第1課題 WORLD WIDE ANTNEST 第11問
「まだ……まだ、耐えられた。そこまでは、耐えられた。しかし、つい最近だよ、今までで一番厄介で、なんかごちゃごちゃうるさい生命体が出て来たんだ。こいつ等、神聖な大地をアスファルトやコンクリートで固めてワレワレのルーティーンに必要な内核と地表の往来を妨害するのみならず、時には特殊な薬液でワレワレの同士を大量殺戮したりしやがる。これには、流石の女王アリ様も激怒された」
喉がイガイガする。
俺はポケットからのど飴を取り出して口の中にポンっと入れた。
スース―するミントが心地よい。
「そこで、女王アリ様は、一度地表をきれいにするようにと、我々に命じられたのです」
全員が俺に希有の視線を投げかける。
会場がザワザワと嘆きの声で満たされようとしていた。
(おいおい、こいつ頭本当に狂ってるぞ)
(ちょっとマジでやばい。チョーウケるんですけど)
(本プロジェクト失注による金額的打撃はでかいな)
(アリがそんなに好きならアリさんマークの……)
「黙れ!」
再び静寂が会場を包む。
俺は話を続ける。
「人類は、哀れである。女王アリ様が内核にいらっしゃって、地球のあらゆる生と死を司っていらっしゃる、という事実を人類は知らずに、とても哀れである。人類が食物連鎖の頂点に君臨し、地球を支配していると勘違いしており、甚だ哀れである。人類がインターネットを通じて、世界の情報を牛耳っていると勘違いしており、極めて哀れである。人類は命を無駄に延命させる為の医療こそが、最大の英知だと勘違いしており、心の底から哀れである」
憤慨したハゲブが立ち上がり、俺の元に詰め寄ってきた。
そして俺の胸ぐらを掴みながら、退席指示を出してきやがった。
俺は容赦無くハゲブの顔面を拳で殴りつける。
俺のワイシャツに、クライアントから噴き出した鼻血が飛び散った。
おいおい、今日何回目だよ。
会場に悲鳴が轟き、我がチームメンバーからも数名が立ち上がって俺を制止しようと歩み寄ってくる。
「違う、違う、全く違う! 『女王アリ様』が、地球の意思に基づいて生死の頂点に君臨している。人類を除く全ての生命の亡骸は、ワレワレによって噛み砕かれ、女王アリ様の元へ送られ、食されて、女王様の血肉へと還元されてゆく。だろう? ワレワレの巣は、どこまで続いているかご存知か? マリアナ海峡の海底、エベレストの頂、そして女王アリ様のいらっしゃる内核まで全てだ。地球の隅々をつなぐこのネットワークは地球で起きている全ての情報を女王様へお届けし、地球の意思に基づいて行動を統べるモノとして、核心を得たご判断をいただいているのだ。お前らが日々お世話になっているインターネットの情報網なんて、所詮薄っぺらい情報。糸でんわみたいなもんだよ。だろう?そうそう、お前らはウェブサイトの事、World Wide Webって言うじゃない? ワレワレにしてみれば無礼の極みだ。なぜWeb、蜘蛛の巣なの?」
俺はちっちっちっと人差し指を横に振って間違いを指摘してやる。
「そこはアリの巣でしょ。Antnestでしょ。なんでワレワレに感謝しないのさ?World Wide Antnestで無かった事が女王アリ様の逆鱗に触れ、一度地表をきれいにするという女王アリ様の最終決断に繋がったんだよ。鱗は無いけど。ワレワレは、女王アリ様の意向に添い、この地球の安定を邪魔する存在『人類』をクリーンナップすべく、天変地異、パンデミック、そしてとても効率良く人類同士を殺し合わせる戦争を演出してきた。しかし、なかなかシブトくて死なないんだよね、『人類』って。余計な医療の知恵を付け、結局死ぬのに無駄な延命ばかりを繰り返す。人類が絶滅することが、この地球にとって一番『タメ』になり、幸せな結末であると、お前ら自身、実は自覚をしている。だろう?」
そして、俺は自分でも信じられない様なアリ声を発していた。
ダカラサ、コレイジョウ、チヒョウデ、チンタラスンジャネーヨ。
イマカラ、チョクセツ、ジョオウアリサマノモトヘ、デリバリーシテヤルヨ。