07、村村村村村村占霊騎狂狼狼狼
桜真「お前が……誘拐犯だと?」
傷だらけの桜真。眉を寄せ、奴を睨んだ。
ななし「やあ!元気そうだね、君も」
桜真「よくも……お前……」
ななし「あれ?怒っちゃった?ひひひ」
確かに誘拐犯だなんて信じられないが、それよりも……
雛「待って!ちょ、ちょっと待って!」
先に確認しないといけないことがあるだろう。
ななし「なんだよー、うるせえな。
今、しゃべってんじゃん?」
雛「実際に死ぬってどういうこと?」
ななし「日本語わかんねえの?お前。
人狼ゲームでの死は、現実の死に置き換わりますってだけじゃん。何がわからないの?」
もう一度聞いてもわからない。何だ私がおかしいのか?
壮大なドッキリとか?
霊時「……何言ってんだ、おい」
美雨「お父様は、それを許したの?」
美雨の変に空気が読めてない質問がもはや頼もしかった。
そうだ、それも気になるところ。
仁一郎「許しておる」
予想外にも返事が来た。
よく見れば満月の席の後ろあたりにお父様がいた。
上半身を持ちあげる傾斜のあるパラマウントベッドに身を預けて、まるでこの円卓を観戦するような形で。
仁一郎「怪盗ななし……奴の話した内容は全て事実じゃ。
貴様らは人狼ゲームのすえ遺産と命を賭けてもらうためにここに集めた」
よぼよぼの老人。口元だけがもごもごと動き、話していた。
初日「え?親父……本気なん?」
仁一郎「ああ、増え過ぎた我が息子、娘ども。
貴様らの殺し合いを見たのちわしの人生は筆を置く。
これはわしの最後の創作じゃ」
花火「え、いやいや。何でウチら殺し合わないとダメなの?」
仁一郎「黙れ、大罪人どもが。
人殺しのくせに、正論をかざすな」
舞雪「ひ、人殺し?な、何が?」
仁一郎「ふん、全て知っておるのじゃ……
例の桜真誘拐事件の真相も!
それだけではなく、247号線大型トラック横転事故の真因!
葉山アンナが自殺を選んだ理由も!
さらに国語教師一家心中事件や、滅多刺しの調理実習室といった大きく報道された事件も、全てこの中の者の愚行じゃとわかっている。
また、自殺サイトを用いて人を慢性的に自殺に追い込む者もいれば、自身の母親を殺害した者までいる始末。
そして“これから人を殺そうと企ている者”も同じじゃ」
全員が黙る。
それだけで、今言った事件の関係者や犯人だと言うことがわかる。
仁一朗「そんな貴様らを裁くゲームでもある。
もちろん、1人血縁ではない者が混じっているが、その者の参加も特別に認めておる」
ななし「ふふ、そうこなくちゃ」
仁一朗「外れない拘束具でこちらの本気が伝わらんか?
どっちにしろ、貴様ら13人はもはや逃れる手はない」
花火「え?死ぬってでも、どうやって……」
仁一朗「ふふふ、具体的に見せてやろう。
桜真の席の裏手を見るがよい」
桜真の席の裏。
明かりが広がり、何本もの電線が絡み合う金網に囲われた空間があった。
椅子はないが、電気椅子を連想させる。
仁一郎「電気椅子じゃ。ゲーム内の昼のターンで処刑が決まった人を処刑する装置だ。
円卓がメリーゴーランドのように回転し、処刑者を電気椅子の正面に連れていく。
そして処刑者を椅子ごと金網の中に引き込む仕様だ」
鳥肌が立つ。
仁一郎「そして次は霊時の席の後ろを見よ」
電気椅子とちょうど反対の場所。
狼の顔をした洗車機のような物がある。
狼の口が入り口となっており、1.5mほどの大きさのそれも、人を椅子ごと引き込みそうだった。
仁一郎「それは狼の牙。夜のターンに人狼に襲撃された者を椅子ごと引き込む装置。
作動させれば、多種多様の刃物が突き出て、中に入った者はズタズタに噛み殺される」
鳥肌は止まない。
本気で言ってるのか?
仁一郎「ふふふ、ゲーム決着時にもこれを使う。
負けたチームは決着時に生き残りがいたとしても、全員この装置で処理するという意味じゃ。
人狼と同じ数になった時に生存してる村人や、人狼が死に絶えた時の狂人などが対象だ。
どうだ?事態を理解したか?」
待ってくれ。そんな話ないだろう。
確かに金はほしかったが、死ぬなんてごめんだ。
死ぬくらいなら、金なんていらない。
私の目に涙が溜まり始めた。
仁一郎「そう、もうひとつ。
伝えろと言われたことがあったな。
電気椅子と狼の牙は電力消費の関係で作動回数は9回までしか作動しない。
どうやら不安定な装置らしくてな。
まあ、もしこれらが作動しなくなった暁にはゲームは不可能。その場合は中止にしてやろう。
もし……じゃがな。ふふふ」
ドオォン!!
突如、衝撃音が響いた。
衝撃音は私の右隣からで、すごく驚く。
……お兄ちゃんが拳を机に叩きつけたようだ。
閏悟「ふざけるな」
円卓にヒビが!
兄の拳から血が滲む。
閏悟「すぐに全員を解放しろ。
……ぶち殺すぞジジイ」
メガネの先の細い目で睨む。同時に椅子がミシっと軋む。
その威嚇がこの場ではとても頼もしかった。
仁一郎「ふ、閏悟か。お前は相変わらず、頭に血がのぼると手がつけられんのう。
昔から都合の悪いことは聞くこともしない。手を煩わされたものだ」
星彦「いや、当たり前の反応だろう」
星彦も追撃する。
星彦「誰が命を乗せてまで、金を貰いたいんだ。ボケが。
俺もおりるぞ」
霊時「そうだ!バカにするな!
警察を呼べ!俺は拉致までされてるんだ!
俺の親だって黙っちゃいないぞ!」
霊時も大声で反論した。
もともと正義感も強いのだろう。
仁一郎「ふん、やれやれしょうがない。
駄々をこねる息子を叱責するのも親の務めか……
ならば……」
背中に嫌な冷や汗が滲む。
仁一郎「1人ずつ処刑するとしよう」
閏悟「……何?」
仁一郎「仕方なかろう。
人狼ゲームは、1人の戦犯がゲーム性を破壊出来うるゲーム。人狼ゲームが見られないなら、仕方ない。残念じゃが全員葬ろう。
まずは閏悟……貴様からじゃ」
父がそう言うと、ピッと音と共に円卓が回転する。
舞雪「うわ!」
雛「え?え?」
そしてお兄ちゃんが電気椅子の前に来て、止まった。
まさか……本当に……
閏悟「……」
そんな時も、微動だにしない兄。
しかし私の目には浮かんだ。
……兄の感電死体が。
雛「ま、待っ」
満月「待て!!」
意外な人物が声を上げた。
仁一郎「……なんじゃ?」
全員声を失い、視線を重ねる。
第九子、赤村満月に。
満月「……やろう」
雛「え?」
満月「やると言っている。命懸けの人狼ゲーム。
……みせしめはやめろ。無意味に殺すな」
みせしめ……?
頭がうまく回らない。
兎摘「はあ?あんた、何勝手に……」
満月「みんなよく聞け。
この部屋からは……」
閏悟「……」
満月「死体の匂いがする。
奴は本気だ」
つまり、ここであの装置で人が死んだ過去があるということか。
満月「生殺与奪は奴に握られた。死にたくなければ適応しろ」
兎摘「何よあんた!本気で言ってんの」
満月「黙れ。私はもともと何かしら要求される覚悟くらいは持って来ている。
億単位の遺産だぞ?ノーリスクで手に入れようなど幾らなんでも甘すぎる」
いや……なるほど。
覚悟という意味では私だって……
そう、私だって同じだ!
雛「私も……や、やるわ!」
やらなきゃ、お兄ちゃんから殺されるんだ。
ならば……やるしかない!
私だって……人を蹴落とす覚悟はあると思い出す。
初日「あーあ。まあ……しゃーない。
ワイも金いるねん。本気なら、やるしかないわな」
夢咲士「面白い。闇のゲームで俺様に勝てるか試してみるか?」
ななし「もういいから、早くやろーよ」
1人ずつ、確かに同意していく。
同意しときながら私は驚いた。
欲求。ここの館に来た時点で、欲求を持っているという話を思い出した。
まさかこれほどとは……
みんなのギラギラした瞳。
私だけじゃないんだ。こいつらだって。
人の命より……自分のための金。
やっぱり、こいつらも……
月影仁一郎の血を引く同じ穴の狼か……
仁一郎「いいだろう。では始めようか」
満月「待て。ひとつ聞いていいか?」
仁一郎「なんだ?ひとつじゃぞ」
満月「……このゲームの主催者は誰だ?」
何だ、その着眼点。
満月「さっき機械の説明の際に、
“伝えろと言われたことがあった”
“不安定な装置らしく”
という言葉。明らかに人づてだ」
仁一郎「……」
満月「あと、そこの隠し子を拉致した女子高生、また使用人を殺したのもそうかもな。
お前1人で行ってるわけじゃないんだろう?
主催者……主催者“達”は何者なんだ?」
確かにそこははっきり聞いておきたい。
仁一郎「ふふふ、確かに協力者がいる。このゲームを発案した“黒幕”もな。
知りたければ、生きること。ゲームに勝つことだ。
このゲームの終了時に嫌でも知ることになる」
含みのある言い方だった。
仁一郎「では、手元のモニターを見るがいい」
自分にしか見えない小さなモニター。
そっと触れてみる。いつの間にか光を発していた。
仁一郎「今から、そこにおのおのの配役を写していく。ふふふ、見逃すなよ」
そう、今から……
01、月影初日………雀士
02、柊閏悟…………カウンセラー
03、柊雛……………透視能力者
04、月影桜真………推理作家
05、片桐兎摘………自殺サイト管理人
06、片桐美雨………弁護士
07、笹川星彦………ホスト
08、晩花火…………宗教家
09、赤村満月………元未成年殺人犯
10、月影霊時………隠し子
11、源夢咲士………ゲーム実況者
12、柊舞雪…………人形演劇部
13、怪盗ななし……ノンフィクション
この中に、3匹の人食い人狼が放たれるんだ!
仁一郎「では1人ずつ役職を写す。これは完全なるランダムじゃ。
つまり神の選択。これまでの人生が評価されると言っていいじゃろう。
何が出ても誰も恨むことは出来ん」
私は身構える。
本当は心の準備が、まだだ。
いやきっとこんな状況で心の準備なんていつまでも定まらないだろう。
仁一郎「では、まずは月影初日から」
初日「え?ワイから?」
初日の腹元が光った!
きっと今、内側のモニターに彼の役職が写っているのだろう。
表情、仕草。ちゃんと見ていないと!
初日「……ああ、そう」
細目が少し笑ったように見えた。
いや不安そうにも見える。何か引いたのか?
仁一郎「次は柊閏悟だ」
閏悟「……」
兄は額に血管を浮かべたままだ。
お兄ちゃん。切り替えてよ!
生き残るために!
モニターが光る。
閏悟「………………」
モニターを睨んでいる。何も言わず、微動だにもしない。
メガネの奥でまばたきを二度ほど繰り返しただけで、ほぼ反応がなかった。
……焦る。
実の兄なら少しは何か掴めるかと思ったが、妹の私も彼が何を引いたのかなどわからなかった。
そ、それより……
仁一郎「次は柊雛じゃな」
雛「……!」
私の番だ!
モニターに映像が流れ始める。
カードがスロットマシーンのようにくるくる回り始めた。