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03、遺産相続者(二、七、九)

舞雪「元未成年殺人犯って……何?」


問うが、何となくわかってはいるようだ。身構えている。


満月「今は22歳で成人しているが、未成年の頃に殺人を犯したという意味だ。

ただもう刑期は終えているから、ここにいるという話」


満月は眉一つ動かさず、自己紹介した。


兎摘「ふ……そんな奴が、遺産なんて貰えると思ってるのかしら。厚かましい」


兎摘が鼻で笑う。


満月「……何か言ったか?」


兎摘「あら、聞こえちゃったかしら。ごめんなさいね」


満月「何か違うのか?」


兎摘「……?」


満月「人を自殺に追い込む悪霊が、よく偉そうに口を利けたものだな」


兎摘「……何ですって?

あんたも死に追いやってあげましょうか」


前髪の隙間から覗く瞳が血走った。


満月「そうか……なら」


満月が腰から、何か光る物を取り出す。


満月「遺産相続と言えば、殺人だろう?」


ナイフが現れた!周りがどよめく。


満月「準備はしてきたからな」


ナイフの柄をつまんでいる。

投げられるようにだ!


兎摘「ふん、だから何かしら?

そんなもの、私が恐れるとでも?」


兎摘は両手のひらを机に置き、肘を曲げ顔を下げた。

まるで妖怪が飛びかかる前の姿勢のようだった。


兎摘「死への恐怖で、私を縛るのは無理よ?」


満月「脅しだとでも?」


睨み合う2人。一触即発だ。

この場で殺し合いなんて冗談じゃないぞ。


美雨「もうやめて!2人とも!お願いだから」


そんな場を収めたのは双子の妹の美雨だった。


美雨「お姉ちゃんさ、満月さんはもう償いは終えてるんだから。追及や差別はダメだよ!」


兎摘「……」


美雨「あなたも!それ、普通に銃刀法22条違反だから!

見なかったことにするから、しまって!」


満月「……」


兎摘は黙り、満月はゆっくりナイフを腰に戻した。


遺産相続前……ピリピリするだろうと思ってはいたが、ここまでとはな。


満月「いいだろう、なら話を続けよう」


何事もなかったかのように、彼女は続けた。


夢咲士「人質交換の話だったな」


満月「そう、誘拐犯から人質交換の要求が来た。ノンフィクションは“後継者の桜真が大切なら、月影本家の長男と人質交換をしてやる”という条件を出した。交換を飲まない場合、桜真は殺害すると」


舞雪「桜真さんは次男だよね?でも何で長男さんと交換?」


満月「よくわからん。

わからんが月影家の全滅を狙ったんだろうと私は考える。

月影本家、正当な血筋は2人だけだ。

どっちもいなくなれば……」


満月はここを濁し、まわりを見た。

濁さなくても“遺産を貰える確率が上がるから”と誰もが推測つく。


舞雪「じゃ、じゃあ長男さんが身代わりになっちゃったんだ?」


美雨「ううん、違うの。長男本人は人質交換現場に来なかったの。

桜真はもう殺されてるだろうから、行く意味ないって」


舞雪「は?何それ?血の繋がったお兄ちゃんなのに見捨てたってこと?」


舞雪は憤るが、当時犯人側から桜真が生きている証明もなかった理由もある。


満月「長男が拒否したせいで、人質交換は失敗に終わった」


美雨「でも正妻である月影夕子つきかげ ゆうこさんが人質交換現場へ1人で来ちゃったのよね」


愛する息子の安否が気になり、いてもたってもいられなくなった結果、犯人へ交渉しようと1人で向かってしまったらしい。


舞雪「え?で、どうなったの?」


満月「翌朝、月影夕子は無残な死体となり見つかった。

無慈悲なことに、仁一郎の書いたミステリーの描写通りになってたそうだ。

ここでようやく警察沙汰だ。

ついにノンフィクションが原作者の妻を殺害したと大々的なニュースにもなったが、観てなかったのか?」


舞雪は首をふる。

私が遮断したんだ。舞雪はまだ幼かったし、どこから何て説明すればいいかわからなかった。


花火「このニュースはウチもびびったなー

これもう4年前なんだね」


満月「ああ。だがまさかこの1年後、桜真が生還するとは想像出来なかったがな」


舞雪「え?どういうこと?生きて帰って来たの?」


「おい、お嬢ちゃんもうやめとけ」


つり目のイケメン。

派手な金髪にグレーのタキシードスーツ。

こいつは確か……


舞雪「な、何で?」


「バカかお前ら。こんな子供の前でペラペラむごいこと話してんじゃねえよ。

いくらニュースで流れてたからって、いい気分なわけないだろうが」


雛「あら、随分優しいのね。笹川星彦ささがわ ほしひこくん」


星彦「……」


雛「第七子で23歳よね?あと、あなたホストやってるみたいね?女性に優しいわけだ」


これはほぼ嫌味だった。


花火「え、ホスト?それにしちゃ口悪くない?」


星彦「バカにしてんのかてめえ」


舞雪「星彦さん」


星彦「……あ?」


舞雪「私、大丈夫。子供だからって秘密にされるほうが嫌なの!

全部知りたいの、家族のことは全部」


まっすぐ伝えた。本心なのだろう。


星彦「……気分悪くなっても知らねえぞ?」


舞雪「大丈夫」


星彦は、はぁと溜息をついた。


星彦「桜真は1年後に廃墟で見つかったんだ。全身ずたずた状態でな」


舞雪「……っ」


舞雪が絶句したのがわかった。


舞雪「い、生きてたの?」


星彦「何とかな。ずっとノンフィクションに拷問されてたらしい」


舞雪「な……何で?」


星彦「憎かったんだとよ。月影仁一朗の生み出した全てが」


舞雪「え、ちょっと待って。犯人がそう言ったの?」


星彦「ああ、ノンフィクションもその廃墟で見つかったんだ。

……自殺してたがな」


舞雪「じ、自殺?」


星彦「絵本作家の牧村直道まきむら なおみち

そいつがノンフィクションの正体だ」


舞雪「誰?」


星彦「“未来の私”って絵本知らないか?」


舞雪「あ、知ってる!人には無数の未来があるって話だよね。結構、最近の」


星彦「あれの作者だ」


舞雪「う、うそ!そんな人が何で……」


星彦「言うなら牧村は一発屋。他の作品は泣かず飛ばずだった。

つまり生活苦だったんだとよ。娘が1人いたらしいが、とても食わせていける状況じゃなかったらしい」


花火「だから、定期的に本が売れてる月影仁一朗が羨ましかった。

彼の作品にキズをつけようと、殺人描写を現実にすることで炎上を狙った……」


夢咲士「ふふ、皮肉なものだな。結局はそのおかげでさらに本が売れたのだから」


舞雪「で、でも何でそんなことみんな知ってるの?」


星彦「仮にも自分の父に関わる事件だからな。

それに全て遺書に書かれてたんだ」


舞雪「遺書?」


満月「そう。廃墟にあった直筆の遺書。

……これこそ皮肉だ。

奴の最期に書かれた書き物は、一番世間に反響したんだからな」


花火「でも何で自殺なんてしたんだろうね」


星彦「耐えれなくなったんだと。昔は子供の喜ぶ絵本を作っていた自分が、嫉妬に狂い様々な人を傷つけてしまったことをな」


舞雪「え、え、でも待って!」


舞雪は混乱している。当たり前だ、これだけたくさんの情報を一気に入れられるとそうなる。


舞雪「なんか……なんかおかしくない?」


星彦「何が腑に落ちない?」


舞雪「いや、なんか……よくわからないなって」


夢咲士「凡人の頭ではついていけない。恥じることはない」


舞雪「ち、違うよ!なんか……なんか一貫性がないなと思ったの」


雛「一貫性?」


舞雪「だってまず何で本が売れたからって息子を誘拐するの!

本当にお父様を絶望させたければ本人を誘拐し拷問でも何でもすればいいじゃん」


沈黙が訪れる。


舞雪「それにさ!何で人質交換を提案したの?

百歩譲って後継者の桜真はわかるけど、物書きの才能のない長男には用がなかったんじゃないの?」


花火「全員殺したかったんじゃないの?ほら、正妻の夕子さんも殺されてるし」


舞雪「なら何で最初に館に訪れた時に皆殺しにしないの?

なんかわざとめんどくさい方に進んでるっていうか……」


花火「ま、確かにね」


舞雪はじっと下を見つめる。

思考を巡らせる時の癖だ。


舞雪「あとさ、その遺書に他のこと書いてたの?」


星彦「他のこと?」


舞雪「うん、だってその人がノンフィクションなんでしょ?

なら、これまでに殺した被害者の話とかは何て書いてたのかなって」


兎摘「……」


美雨「……書いてなかったみたい。一切」


舞雪「え!何で?やっぱおかしくない?」


美雨「うん、それは思った。

ノンフィクションは殺す過程も大切にする犯罪芸術家。

なのに、過去作品とも言える殺害歴に触れないなんて私もありえないと思った」


舞雪「だよね。生還した桜真さんは何て?

1年間は犯人に監禁されてたなら……」


美雨「それが……」


舞雪「え?何?」


兎摘「記憶喪失になっていたのよ」


舞雪「き、記憶喪失?」


兎摘「ええ、何にも覚えてなかったそうよ」


舞雪「は?そんな都合のいい話……」


ちょうどホールの扉が開き、新たな候補者が歩んできた。


「記憶喪失……心に深い傷が出来ると、その記憶を失うことで自我を保とうとする人間の本能です」


地鳴りのような低い声で、ゆっくり円卓に加わった。


「辛い体験をされた方の陰口は感心出来ませんね」


がっちりした体格の男。短い髪にもみあげと繋がったあごひげ。

黒い服の胸元からたまに覗く古傷。

メガネの奥の瞳は細く、面々を睨みつける。


舞雪「……ちっ」


舞雪はその人物に対して舌打ちをする。


「唯一、不幸中の幸いは母親の死を悲しまずにすんだことです。殺された夕子さんと桜真さんは特段親子仲が良かったと伺っていますから」


みんなが見てる中、私の隣に腰掛けた。

私は口を開く。


雛「遅かったわね、お兄ちゃん」


「すみません、患者との話が長引いてしまいました」


花火「患者?あ、あの……どなた?」


兄は懐から黒い招待状を出す。


「申し遅れました。第二子、柊閏悟ひいらぎ じゅんご。29歳です」


花火「あー、柊ってことは?」


花火がこっちを見る。


閏悟「ええ、雛と舞雪の兄にあたります。よろしくどうぞ」


面々に軽く顎をひく。細い目と低い声のせいで、恫喝に聞こえてもおかしくない雰囲気だ。


星彦「なかなかいかつい兄貴だな」


美雨「しかも患者って?お仕事は何されてるの?」


閏悟「カウンセリングを営んでおります」


満月「ほう、カウンセラーか」


兎摘「どっちかっていうと、メンタルを壊しそうな人相なのにね」


閏悟「……そうでしょうか?」


夢咲士「ふっ、人生とは一人称視点のゲーム。

自分自身を見る機会は最も少ない。誤認しやすいものだ」


失礼なことを言われるが反論は諦める。

遺産相続前にもう揉め事はごめんだ。


しかし……


舞雪「……」


舞雪は、機嫌悪そうに円卓から目をそらす。

反抗期の舞雪は兄が特に嫌いなためだ。


舞雪が赤子の頃に、閏悟は母親を追い出した。そのせいで舞雪は母親を知らず寂しい思いをしている。昔から閏悟と舞雪は仲が悪いので家ではいつも私が橋渡し役をさせられている。


花火「これで9人。あと3人か」


花火がそう漏らしたがちょうど。扉が開く音。


「いやー、遅れてすんまへんなあ」


糸のような細目。

銀髪に浴衣。扇子をパタパタと、カランカランと下駄を鳴らし、近づいてくる。


「どうもどうも、集まってるやん!みなさん」


出たな、くそやろう。


「いやーみなさん初めましてやね。

ワイは第一子の月影初日つきかげ はつひ。35歳。

関西の方で雀士やってます。あ、麻雀打ちのことな!

やから実家帰って来たんも久々ですわ。なははは」


どっこいしょっと笑いながら、円卓に仲間入りする。

おちゃらけているが、さっきの人質交換に応じなかった長男とはこいつのこと。

あの話が記憶に新しすぎるせいか、みんな警戒してるように見える。


初日「あ、でも雛ちゃんは久しぶりやな!」


雛「ええ、ご無沙汰ね」


星彦「面識あんのか?」


雛「ええ。小学校の時、私はたまにこの館に招かれたから。

何度か見たことあるわ」


初日「せやで。雛ちゃんは期待されてたからなー。

よう親父と面談しに来てたよな」


本を読んで感想を言わされたり、日記を書かされ文才があるか調べられた。

胸糞悪かった記憶しかないがな。


初日「あーあと紹介するわ。

誘拐事件後から、関西で一緒に暮らしとるワイの弟や!」


少し遅れて現れた男……

垂れ下がった黒髪に、体を覆うような黒いレインコート。


「遅くなってすまない。……月影桜真だ」


顔に巻かれた包帯から二つの目玉が覗いている。


桜真「ただ館に着いてはいたんだ。懐かしい自室の書斎で、つい思いにふけり時間を忘れてしまった」


第四子、月影桜真。

二代目推理作家。

ノンフィクションに誘拐され生還した。

遺産相続という戦いの一番馬。


初日「せやぞ!おかげでワイまで遅刻や!取り分減ったらどないしてくれんねん」


桜真「すまない兄貴。

だが月影本家の俺らが減らされることはないだろう」


少し、私達を軽視した発言が鼻につく。

その流れで私は、用意していたとんでもない質問をぶつける。


雛「ねえ、あなた」


桜真「……なんだ?」


雛「……偽物でしょ?」


包帯から覗く瞳と目が合う。じっと冷たい目。


雛「ふふ、本物の月影桜真は、誘拐事件でもう死んでいる。

……どう?私の透視間違ってるかな?遺産狙いの偽物さん?」


桜真「……」






月影仁一郎の子息(遺産相続候補者)

挿絵(By みてみん)

01、月影初日………雀士

02、柊閏悟…………カウンセラー

03、柊雛……………透視能力者

04、月影桜真………推理作家

05、片桐兎摘………自殺サイト管理人

06、片桐美雨………弁護士

07、笹川星彦………ホスト

08、晩花火…………宗教家

09、赤村満月………元未成年殺人犯

10、????

11、源夢咲士………ゲーム実況者

12、柊舞雪…………人形演劇部






出生順にまつわる名前の由来


初日→初日の出→元旦→1月

閏悟→閏年うるうどし→2月

雛→雛祭り→3月

桜真→桜の時期→4月

兎摘→うつ→鬱→五月病→5月

美雨→雨の時期→梅雨→6月

星彦→彦星→七夕→7月

花火→打ち上げ花火の時期→8月

満月→つきみ→月見の時期→9月


夢咲士→士(侍)→11月

舞雪→雪が舞う時期→12月

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