06、13人村
けたたましいサイレン音によって起こされる。
早く起きろと脳を揺さぶられているようで、煩わしかった。
雛「う、うるさいな……」
私は苛立ちながらも目を開く。何の音だ?
初日「あ、なんやここ?」
辺りを見渡す。
館のホールとはまた別の薄暗い一室。
目の前には円卓。遺産相続者達で囲んでいることがわかる。
夢咲士「ふん、俺様が怖いのか?こんなもので封印出来るとでも?」
兎摘「何よこれ!
立ち上がれないじゃないの!」
椅子でもがく兎摘に対して、私も視線を下げた。
腹部にはベルト、そして椅子に固定された首輪に圧迫感を感じた。
縛られている……?
桜真「窓がない……地下室?
噂に聞く館の隠し部屋か?」
閏悟「拘束具を外して下さい。親族であろうと犯罪にあたります」
舞雪「お、お姉ちゃん……」
少し離れた席で舞雪が不安そうに私を見つめている。
私の右は兄、左は桜真。どうやら時計回りに出生順で座らされているようだ。
星彦「ひとまず全員無事のようだな」
花火「え、てかスマホないんだけど!
あと何このモニター?」
円卓の中央には大型のディスプレイがはめこんである。
そして円卓のへり、引き出しがある場所にも小さなモニターが埋めこんであった。
中央のディスプレイに対して、これは私にしか見えない位置だった。
美雨「紙とペンもあるね。んー、何に使うのかな?」
満月「まさか、これは……」
「うわあああ!!何だお前ら!!」
急な大声に驚く。
先ほどのホールにいなかった少年が座っていた。
パーカー姿の少年。顔にはメガネとピンクのマスク。自宅での普段着のような格好の少年。
夢咲士「ふ、ようやくお目覚めか?」
満月「誰だ貴様?」
両隣の2人から問われる。出生順ということは、あいつは……
雛「まさか……第十子の月影霊時?」
桜真「なるほど。俺と兄貴も写真でしか見たことないが、多分そうだな」
霊時「げっほごほ!う、動けねえ!くそ!誰だお前ら!ここはどこだ!!」
大きめの咳をしながらも、叫び散らかしている。
閏悟「落ち着いてください。こちらも同じ状況です」
霊時「お、同じ状況だと?
ね、眠ってる間に一体何が?」
満月「貴様、もともとはどこにいたんだ?」
霊時「え、えっと犬飼町の家にいたはずで」
兎摘「あんた、遺産相続の招集に応じなかったんじゃないの?」
霊時「い、遺産相続?
ま、待て。記憶が曖昧なんだ。
……そうだ、昨日親にそのことを話されて、それが原因なのか今日高熱で学校を早退したはず……」
目線を小刻みに切る。重い記憶を遡ろうとしてる。
満月「ああ、で?その後何があった?」
霊時「えっと……家で寝てても暇だったから、サッカーの試合を観て……」
満月「サッカーの試合?
そんなもの今日はやっていなかったと思うぞ」
満月は何かを疑っている。
霊時「あ、ああ、録画だよ。過去の自分の試合の」
兎摘「あら?自分で自分を観てたの?
ナルシスト予備軍なのね」
霊時「ち、違う!ビデオ研究って知らないのか?自分のプレイをビデオで復習して、次への調整となる立派な練習だ!た、確かに自分を見るのはちょっと嫌悪感はあるけど……
公式戦の前日には必ずしないと……」
星彦「んなことどうでもいいんだ。何で今ここにいるか、質問に答えろ」
顔を赤くする第十子。
他の特徴的な兄弟に比べて、部活をがんばる高校生にしか見えない。
霊時「う……あ!そ、そうか!
22時に、みきちゃんが家の前の公園に来て……
みきちゃんが、何でか注射みたいなもん持ってて、それで……俺を……」
どんどん顔が暗くなる。
信じられないって顔に書いてある。
満月「色々と疑問があるが……
その女に拉致されたという話か?
そいつとはどういう関係なんだ?」
霊時「……いや、実は詳しくは知らなくて。公式戦会場で急に連絡先聞かれて、みきってのも本名じゃないって言ってた」
花火「はあー?何よそれ?」
霊時「ただなんかよくわからないことを言われて……」
雛「何言われたの?」
霊時「じ、人狼ゲームをやってほしいって……」
満月「…………」
舞雪「人狼ゲームって、あの?」
夢咲士「嘘と殺戮が奏でる闇のゲームだ」
雛「は?まさかとは思うけど、そんな娯楽で遺産の取り分決めるとかじゃないよね?」
「いえいえ、実はそのまさか」
地下室の扉がギィィと開き、向こうから何者かが入ってきた。
「やあ、みなさん12人揃ってるね」
そいつは何をふざけているのかスーツ姿に仮面をかぶっていた。
しかも、目の穴のみの無地の仮面。
「つまりね!月影仁一郎の遺産相続ってのは、今から人狼ゲームをして勝った人が総取りするルールなんだよ」
……いやいや。
何だその悪い冗談は。
満月「……」
初日「はあ?そんなんワイ聞いてへんぞ」
「今、話したことだもん」
閏悟「……そもそもどちら様でしょうか?」
「僕?僕はね、怪盗ななし。
今からこの遺産相続にあたるこのゲームの説明をさせてもらう者だよ」
そう告げ、そいつは円卓の一脚へ自ら座った。
舞雪と初日の間の席に。
美雨「怪盗ななし……が、そもそも誰かわかんないんだけど」
兎摘「しかも、大事な遺産相続を人狼ゲームで決めるなんてふざけてるの?」
花火「それ、お父様から依頼されたってこと?」
星彦「おい、いいからまずはこの椅子の拘束具を外せお面野郎」
ななし「あーもう!あれこれうるさいなー!
ひとまず順番に説明するから、聞いてもらえる?」
そいつはめんどくさそうに私達の不満をはねのけた。
そして人狼ゲームのルールとやらを説明し始めた。
ななし「招待状を受け取った有権者のみなさまに、遺産相続における人狼ゲームのルールを説明しまーす!
ルールは一度しか言わないので、聞き逃さないように努めてください。
まず人狼ゲームとは、
トーク形式で行う心理ゲーム。
村人チームと、人狼チームに別れて相手チームを殲滅した方が勝ち。
最初に自身の役職を決めて、村人チームか人狼チームか決めるが、自分以外の役職は基本的には知ることが出来ない。
大まかなゲームイメージとしては、人狼の役職はうまく村人の中に紛れ込む。
村人は紛れこんだ人狼を見破り処刑する。
ゲームの流れは、昼のターンと夜のターンに別れる。
昼のターンは村人のターン。
村人が人狼と思う者を1人、多数決で処刑する。
夜のターンは逆に人狼のターン。
人狼はこっそりと話し合って、殺害する村人を1人決定する。
こうして、2日目、3日目と昼と夜のターンを繰り返すことで人数が減っていく。
その中で、
村人チームの勝利条件は、村に紛れた全ての人狼を処刑すること。
人狼チームの勝利条件は、生き残っている人狼と同じ数にまで村人を減らすこと。
人狼が3匹生き残っているなら、総数6人まで減らせば勝ち。
2匹なら総数4人までね。1匹なら総数2人まで。
そして村人チームには頼りになる特殊能力を持った役職がいる。
まず占い師が1人。
夜のターンになると、誰か1人を占って、その人が人狼か人間か知ることが出来る。
あくまで人狼か人間の2択で、役職が何かまではわからない。
そしてここが重要!占い師は“配役時にランダムで人狼ではない人を1人知っている”
次に霊能者が1人。
夜のターンになると、昼のターンに多数決で処刑した人が、人狼か人間だったか知ることが出来る。
昼のターンだけな理由としては、夜のターンに人狼に襲われた人は人間確定なため。
あと騎士が1人。
夜のターンに人狼の襲撃から誰かを守れる役職。
守った人が、もし人狼の襲撃対象に選ばれた場合、ガード成功。
その夜に犠牲者は出ません。
ただし、騎士は自分自身を守ることは出来ないので注意すること。
そしてここがポイント!騎士は“連続で同じ人を守れない”
例えば1日目にAさんを守れば、2日目にAさんは守れなくなる。しかしこの場合2日目にBさんを守り、3日目に再度Aさんを守るということは可能。
そして狂人が1人。
人間だが人狼チームが勝利した時にだけ勝利する特殊な役職。人狼側の人間。
人狼を探す村人を混乱させるのが仕事。
占い師や霊能者の結果は人間と判定される。
ただし狂人を殺すことは村人チームの勝利条件に関係ない。
逆に言うと狂人が生き残っていても、人狼を全て処刑すれば村は勝てる。
一番大事なポイントは、狂人は誰が人狼かわからず人狼も誰が狂人かわからないこと。
最後に人狼が3人。
人狼は村人チームに紛れて、処刑されずに、夜に1人ずつ人間を殺害していく。
人狼が人狼を襲うことは出来ない。
人狼のポイントは、自分以外の仲間が誰かを知っていること。
だから夜に誰を殺害するかも相談して決められる。
残りは全員、村人。
何にも能力がないただの村人チーム。
まとめると
狂人、1人
人狼、3人
人狼チーム4人。
占い師、1人
霊能者、1人
騎士、1人
残りが村人
これが村人チームとなります。
そして投票の順番について。
投票の順番は自由投票。心の決まった人から順に投票する。投票の早い遅いも推理要素。
さらに決戦投票について。
最多票が複数人いた場合、最多票の者のみを対象とした決戦投票を行う。
ここでも同数の場合、もう一度決戦投票を行う。
3回連続同数の場合、その日は処刑者なし。
最後に一番気になる遺産の分配について
ゲーム終了時、生き残っていた勝利陣営で山分けです。
残念ながら勝ったチームでも、死亡者には1円も入らないので、是非個人の生存も目指して下さい。
一旦とめようか。何か気になることある?」
みんな話さない。
聞いてはみたが……そんな表情で黙っている。
おかしなルールだ。私の所感はそれだった。何故なら……
桜真「つまりゲーム上で死んだ者は勝利陣営として認めないということか。変わったルールだな」
そこだ。そんなルール聞いたことない。
ななし「そうだよー」
桜真「なるほど、あとひとついいか?」
ななし「どうぞどうぞ」
桜真「お前も、もしかして参加者か?」
意外な質問に場が静まる。
ななし「……何で?」
桜真「やはり図星か。ケチなことをする」
初日「なんやなんや、どういうこっちゃ?」
桜真「簡単な話だ。怪盗ななしとやら。
こいつはゲームマスターのふりをした参加者だというだけだ」
花火「どゆこと?どゆこと?」
桜真「こいつが本当にゲームマスターなら、円卓を一緒に囲む理由などない。
人狼ゲームのゲームマスターは参加者の円の外から進行するもの。一緒に座ったりしない」
ななし本人は黙ったままだった。
桜真「また、違和感は村人の人数だけ言わなかったところだ。
理由は簡単。お前は合計人数を誤認させたかった。
正しくは、占い師1人。霊能者1人。騎士1人。狂人1人。
人狼3人。村人6人。計13人」
私はまだ話についていけていない。
桜真「極め付けは、ゲームマスターと告げるお前にも首輪とベルトが巻かれたことだ」
そこで初めていつのまにか仮面男にも首輪とベルトが巻かれていることに気付いた。
ななし「……へぇ、さすが!
仮にも月影桜真ってわけか」
初日「いやいや!もうなんやねん!めんどくさ!
ゲームマスターのフリするとか、何のメリットもないことすんなや!」
桜真「いやメリットはあるよ、兄貴」
初日「あんの?」
桜真「この人狼ゲームに関してはね。
誰もゲームマスターに投票したり、噛み殺そうとしないだろう?
つまり1人だけ死ぬことのないポジションに立てる。
人狼ゲームにおいて、死なないプレイヤーがいれば、役職が何であれ勝てる確率は上がる。
単純に死なないんだからな」
初日「なるほど」
桜真「全くとんだ笑い話だな。人狼に騙されないように議論した結果、ゲームマスターに騙されているなんて」
ずる賢いやつだ。一度きりの金がかかった大勝負。
イカサマを考える奴がいてもおかしくないが……
ななし「あはは、怒んないでよ!
ほんの冗談じゃんか!うん、認めるよ。確かに僕も参加者だよ!」
それはわかったが、ひとつ不満がある。
雛「いや、待ってよ。百歩譲って人狼ゲームで決めるのはいいわ。
そもそもおかしいのは、何で血縁でもないあんたに遺産相続権があるのよ」
正論だろう?
ななし「あのさあ、雛ちゃんだっけ?
ここまでヒント出してわからないの?
そんな風にうわべだけしか見れてないから、肝心な伏線を見落とすんだよ。僕はちゃーんと言ってるのに」
……?
何の話だ?
舞雪「か、怪盗って言ってたよね?」
ななし「そーそー。僕は怪盗です。
あともうひとつ、この白い仮面に注目」
夢咲士「それは月影仁一朗の著書に出てくる殺人鬼の仮面。
……まさかお前の正体は」
ななし「そうそう!もう忘れたの?
ちゃんと思い出してほしいなー
月影家は、大切なものを盗まれたんでしょ?」
雛「え?」
ななし「そういや、あの日はジュースもいただいたんだよ。
書斎の冷蔵庫にあったやつ!疲れてて喉乾いちゃったからね」
何で、そのことを……
こいつまさか……
満月「書斎……月影桜真誘拐事件……
あれの犯人……
つまりお前……
ノンフィクションか?」
ななし「いい推理。その通りです!
ただもう遅いけどね」
美雨「…………」
星彦「遅い?」
ななし「だってノンフィクションは自殺したと思ってたんでしょ?
まんまと僕の替え玉マジックにはまってたんでしょ?」
館の使用人達が死んでいたシーンを思い出す。
私の混乱した頭は、もう何も考えられておらず、ただ目の前で笑う怪盗とやらを眺めていた。
ななし「そう、あの時いただけなかった莫大な金。
それを今晩、再びいただきに参った次第です。
ね?これなら権利ありでしょ?」
全員黙る。まるで本から抜け出した殺人鬼に恐怖してるかのように。
ななし「もうわかったんじゃない?
どうしてゲームで死んだ人には遺産が貰えないのか?
簡単なことだよ。豚に真珠。死人に金。
人狼ゲーム内の死は現実の死だからさ」
無地の仮面の下。不敵な笑顔が想像出来る。
発言出来る者などいなかった。
ななし「さあ、始めようよ。
勝てば大金。負ければ死。
そう……“命懸けの”人狼ゲームをさ!」
01、月影初日………雀士
02、柊閏悟…………カウンセラー
03、柊雛……………透視能力者
04、月影桜真………推理作家
05、片桐兎摘………自殺サイト管理人
06、片桐美雨………弁護士
07、笹川星彦………ホスト
08、晩花火…………宗教家
09、赤村満月………元未成年殺人犯
10、月影霊時………隠し子
11、源夢咲士………ゲーム実況者
12、柊舞雪…………人形演劇部
13、怪盗ななし……ノンフィクション