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04、遺産相続者(一、四)

雛「私には視えてるよ。あなたが偽物だってこと」


桜真「……」


私をじっと見つめる包帯男。

気味が悪いが、私はその瞳に微笑み続ける。


さあ、どう出る?


円卓の全員が、今の発言に凍り付いている。

息を飲む音が聞こえてきそうだ。

なぜなら月影桜真が偽物なら、遺産の取り分は大幅に変わってくる。

もはや期待すらあるのだろう。


桜真「……ふ」


やがて包帯男は、不気味に笑うと顔の包帯をつまんだ。


雛「……え?」


くるくると包帯が外されていく。

そしてその中身は……


桜真「見苦しくてすまないが、これで満足か?」


傷や火傷のある顔。この顔は……


“あはは、ざまーみろ!”


花火「え、え?どうなの?本人なの?」


桜真「どうだ?雛。お前は、記憶を失う前の俺とも面識があったはずだ」


間違えようがない。私は奥歯をかみしめ答える。


雛「本人……だと思う」


確実に面影があった。

昔、恋した彼を思い出させるほどに。


初日「当たり前や。DNA鑑定でも証明されてるわ。

さらに言うなら、なあ?」


初日が桜真に頷く。


桜真「記憶を失くしていようが、書きかけの小説の続きを書けたこと。誘拐され監禁されている間にその続きを書き溜めていたこと。

親父にとってはそれが一番の証明となった」


上巻下巻の本。その内容がぴたりと繋がるなら、それは同一の作者でしかありえない。桜真らしい証明の仕方でもある。

私は納得せざるを得なかった。


初日「お得意の透かしは不発のようやね、雛ちゃん。

桜真の包帯の中身すら見抜けへんなら」


傷だらけの顔が私に呆れている。

私はうつむく。くそ、当てが外れたか。


兎摘「何よ、ちょっと期待しちゃったじゃない」


花火「ま、まあ外れることもあるってことよね」


雛「透視は万能じゃないからね。

視える時と視えない時があるの。だから……」


桜真「謙遜するな。何かしらのトリックを透視能力と偽るのも立派な才能。そうだろ?」


雛「……何ですって?」


桜真「人には無数の未来がある。

もし人の過去や未来が見える能力が、本当にあるなら。

俺なら真っ先に自分の未来を見る。

そんな風に金に困る未来が、あらかじめ視えていたら職業などに選ばないからな」


言い返される。私は黙ってしまう。


この言い回し、頭の回転。私は確信してしまう。

記憶がなくなろうが、間違いなく桜真だと。


雛「……」


私が反論に困っていると……


舞雪「もういいよ!」


反抗期の妹が立ち上がった。


雛「舞雪?」


舞雪「みんなさっきからお金お金ばっかり!

私には何も話してくれなかったくせに!」


羊のぬいぐるみを抱え、私物をかばんにつめている。


雛「舞雪、何してるの!」


舞雪「帰る!」


かばんを背負って吐き捨てた。


雛「舞雪、いい加減にしなさい!わがままばっかり言わないの!」


舞雪「うるさい!どうせお姉ちゃんだって、私のこと遺産の受け皿としか思ってないくせに!」


早足でホールの扉へ!

思いっきり開き、一度振り返る。


舞雪「家族なんて、みんな死んじゃえばいいんだ!」


そう叫び、本当に出て行ってしまった。


雛「……!」


ま、まずい!

どうする?追うか?

追わないと、舞雪は本当に帰りかねない。


し、しかし今もしお父様が来て遺産相続の話を始めたら、私まで1円も貰えないかもしれない。


……どうする?

そもそも辺鄙な場所、帰る方法なんてない。

その辺ですねてるだけだろうが……


私は立ち尽くしてしまう。


初日「あーあ、これで舞雪ちゃんも辞退かな?

“レイ”と同じで」


レイ?

初めて聞く名前だ。


桜真「兄貴、いいのか?それ、親父にも散々口止めされてたんだろう」


初日「今更怒られへんよ。親父はもうボケまくってるからな。

だってこの前、夜遅くに“夕子の幽霊が寝室に出る”とかワイに電話してきてんで!

もう何の判断も出来てへんやろ」


桜真「ふ、親父も歳だしな。さすがにレイの件も時効か」


何だ、何の話だ。


満月「もしかして、ここにいない最後1人。第十子のことか?」


第十子。いまだ空いてる最後の椅子へ目を向ける。


初日「せやで。第十子!彼の名前は月影霊時つきかげ れいじ。16歳。

月影本家の三男や」


驚いた。

月影の……三男だと?


星彦「あ?3人目の本家ってことか?

月影は、初日と桜真の2人だけじゃなかったのか?」


桜真「そう、つまりレイは隠し子だ。

遺産目当てのお前ら……というか世間にすら知られないように、母側の親戚夫婦に預けられていた」


なぜ、そんなことを?

と聞こうとしたが、16歳と言ったことを思い出しピンときた。


桜真「16年前。子宮を切り出された犬の死体に込められたメッセージ。

それはきっと“これ以上家族を増やすと皆殺しにする”と親父達は察した。

その時に妊娠していた本家の子供の将来は不安視されたんだ」


初日「もともとは、おかんの提案やで?

おかんは愛人とその子供……お前らを不信感でしか見てへんかったからな」


桜真「既に産まれてる俺と兄貴はともかく、せめて新しく産まれて来る子にはドロドロの家庭事情を経験せず普通の生活を送ってほしいと願い、子を授かれない親戚の元へ引き取ってもらったそうだ」


初日「そーゆーこと!ちなみにレイ本人も知らんかったみたいやで?だって全く違う名前で生活してたわけやし、そら招待状来てもそんなもんポカーンやろな!なははは!」


桜真「ともかく、遺産目当てのみんなには嫌な情報だろうな。

いくら今来ていないとはいえ、彼が貰えないわけないからな」


私は拳を作り、歯を食いしばる。


やられた……

心の内はその一言だった。


遺産の割り振りとして、桜真始め初日に多く渡されるのは当然の流れになると読んでいた。


そこにまさかの3人目の月影本家だと?

私達の取り分が減る事態に他ならない。


兎摘「そんな情報後出しなんてずるいわ。第一、来てなかったら遺産の配分はないって招待状に書いてあったじゃない!」


桜真「全ての決定権は父にある。欲を出すな。

……レイ以外全員、招待状に応じたんだろ?

つまりここにいる全員、金で叶えたい欲求があるのだろう?」


星彦「……」


花火「……」


夢咲士「……」


全員黙る。それは誰しもそうだろう。


“欲求”

それは誰にでもある行動原理。

ただこの遺産相続を賭けた館に集まる者達の腹には黒く醜いどろどろした欲が渦巻いている。

そんなこと、透視能力者の私でなくともみんな察している。


初日「いやー笑ったら喉乾いたわ。

メイド!なんか持ってきてや!」


花火「ん、そういえばさ」


花火がまわりを見渡しながら言う。


花火「さっきから使用人さん、誰もいなくない?」


そういえばそうだ。さっきまで壁付近で立っていた使用人やメイド、ボディガードの姿がなくなっていた。




「い、いやああああ!!」




突如、近くの部屋から悲鳴が轟いた。


雛「ま、舞雪?」


尋常じゃない声色。姉の私ですら聞いたことない悲鳴だ。

異常事態を確信し、駆け出していた。


何人かが私の後に付いてくる。


声の方へ向かうため、扉を何枚かくぐる。

やがて、使用人達の休憩室のような部屋へ辿り着く。

その部屋は……


舞雪「あ、お、おねえちゃ……」


雛「舞雪!!」


真っ赤な床!

そして全身血まみれの舞雪が震えながら立ち尽くしていた。


雛「な、なにこれ?どうしたの?あんた」


刺されでもしたのかと、全身調べる。

しかし負傷した様子は見当たらない。


舞雪「わ、私のじゃない……あ、あれ」


舞雪が震える指でさす先には……


雛「……え?」


オールバックの執事、可愛らしいメイド、目を光らせていたボディガード、お父様の主治医だろう女医、私達を送迎した中年ドライバーも。

5人がテーブルを囲み、ぼーっと座っている。今から食事を楽しむかのように。


そして……


雛「うそ……」


テーブルの上には、5つ。心臓のような物が置かれていた。

もともとは彼らの物なのだとわかった。


雛「……っ……!」


悲鳴と共に、胃から何か込み上げた。


舞雪「み、みんな……い、息してなく、て」


舞雪は過呼吸になりそうな口調で絞りだした。


星彦「おい、なんだこれ」


花火「う、うそでしょ……きゅ、救急車!」


後から到着したみんなも口々に驚く。


雛「ど、どう見ても死んでるでしょ」


舞雪「わ、私が来たら、もうこうなってて」


兎摘「ま、待ちなさいよ!

この人達、ちょっと前まで生きてたじゃない!」


閏悟「この死体の並べ方……まさか」


初日「ほんまや!これ、親父の作品にある血の宴のシーンやん」


美雨「…………」


驚く。そんなバカな……


満月「おかしいな。

これでは、まるでノンフィクションの被害者だ。

奴は自殺したんじゃなかったのか?」


夢咲士「くくく、まさか闇の力で復活したか?」


桜真「ただ解せんな。何故、使用人なんだ?

殺すべき対象はこんなにいるというのに」


雛「あんたら何でそんな冷静なのよ!と、とにかく警察を……」


そう言おうとした瞬間。

腕の中の舞雪が急に目を閉じる。

そしてそのまま眠ってしまった。


う、うそだろ!この状況でどんな神経してんだよ!


しかし近くに立っていたみんなもフラフラと床に倒れ込み始めた。

何だ?……まさか?


雛「……うっ」


視界が歪む。

睡眠薬でも飲まされたか?

いや、そうだとしてもこんな同時には……


私は力を失い床へ倒れこむ。

そこで見てしまう。

部屋の端に映るボンベのようなもの。うっすらと煙を吐き出していた。


ああ、なるほど。

睡眠ガスの方か……


私は腕の中の舞雪を強く抱きしめる。


こんなやばいところで眠るわけには……

この子だけでも守らないと……


意識がどこかに霧散していく。


だってこの子は……私の大切な……大切な……






月影仁一郎の子息(遺産相続候補者)

挿絵(By みてみん)

01、月影初日………雀士

02、柊閏悟…………カウンセラー

03、柊雛……………透視能力者

04、月影桜真………推理作家

05、片桐兎摘………自殺サイト管理人

06、片桐美雨………弁護士

07、笹川星彦………ホスト

08、晩花火…………宗教家

09、赤村満月………元未成年殺人犯

10、月影霊時………隠し子

11、源夢咲士………ゲーム実況者

12、柊舞雪…………人形演劇部






大切な、“遺産をもらうための秘密兵器”なんだから。




“お姉ちゃん見て!ルービックキューブ出来た!”


舞雪が7歳の頃だ。


“え、6面とも?すごいじゃない!

私、何時間かけても出来なかったのに。どうやったの?”


初めは、ただパズルが得意な子なのかな程度の感情だった。


“えへへ、実はね……”




この後の舞雪の発言に度肝を抜かれた感情を今でも覚えている。

まさかこの子に、こんな才能が備わっていたなんて。


いける!

これなら、柊家は父に認めてもらえる。


私の最大の切り札は舞雪。

この子に遺産を相続させるためにここへ来たんだ。

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