だ。
セシルは、フィーブルの見よう見まねで防具を無事着けることが出来た。
「よし、全員準備はいいな。実践練習の前に、これから身体測定を行う。どれぐらい動けるかを知ることはハンターに必要だからな。」
それだけ説明すると、早速フィーブルは番号が少ない順に呼んでいく。
呼ばれた順に身体測定をこなしていく。
ボールを投げる、置かれた壁の間に入り左右にタッチ、ジャンプ、懸垂、最後は並んで走る。
昔から森で遊んでいたセシルにとって問題無くこなせる内容だが、防具を着けて行うことにセシルは苦戦を感じるのであった。
他の人を見ると難なく身体測定をこなしている。
(もしかして、皆は慣れてるのかな。)
他の生徒はセシルと違ってこういう経験をしているのだろうか。
身体測定の結果は関係ないのだろうが、やはり置いていかれるのは不安を感じるものだ。
全ての測定が終わり、他の職員と話をするフィーブル。
生徒達は、体を動かしリラックスをしている。
「休憩だ。ゆっくりしててくれ。あっ、水分もちゃんと取れよ。」
フィーブルが他の職員といなくなると、生徒達は床に倒れる。
動ける人は水を出す装置から水を出し飲んでいる。
セシルは、水を飲みながら火照った体を冷やしている。
「疲れたっ、防具着けて動くのきつすぎる。」
「特に最後の走り込みな。」
先程のセシルに声をかけてきたグループだ。
床に座ったまま全く動かない。
きついのはセシルだけでは無かったようだ。
セシルが息を整えてると例の姉妹に声をかけられる。
「やぁ、さっきの測定はどうだった?」
「結構、余裕そうだね。」
姉妹の測定を少し見たがこの二人もよく動いていたのを覚えている。
しかし、セシルも防具で動きづらかったとはいえ、体力には自信がある。
姉妹に大丈夫だよと答えを返す。
「二人も余裕そうだね。」
「全然だよ。防具を着けて動くのがこんなにも大変なんてな。」
「でも、ハンターになったらずっと着けてないといけないからね。」
セシルは、グレン達が防具を着けて動いているのを思い出す。
グレン達はよくこんなのを着けて戦えたもんだと、セシルも実際に着ける事によって見に染みたのだった。
「凄いよねプロって。」
「私達もその凄いプロとやらにならないといけないんだぞ。」
「まぁ、慣れると思いますよ。」
とは言ったものの、セシルもよく分かっていないのだ。
セシルと姉妹が話をしていると他の生徒も話で盛り上がりだす。
落ち着いたのか水を飲む人が増えてくる。
セシルも姉妹と話が盛り上がっているとフィーブルが戻ってくる。
「皆、休憩が出来たか? じゃあ、とうとう実践練習に移るぞ。」
フィーブルは、訓練場にある建物の扉を開ける。
生徒達は立ち上がり建物に入る。
入った先に長い台があり、その上に一定間隔でボウガンが置かれてある。
その先に丸い的が並べられてある。
「番号の少ない五人で台についてくれ。その後ろに、六番から五人。その後も同じように並んでくれ。」
生徒達は言われた通りに並ぶ。
要するに五つのチームに別れてボウガンの練習するようだ。
セシルの列には姉妹の姉のスイと先程の男性グループにいた一人がいる。
「これから、ハンターになるに当たって使うであろう道具の練習をしていく。ということで、まずはボウガンの練習だ。」
生徒達の前に立ったフィーブルは、ボウガンに矢を設置する手本を見せる。
そして、矢を取り外す。
「各自、同じように設置してくれ。出来たら外して次の人に。」
スイは、ボウガンを取り手本の様に矢を取り付けようとする。
しかし、上手く付けれず慌てている。
妹の方から流れるやっぱりと呆れる気配にスイは気づいていない。
「ぐっ、難しいな。」
「ここに引っかけるんだよ。」
「糸がかかってないよ。」
あまりものポンコツっぷりに、二人が協力をする。
無事着けることが出来たので外し交代をする。
スイに教えただけあって、残りの二人はあっさりと着けることが出来た。
「よし、皆出来たな。では次は撃つ練習だ。一人五発ずつ。構えて。」
フィーブルは、旗を上げる。
スイは、今度こそ失敗せず矢を設置し的に向かって構える。
「撃て。」
フィーブルが旗を下げた瞬間、ボウガンが作動する音が響いた。
スイのボウガンから放たれた矢は、見事丸の中心に当たる。
他の生徒も的に当てることができた。
「凄いね。」
「これでも実戦には強いのだよ。」
そう言って、的の真ん中に次々と当てていく。
セシルと男性は感心して見ている。
ボウガンを撃ち終わると、ボウガンを台に置いた。
「家にあるボウガンとは勝手が違ったから焦ったが、撃ってしまえば同じだな。」
「よく撃つんですか?」
「これぐらいしかすることが無かったからね。」
次は男性と交代をする。
スイの時と同じくフィーブルの旗に合わせ撃っていく。
こちらも、真ん中でないもののしっかりと的に当てていく。
「これは難しいね。」
「いや、当ててるだけ凄いよ。」
「だな、他の所を見ると当てれてない人が出てきている。」
スイの言葉に他の列の的を見てみると、何発か的から外れた矢が見える。
隣の列からは、当たらねーとの声が聞こえる。
あれ内の仲間です、と男性は恥ずかしそうにしているが安心したのか一息つく。
安心したのはセシルも同じだ。
とうとう、セシルの番が回ってくる。
(無理に当てなくてもいいんだ。)
落ち着いて旗の合図に合わせて撃つが的に当たらない。
支えてる方の手でボウガンの先をしっかり掴み、もう一発撃つも当たらない。
自分だけじゃないと分かっててても一発も当たらない事に焦ってしまう。
すると、スイがボウガンを上から押し下に下げる。
「力が入って上にいってるね。力を抜いて。そう。」
スイの指示した位置でボウガンを撃つと、矢は的の真ん中に当たった。
それから、残りの二発も同じように撃つと全て的に当たった。
「いいよ、今の感覚を忘れないように。」
今のスイの姿は、先程のポンコツな姿とは思えないほどしっかりしている。
やるときはやる人なのだろうとセシルは考えを改めたのだった。
「終了。ボウガンを置いてくれ。」
こうして、ボウガンの訓練は無事終える事が出来たのだ。
続いてフィーブルの後に続き、隣の建物に移動する。
その途中、妹が話しかけてきた。
「スイ姉がごめんね。」
「いえ、むしろ助けて貰ったというか。」
「そうだぞ、私だってたまにはやるんだぞ。」
そう言って、スイは誇らしげに胸を張る。
建物の中に入り番号順に並ぶと、一人一人に小さめの剣が手渡される。
「武器の練習だ。今回は短剣だけで行う。腰に着けてくれ。」
生徒達は、調整しながら短剣を腰に着ける。
取り出しやすいか、柄を握り確認をしている。
準備が済むと、足下にある番号の位置に立つ。
目の前に来るよう、鉄で出来た丸太が立てられている。
「じゃあ、お前ら。それを切れ。」
「斬れ!? 流石に鉄は無理だと思いますけど。」
「良いから切れ。それぐらい出来ないと立派なハンターにはなれんぞ?」
セシルは、短剣を抜いて持ってみる。
片手や両手で持って、持ちやすい方法を探っていく。
とりあえず、手慣れた斧をふるように構えてみる。
「やれっ。」
とにかくやらない事には始まらない。
まず一撃を振り下ろす。
しかし、痛みが返ってくるだけでびくともしない。
それもそのはず、たかが剣で鉄を斬れるはずがないのだ。
「どうした。出来ないのか?」
「無理です。こんなの切れませんよ。」
生徒の一人が言い返す。
他の生徒も同じようだ。
誰も鉄を切れてない。
四人組の一人が刃先を確かめる。
「本当にプロは切れるのかよ。」
「ん? 無理に決まってるだろ。」
「えっ!?」
驚く生徒達。
出来ない事をさせようとしているのだ。
そんな無理な話を納得出来る訳がない。
「なんだよ。俺達をハンターにさせたくはないのか?」
「いいや。そんな事は言ってないぞ? 俺が言ったのは立派なハンターになれないという事だけだ。」
確かに、鉄を切れないとハンターになれないなんて言ってない。
それでは生徒達に何をさせようとしたのか。
「そういえばそうか。じゃあ、これの目的は何なんだ?」
「・・・モンスターの中には硬い鱗で覆われている者がいる。鉄ほどではないが、ハンターを目指す上でそいつらと戦う事になるだろう。そのために、知っておいて欲しかったんだ。人類の力ではどうにもならない相手がいる事をな。」
鉄ほどでなくとも、どうにもならない相手は沢山いる。
だから、知っておいて欲しかったんだろう。
その時に絶望して諦めないように。
「それが、この剣の講習での教えたい事だ。」
「なんだ、そういう事かよ。落ちたかと思ってひやひやしたぜ。」
「ふふ。驚かしてすまない。だがな、一人だけこの鉄をへこました奴がいる。だから、みんなも諦めずに頑張ってくれ。」
「いや。マジで?」
最後の言葉に一同が驚いた。
この鉄をへこませた人物がいる。
つまり、鍛えればそこまでいけるという事だ。
「まぁ、お前達がそこまでいく必要はない。一番大事なのは自分に合った武器を見つける事だ。いろいろ試して自分に合った一本を見つけてくれ。では、ここまで。」
これで、武器の練習は終わりのようだ。
生徒達は、短剣を外しフィーブルに返していく。
全ての短剣を棚に置いたフィーブルは、生徒達を身体測定を行った場所に先導する。
「これで一通りは終わりかな。後は実戦で試すだけだ。講座をした部屋に戻ってくれ。」
生徒達は防具を外すと、講座を行った部屋に戻ったのだった。




