10、仮投票
ななし「ね?30億の遺産さ、13人で山分けしちゃおうよ」
完全なる沈黙。みんな言葉を失っていた。
雛「え?本当にそんなこと出来るの?」
ななし「出来るって!じゃなきゃ、いくらなんでも自ら参加するやつなんていないでしょ?」
閏悟「どのような方法ですか?」
そうだ、それ次第だろ。
ななし「うん。騎士の護衛先と人狼の噛み先を合わせるんだ。簡単でしょ?」
合わせる?そんなこと出来るのか?
ななし「電気椅子と狼の牙の作動回数は電力の関係で9回まで。作動しなくなればゲームは終了。つまり終了時の全員が生き残りってわけ!」
花火「なるほど。でも投票の方はどうすんの?」
待ってたかのようにななしは笑む。
ななし「決選投票でも2回連続投票が同数なら、処刑者なし。これを使う」
星彦「それか。ルールを聞いた時に意味不明だったが、無理な話だろ?
2名が決選投票になったとしても、その次の決戦投票が駄目だ。残りは11票で奇数。同数にはならないだろうが」
桜真「いや、3名を決戦投票に上げて、残り10票を4:4:2に割れれば実現は可能だな。その場合は……」
ななし「あーあー。
君、本当に天才月影桜真くんかい?
その、裏切りがあると死ぬかもしれない3名は誰がやるの?
他人の指に命を預けるリスクしかないその3名が決まらないのがオチだって」
やれやれと手のひらをあげる。
桜真「なら、どうするつもりだ?」
ななし「簡単じゃん。全員1票ずつにして、13人全員を決選投票に上げるんだよ」
頭に雷が落ちたようだった。
ざわつく。現実味が帯びてきた証拠のように。
ななし「あとは、人狼に襲われ騎士に守ってもらう役の人を決めさえすればいい」
誰にする?とななしは両手を見せる。
みんなきょろきょろしてるだけ。
これだって、心理的にやりたくないだろう。
何か間違えば、人狼に殺されるかもしれない役なのだから。
ななし「……あのさー、騎士の人と人狼の3人はやりたくてもやれないってわかってる?
例えば誰かが誰かを推薦して、その人が騎士だったら悲惨だよ?
その人はもう自分が騎士だと言うしかない。
騎士が誰かわかった時、人狼の気が変わるかもしれないしさ。
人狼と騎士除いたら、9人もいるんだからもっと主体的に頼むよー」
私はうつむく。
……これ、村人がベストだ。
この役は万が一を考えると、占い師や霊能者も嫌うだろう。
そして私は村人だ。
どうする?村人は私以外に5人もいる。危険な役だ。私じゃなくたって……
美雨「あ、いいよ。じゃあ」
思いを巡らせているうちに……
美雨「誰もやりたくないなら、その役やろうか?」
美雨が小さく手をあげていた。
ななし「お、いいねー!確認するけどきみ、人狼でも騎士でもないんだよね?役職までは言わなくていいよ」
美雨「うん。人狼でも騎士でもないから問題ないよ」
ドッキリだと思ってる楽観者。
ここで役に立つか。あっさり決まった。
ななし「じゃあ決まりー!」
兎摘「待ちなさいよ。投票順はどうするの?」
爪を噛む兎摘は、まだ不満があるようだ。
兎摘「確かに平等にはなったわ。
けど、このゲームは投票順が決められていない自由投票でしょ?
最初の方に投票した人が、最後の方に投票する人に裏切られるリスクが残るじゃない。
心理的に誰が最初の方をやりたがるのよ」
ガリガリと爪を削りながら話す。
ななし「あーそれに関しては……」
そう言うと奴はさっきまで遊んでいたトランプを取り出した。
スペードの1から13までを扇状に広げる。
ななし「公平にくじびきにしない?
このトランプの各数字を出生順に置き換えようよ。
1は月影初日。12は柊舞雪ちゃん。余った13は僕にしよう。
そしてこれをこの中に入れまーす」
手のひらサイズの箱を取り出した。
側面のひとつにポストの口のような細長の穴がある。
花火「なにそれ?」
ななし「これ?カード用のおみくじ箱。中にカードを入れてシャカシャカ振ると、ランダムに1枚ずつ出てくる。便利でしょ?」
手際よく、実演しながら説明してくれる。
ななし「さらにさ、誰が誰に投票するかはあらかじめ決めておくことでさらにリスクを減らせるよ」
花火「決めるの?隣の人でよくない?」
ななし「そこはせめてもの体裁だよ。適当なことしたら皆殺しにするって言った主催者へのさ。これまでの議論で誰が怪しいと思ったかを言いながら仮投票しておく。
そうすれば一応ゲーム性は保たれるわけだし、主催者にも真面目にやって全員1票でした、すんませんって言い訳も出来る」
な、なるほど。
確かにそれなら誰も死なずに済むかもしれない。
仁一郎「……」
ななし「ほら、お父様も何も言わないじゃん。
そもそも父親が子供に対して本気でデスゲーム主催するわけないんだよ。
全部ドッキリで、全員生還を目指してほしかったってあとで言いたいだけさ!
金に目がくらまず、兄弟の命を尊重した者こそ、遺産を分け与えるに値するーとか言いそうじゃん?」
確かに。そんな気がしてきた。
というか何故、デスゲームなど本気で考えてしまったのか。
桜真「……やろう」
そしてそう感じるのは私だけじゃなかったようだ。
桜真「いい案だと思う。
俺だって誰かを殺したいわけじゃないんだ。
誰も死なせず、ゲームを終えられるならそれが一番だ。
乗らせてくれ。
……いや、むしろ反対の者はいるか?」
誰も何も言わなかった。
ななし「ん。じゃあ決まり!
早速、誰が誰に入れるかの仮投票を決めていこう。
僕から言うね!」
ななしはキョロキョロしたのち、一点を見つめて不気味に笑った。
ななし「僕は月影桜真くんに入れる予定でいくよ。えーっと理由は……
きみ、僕のこと信じてくれたよね?
普通の人間なら、僕の人狼宣言を聞いたら、“怪しむかわからない”で止まるのが普通さ。
きみ、僕が人狼じゃないって知ってる人狼じゃないの?
ひひひ、きみからは嘘つきの匂いがしてるよ」
なるほど。それっぽい。
真面目に人狼ゲームをしてるような意見だ。
それに対して桜真は、人差し指を一本立て、みんなに見せる。
この全員1票作戦は重ねてはいけない。
自分は既に投票された身だとわかりやすくしてくれている。
桜真「では、次は俺が投票する人を決めよう」
はっきりと疑惑を伝えられた後だと言うのに、桜真の態度は次を見据えていた。
この行動が既に、狼狽する人狼には見えない。
私はさらに桜真が人間だと思ってしまっていた。
桜真「俺が投票する予定なのは、柊雛だ」
名前を出されて、少しびっくりする。
桜真「庇う意見も聞いたが、理由は議論で述べた通りだ」
そ、そうか。その桜真は私を疑っているんだった。
桜真の真似をし人差し指を立てる私に、みんなの視線が集中してくる。
……なるほど。リレーのように次は私が投票する流れなわけか。
雛「……」
私はそんなみんなと視線をぶつけ合う。
雛「じゃあ……あんたで。笹川星彦」
視えたわけじゃない。
星彦「……ほう」
雛「えっと一応理由ね。
配役時にそのとげとげしい目の下がぴくついたのを見逃さなかったわ。人狼を引いたからじゃないの?」
これは本当に見たことだ。
星彦「いいだろう。じゃあ俺は柊舞雪を選ぶ」
舞雪がビクッと揺れる。
星彦「理由は、配役時の時間の長さ。
俺もこの子に人狼の可能性を感じた。以上」
不満そうに舞雪が指を立てる。
雛「舞雪、怪しいと思う人を選びなさい。
まだ選ばれてない人からよ?」
念を押す。舞雪の顔はさらに不満そうに変わる。
舞雪「うるさいな、わかってるよ。
……じゃ、あんたで」
舞雪が乱暴に指さしたのは私の隣、実の兄だった。
閏悟「……自分ですね」
舞雪「あんたのせいだもん。私が疑われたの。
だから仕返ししてやる」
いつもの兄妹不仲じゃないか。
雛「仕返しって……あんたね」
舞雪「それだけじゃないよ。配役時にまばたきが多かったでしょ。
だから少し怪しいなって思ったのは本当だよ」
確かに、そうだったかも。舞雪も配役時の反応は見ていたのかと少し頷く。
一般的に、人がまばたきを多くする時は、拒絶や緊張を表す時。
……少しヒントになるかもしれない。
続いてお兄ちゃんは、重い体を動かす。
そして……
閏悟「では私は、あなたにしましょう」
低い声を片桐兎摘に向けた。
兎摘「ひっ!私ですって?」
閏悟「ええ、思ったより静かですよね?少なくともゲームが始まってからは。
目立ちたくない理由があると予想しました」
まあ、正論だ。
兎摘「ううう!
誰に向かって……柊閏悟!呪い殺してやる!」
美雨「お、お姉ちゃん落ち着いて。
これはフリなんだから」
兎摘「……ええ、そうだったわね。
なら私が選ぶのは美雨あんたよ!」
美雨「あ、私?」
兎摘「理由は簡単よ。
あんたなんか死ねばいいと思ってるから」
美雨「……えぇ」
何故そこまで言う?
兄弟仲が悪いのはうちもそうだが、いくらなんでも異様に見える。
美雨「………………。
あ、ごめん!怪しい人、選ぶんだっけ?
えーっと、じゃあむーくんで」
美雨は眼帯の魔王を指さす。
夢咲士「俺様か?むーくん、だと?」
美雨「えっと、理由はね……
むーくんだけ、配役の時に“わがちから”って言ったんだ。
これただの村人なら、言わないと思ったから」
桜真「いい意見だ。俺もそこにひっかかっていた」
夢咲士「くっくっく。よかろう。
愚かな人間には、俺様が人狼に見えるようだな。
……そして俺様が選ぶのは貴様だ。月影初日!」
初日「おー、やっとワイ選んでくれる?」
夢咲士「理由はひとつだ。
我が第三の目は誤魔化せん。断言しよう、こいつにはどす黒い何かを感じる」
それ、理由なのか?
初日「なはは!困ったなー。
じゃワイの番やけど……あと誰が残ってるんやっけ?」
まだ名前が上がっていないのは、晩花火、赤村満月、月影霊時の3人だった。
初日「んー、わからへん。
んじゃあ、満月ちゃんにするわ」
赤村満月に指をさした。
初日「理由は、消去法や!
花火ちゃんは人狼っぽくない反応やったし、レイは役職見てへんから推理出来ん。
それに満月ちゃん、ひとつも喋ってなくない?
慣れてそうやと思ってんけどなー
人狼ゲームも、人を殺すのも……」
満月「……」
相手は元未成年殺人犯だが、冗談でも失礼だろ。
こいつ、本当に無理だ。
満月「では私は晩花火に入れる」
花火「ウチね」
満月「花火か霊時。どちらかに入れるしかないだけで理由はない。ちなみに私はどちらも人狼とは思っていない」
花火「はーい。じゃウチは余った霊時くんに」
霊時「……うん」
ななし「おいおい、ひどくない?」
花火「ん?何が?」
ななし「僕、最初に投票しただけでまだ僕は誰からも選ばれてないよ」
誰かが、そう言えばと言った。
初日「まあ同じやん?
最後のレイがお前に入れれば投票リレーは完成するし、結局一緒やん?
ええやんなレイ?」
霊時「ああ、別に構わないよ。
……まあよかったよ。とりあえず命懸けのゲームはやらなくていいってことなんだろ?」
その通り。
怪盗ななし……本物のノンフィクション。
どんな奴かと警戒したが、案外まともな奴だった。
それもそうだ。
長年逃げおおせてる殺人鬼が、自分から死のゲームに飛び込むわけがない。
必勝法があるからこその参戦ということか。
遺産の取り分は減らされてしまうが、命にはかえられない。
ノーリスク。ローリターンでも、いい。
そう、いいんだ。これで。
雛「……ふう」
私は落ち着きながら、椅子に体を預けた。
少なくとも……
少なくとも、どうしてこの段階で“罠”に気付けなかったのか。
私は一生分後悔することとなる。
1日目、昼のターン
01、月影初日
02、柊閏悟
03、柊雛
04、月影桜真
05、片桐兎摘
06、片桐美雨
07、笹川星彦
08、晩花火
09、赤村満月
10、月影霊時
11、源夢咲士
12、柊舞雪
13、怪盗ななし
全員生存。残り13人




