第1課題 WORLD WIDE ANTNEST 第13問
窓ガラスをぶち破った俺は、頭から真っ直ぐに地面に落下してゆく。
5階からなので、おそらく数秒だったとは思うが、生まれてからこれまでの人生が、走馬燈の様に思い出された、と言うか、本当に思い出すんだと感心した。
なんだかとても不思議な人生。
特に、なんだかとても不思議な人生の終焉。
地球って本当に何でできているんだろう?
ひょっとしたら本当にアリでできているのかもしれない。
だって、アリでできていない事を本当に証明することができるのだろうか?
誰も(ひょっとしてアリは除くのかもしれない)内核まで行った事がないし、可能性はゼロではない。
ああ、母ちゃん、俺が死んで悲しむかな。
最近全く連絡取って無かったし、もうちょっと親孝行すれば良かったな。
父ちゃんにも合わせる顔無いな。
いつも「人様にだけは迷惑をかけるな」と言われていたのに、どう見ても一番迷惑かけているよな。
ああ、ごめんなさい、もう二度とこんな事はしません。
チサ。
全然お兄ちゃんらしいことをしてあげられなくてごめん。
もっとチサと遊びたかったし、もっとお勉強を教えてあげたかったよ。
15も歳が離れていたせいで、兄妹っていうよりよく親子に間違えられたっけ。
そうそう、チサ、来年中学生になると思うけど、すると地学って科目があるんだ。
地球とは何か、地面は何でできているかって事を勉強するやつ。
これは是非とも一所懸命勉強しておいてね。
そして、人類で初めて内核まで行く人になって、そこに何があるのか、見て来てほしいんだ。
それで、何があったのか、お兄ちゃんにも教えて。
ドシン
俺は頭から地面に落下した。
頭蓋骨はすいか割りのごとく落下点を中心にきれいな弧を描いて大破、頸椎はおつまみウナギの骨のごとく複雑骨折、内臓の多くは破裂して周囲に飛散、左足は大腿骨の真ん中から折れ曲がり、靴の踵が俺の右肩に乗っかっていた。
俺の記憶は徐々に薄れ、暗闇に満たされた。
大惨事にも関わらず、落下した場所は人がほとんど通らないビルの中庭だった為、血塗れで人間の原形をとどめない川本の存在が、暫く誰にも気付かれ無かった。
クライアントも、チームメンバーも、会社の先輩も、目の前で起きた怪奇現象を理解できず、ただただ震え上がっている。
すると、中庭の樹木、芝生、石畳の間、あらゆる隙間から次々とアリが現れた。
どこにそんなに潜んでいたのか、その数は楽に那由他を越え、辺りは一面、黒い絨毯が敷かれたようになった。
川本の肢体に到達したアリ達は、その強靱な顎で皮を、肉を、骨を、内蔵を、ペニスを、体毛を小さく喰い千切っては、巣の中へ戻る。
次々と、次々と、同じ所作が繰り返された。
そして、川本の肢体、存在は、この世の中から完全に消え去った。