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01、遺産相続者(三、十二)

私は目を開いた。


「……」


走行中の送迎車。後部座席の振動が心地いい。

長時間移動に疲れた私はいつの間にか眠ってしまったようだ。


重い頭で車の外へ目を向ける。

かろうじて道と言える森の隙間を送迎車は進んでいた。


「あ、あとどれくらいで着きますか?」


送迎はありがたい。しかし少し不安になったので、送迎ドライバーに尋ねる。


「……もう、すぐですよ」


仏頂面の中年は答えた。

もうすぐって、あと何分だよ。

不満に眉を寄せる。その顔をルームミラー越しに見られた気がした。




レンズの大きい赤いメガネ。茶髪に、大袈裟な装飾のネックレス。

友達の結婚式でしか着たことないベージュのワンピース。


私の名前は、柊雛ひいらぎ ひな。24歳。

“透視能力者”だ。

……誤解を生みやすいのだが、職業の話だ。

まあ占い師のような肩書きだと解釈してくれればいい。


事務所を構え、訪ねて来たお客さんの情報を言い当てる。

当てる情報は主にその人の過去か未来。

その高い的中率を買われて、一度テレビ出演したこともあり、私はそれで生計を立てている。面白い職業でしょう?


雛「もうすぐ……もうすぐ父に会える」


ポケットの中から黒い招待状を取り出した。


“第三子、柊雛様へ 月影仁一郎の遺産相続について”


月影仁一朗つきかげ じんいちろう。65歳。

ミステリー小説界の重鎮。

数回しか会ったことのない父親だ。


父の本は売れる。

なぜなら、彼の書いたミステリーは現実となるからだ。

というのも、作品中の殺人描写を現実に表現する模倣犯「ノンフィクション」が現れたことが原因だ。


それは32年前、初版された処女作の殺人描写から始まった。


心臓や腸をひきずりだし食卓に並べ、そのテーブルを亡骸に囲ませたり。

黒ひげ危機一髪を再現したり。

少しずつ電圧を上げ、人は何ボルト目で感電死するのか実験したり。


そう、全て父のミステリーの描写と同じように。

コスプレイヤーが原作に敬意を払うように、緻密に模倣する。


そんな見立て殺人鬼に、世間は強く食いついた。


熱狂的なファンの仕業?

または出版関係者が、売り上げ増加を狙ってか?

父だって容疑者として警察に調べられたことがあるらしい。

世間は様々な噂を囁き、父の本は爆発的な売り上げとなった。


ひとつ分かっていたことは、小説を見立てた殺人ならば容疑者はその小説を読んだ者に必然限られる。


増加した発行部数は、増えた容疑者の数でもあったため、捜査が難航したらしい。


「んん……」


私の肩に頭を預ける制服を着た少女が目を覚ました。私の妹だ。私同様に眠ってしまったのだろう。


「……ふあーあ」


大きなあくび。

左手には羊のぬいぐるみ、右手にはスマホが辛うじて握られていた。

よく眠っている時に離さなかったものだ。


スマホの待ち受けは、友達とのツーショット。

ソフトクリームを掲げ笑っている。

寝起きの妹は、そんな待ち受けを覗き込んだのち……


「……ねえ、まだ着かないの?」


不機嫌そうに、スマホ画面を黒めた。


雛「もう少しよ、舞雪」


この子は柊舞雪ひいらぎ まゆき

14歳の中学2年生。年の離れた妹。

見ての通り反抗期だ。

しかし偉そうな口を利く割に、こういった遠出の際にはベッドのお供であるぬいぐるみを連れてくる可愛らしいところが残っている。

つまり自分は大人だと思っている子供だ。


まあ、もともと部活として人形演劇部という部活に所属しているから、という理由もあるだろう。

演台の裏に自分の体を隠し、演台の上で人形を操作し物語を繰り広げる。そんな部活。

たまに近所の幼稚園に人形劇を見せにいっているらしい。


糸のほつれた羊を見る。

幼少期に私と兄で買ってあげたものだ。


舞雪「初めて会うお父さんとやら、もう死んでたりして」


ひどい口の利き方だ。しかし私も心配ではある。


父は、数年前から重度の糖尿病を進行させてしまい、近年ではほとんど目も見えなくなり、もう先は長くないだろうと招待状に書いてあった。

つまり父の資産の分配をそろそろ決めなくてはならない。


総額はなんと30億!


そう、待ったわよ。

この時を。誰よりも私が。

奴の遺産を相続するために。


舞雪「お姉ちゃん」


雛「何?」


舞雪「私達だけじゃないんでしょ?

他にどんな人がいるの?兄弟」


父の子供は私たちだけではなく、苗字の違う兄弟が他にもいる。

柊家は私と舞雪、そして“仕事で遅れてくる兄”の3人。


雛「色々な人がいるみたいよ。

本当、一癖も二癖もありそうな人達ばかり」


舞雪「へえ」


雛「その中でも“特に”なのは、やっぱり桜真おうまかな」


舞雪「おうま?」


数少ない会ったことのある兄弟だ。


雛「うん。第四子、月影桜真」


私達愛人の子と違って‟月影本家”の次男。


雛「私と同じ24歳で、とても賢く優しくて人に好かれる人。何よりお父様の後継者と言われてるの」


舞雪「なんで?」


雛「推理小説を書くのがとても上手なのよ。

父に匹敵するほどらしいわ」


そう。父は子に、物書きとしての後継者を期待した。

その思いは実り、桜真という天才が生まれた。

言うなら、月影仁一郎のバックアップにて最高傑作。

奴が最も遺産に近い兄弟だと思われる。


舞雪「でもさ。そんな人がいるなら、私達は遺産なんて貰えないんじゃないの?」


確かに。所詮私達は月影の苗字を持たない愛人の子。ただ……


雛「まあ、まだわかんないわよ」


舞雪「何で?」


どういった方法で遺産の分配を決めるかはわかりかねる。ただ父は将来有望な子供には遺産を多く分配することが予測される。


雛「私には“秘密兵器”があるからね」


舞雪「秘密兵器?」


目を丸くしている。この先はあえて伏せた。


運転手「雛様、舞雪様。

そろそろ着きますよ」


ちょうど着いたようだ。


舞雪「あれがそう?」


舞雪が窓に張り付く。

車窓の景色には、人里離れた樹海に浮かぶ赤い洋館がそびえたっていた。


懐かしい……




昔、私はこの館の庭で全身真っ赤にされたことがある。


“あはは、ざまーみろ!”




私はこの館で、月影桜真に恋をしたんだ。

そんな懐かしい気持ちを思い返した。


ただそれはただの思い出。

今は遺産を持って帰ることに集中するんだ!1円でも多く!

例え、候補者が“12人”もいようとも







月影仁一郎の子息(遺産相続候補者)

挿絵(By みてみん)

01、????

02、????

03、柊雛……………透視能力者

04、月影桜真………推理作家

05、????

06、????

07、????

08、????

09、????

10、????

11、????

12、柊舞雪…………人形演劇部











私達は一番乗りだった。

かなり早く着くように出たので、当たり前だ。


「お待ちしておりました」


オールバックの執事に案内され、館のホールの円卓に座らされる。


私は持参したノートパソコンで仕事を片づけていると、他の候補者達が続々と館にたどり着き、円卓に座り始める。


キーボードを叩きながら、“対戦相手”を窺う。


通話しながら入って来たギャル。


「えー!いくら貰えるかによるけど、ウチまずは整形したいなー!お、ここWi-Fi入んの?ラッキー」


つり目のタキシード。


「ちっ、うっせぇなくそ女」


顔が見えないほどの黒い長髪。幽霊のような女。


「ブツブツ……ううううう」


赤髪に黒いドレスのクール女。


「……」


王冠にマント。眼帯をした少年。


「くっくっくっ、せいぜい俺様を楽しませてくれ」


空気の読めなさそうな童顔のスーツ女。


「あ、どうも。よろしくお願いしまーす」


私は1人ずつ確認していった。

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