これからの事
「そうですか。お疲れさまです。では、休んで下さいね。」
通信機の受話器を置くトーパ。
場所は竜車の中だ。
いま、姫様を送っている所だ。
その姫様が聞く。
「どうでしたか?」
「無事、討伐したそうよ。」
「そうですか。良かったです。」
姫様がほっと胸を撫で下ろす。
危機が去って安心したようだ。
姫様の隣にいる騎士団長が言う。
「早いな。こちらの合流より早く倒すなんてな。」
「私達が認めるハンターですから。それよりも、問題はこれからの事ですね。」
元凶のドラゴンはいなくなった。
しかし、起きた事の問題は山積みだ。
トーパが竜車の前座に声をかける。
「ギルド長、被害は大きいですよ。」
「その言い方慣れねぇな。まぁ、良いか。港の事だろ? 報告は受けてるぜ。」
救助に向かった職員から聞いているのだろう。
ならば、被害の全容も知っているはずだ。
姫様が頭を下げる。
「私達のせいです。すみません。」
「あやまんじゃねぇよ。元々この辺にいたんだろ? 遅かれ早かれだ。護衛料は、しっかり貰うがな。」
「はい。必ず。」
ドラゴンがしでかした事は、自然災害に等しいのだ。
誰かのせいという訳では無い。
ギルド長が空を見上げる。
「とはいっても、この嵐が無くならねぇと被害の確認が出来やしねぇ。」
「それなら、もう少しでやむはずですよ。貯めてきた物を一気に解放したでしょうし。」
「だといいんだがな。まぁ、急いだってどうにもなんねぇからな。」
急いだところで、港が直るわけでもない。
結局の所、もう港が使えないという事実は変わらないのだ。
問題は、港が使えない事によって起きる事だ。
「しばらくは漁は無理だな。」
「大陸から魚介類が無くなりますね。」
「そんな、どうしましょう。」
姫様が動揺する。
食料不足の解決に当たっている所にこの事実だ。
対処すべき事が増えたと言うまでもない。
ギルド長が頭を抱える。
「ただでさえ収穫減ってんのによぅ。参ったぜ。」
「大丈夫ですよ。それならもう解決しますよ。」
「どういう事だ?」
「ドラゴンですよ。確証は無いですが、地上の水分を吸収していたんでしょう。それを空に運んだせいで地上が干からびて野菜が育たなかったんでしょう。」
「で、そのドラゴンがいなくなったから大丈夫だという事か?」
「そうだと思います。」
原因がいなくなったから、地上の水分も元通り。
畑の問題は解決するだろう。
トーパが続ける。
「しかし、魚介類の解決にはなりませんが。」
「構わねぇよ。いくらでも建て直してやらぁ。」
「王国も出来る限りの協力をしますね。」
姫様が答える。
食料問題は大陸の危機。
大陸の問題は、王国が対処する。
トーパも同意する。
「えぇ、一緒に解決していきましょう。」
「こりゃあ大助かりだ。おっと、見えてきたぜ。」
一同が、竜車の中から前を覗く。
そこには、騎士団の竜車が並んでいる。
その前に止まると、騎士団長が下りる。
「皆のもの。怪我人がいる。運べっ。」
了解と返事をした騎士が、それぞれの竜車や馬車に向かう。
そこから怪我人を降ろして運んで行く。
中には暴れる者もいる。
「もう来るなっ。助けてくれぇ。」
「許してくれっ。」
「落ち着け、何もない。大丈夫だ。」
少し触れただけで暴れだすのだ。
心の傷は深そうだ。
それを見た騎士団長が言う。
「参ったな。ここまでだとは。」
「離脱者が出ますね。」
「あぁ。でも今は、治療が先だ。」
「えぇ。彼らを支えてあげましょう。」
姫様と騎士団長が決意を改める。
最後まで生き残った者達を救わなくてはならない。
それが、彼らの主の役目なのだ。
トーパが姫様に近づく。
「エル。頑張りなさい。」
「はい、お姉様。」
「では、お別れですね。さようなら。」
「また会いましょう。さようなら。」
姫様と騎士団長が、頭を下げる。
そして、騎士団の竜車に向かう。
トーパが見送る。
「しっかりね。エル。」
「心配ですか?」
「えぇ、勿論です。大事な妹のような者ですから。・・・何でいるんですか?」
「そこに仕事があるからさ。都市を出ても、モテモテなので。」
そこにいたのはスピナだ。
いつの間にか、トーパの横に並んでいたようだ。
スピナを見つけたギルド長も来る。
「スピナ嬢ちゃんじゃねぇか。」
「おや、ギルド長。お久し振りですね。時が立つのは早いもんだ。」
「雪溶け前にあったばかりじゃねぇか。んで、忙しいんじゃ無かったか?」
「連チャンの仕事ですよ。嵐の調査で派遣されたんです。人使いが荒いですよね。」
スピナが怒っているように言った。
直接見に行くよう言われたんだろう。
ギルド長が後ろを振り向く。
「見ての通りだ。まだ嵐は続いているぜ。」
「そのようですね。でも、もうそろそろやみますよ。最後の踏ん張りですね。」
「やっぱりそうでしたか。では、急いで戻りましょう。」
「おう、そうだな。じゃあ、ちょっくら指示を出してくるぜ。」
ギルド長が生徒達の下へと向かう。
運び終えたのか、騎士はもういない。
トーパが竜車に乗ると、スピナも続く。
「そういえば、エリアの問題はどうなりました?」
「見事解決。後は、工事のギルドにお任せですよ。一件落着ですね。」
「忙しそうですね。」
「いえ。見ただけで分かる仕事なので、そこまで大変じゃ無いですよ。要するに遊びに来ました。」
悪びれもなくそう言ったスピナ。
嵐の状況を見ただけで被害が分かるらしい。
つまり、町に寄る必要はないはずなのだ。
トーパが呆れる。
「そうですか。なら、少しは力を貸して下さい。」
「何かあったの?」
「収穫が減っている問題が片付きそうなんですよ。」
「へぇ。じゃあ、私の出番ですね。一肌脱ぎますよ。」
彼女がいれば、激しく変わるであろう環境の変化が分かるのだ。
畑を作り直すのに必要な逸材だ。
戻ってきたギルド長もお願いする。
「俺からも頼んだぜ。畑に何かあったら大変だからな。」
「任せて下さい。お礼は、こっちにいる間の食事で。」
「おう、良いのを用意しておくぜ。」
そう言って、前座に座るギルド長。
準備は出来たようだ。
セシルを天井に乗せた、ギルドマスターの竜車が動く。
「おし、やっと帰れるな。」
「やる事がいっぱいですね。」
「あぁ。忙しくなるぞ。」
ギルド長の竜車も動き出す。
その後ろを、生徒達も続く。
スピナがトーパに聞く。
「ところで、そっちの経過はどうですか?」
「順調ですよ。ウルフちゃんも指示を覚えれています。」
「それは何より。後は、祈るだけですね。」
「えぇ。はずれを当てないよう祈りましょう。」
「ん? 何か起こんのか?」
「こっちの事なので、お気になさらずに。知らぬがなんとやらですよ。」
首を傾げるギルド長。
しかし、二人は答えようとはしない。
恐らく、神獣の事についてだろう。
それ以上、ギルド長は深入りしない。
「まぁ良いや。それより嵐が晴れるぞ。」
「言った通りですね。光ってますね。」
「えぇ。」
空を見上げると、雲から光が差し込んでいる。
もう、雨も風も無い。
すべてが元通りだ。
光が射す道を進みながら町に戻る。
それと同時刻。
エメリナの研究所。
エメリナが、望遠鏡を覗いている。
「間違いないわ。」
「見せてくれ。」
エメリナがどいてガーネリヤが覗く。
見ているのは、神獣の鱗にこびりついていた塊だ。
ほんのわずかのそれを、なんとか見つけ出したのだ。
ガーネリヤが離れる。
「火山灰の塊だな。」
「そうね。なら、神獣の居場所は火山がある島ね。」
「そうだな。」
ようやく証拠を見つけて、居場所が分かったのだ。
それなのに、二人は喜ばない。
いや、喜べない。
なぜかと言うと。
「つまり、大陸の下か。」
「そうね。下ね。」
「下か。」
「下ね。」
「そうか、下なのか。」
「・・・現実逃避はやめましょう。結果は変わらないわ。」
飲み物を飲んで二人が落ち着く。
体を預けて、疲れた体を休ませる。
しばらくして、エメリナが口を開く。
「話をまとめましょう。神獣は海に出て上に向かったと。」
「そうだね。ギルドマスターもそう言っていた。」
「でも、海竜の巣を突っ切ったせいで途中で追えなくなった。」
「あっている。」
「でも、この欠片が本当なら下にある巣に向かった事になる。」
「そうだね。」
再び静まる二人。
顔に手を当てたガーネリヤが溜め息をつく。
そして、一言呟く。
「最悪だ。」
火山灰の塊はほんの数ミリだけ残ってあるのを見つけました。
この章も、後一話です。




