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00、プロローグ

闇に包まれた部屋。テレビが発する青い光。


遮光用の縦型カーテンは上げたまま。

閉め忘れた夜の空には、不気味に口角を上げる三日月。

池の中でゆらゆらと輝いている。


そして、部屋のモニターが映すのは……

電気椅子に座った焦げた肉の塊。


『やめて!死にたくない!いやあああ!』


モニターの音声から悲鳴が届く。


『も、もうやめてくれ!遺産なんていらない!うちに帰してくれええ!』


泣きわめく声に嫌悪感を抱く。


“あの”命懸けの人狼ゲームから半年。そして、新しいゲームの産声。


そう、俺は清水灰司しみず はいじ

セイギノミカタだ。

他に名前など必要ない。


モニターの先でどんどんとゲームは進む。


『このゲームの占い師は、俺だ』


俺は“月影仁一朗”のミステリー小説を閉じる。

かわりに黒い紙を手に取る。“月影仁一郎の遺産相続について”と書かれた死の招待状。


『お前かああああ!!』


今宵の満月が誰を狼に変え、どんな物語を届けるのか。俺はまだ知らない。


『へえ、意外なとこが死んだね』


さあ、この目で見届けさせてもらおうか。











人狼じんろうゲーム【ぞく】 -十三頭目じゅうさんとうめ遺産相続者いさんそうぞくしゃ-』


挿絵(By みてみん)



半年前……










幽劇団ハロウィンパーティとは……


Mr.ハロウィンが立ち上げた詐欺組織。

世間を欺き莫大な金を奪い上げるそのメンバーは9人で構築されている。


組織のメンバーは、ハロウィンキャラクターにまつわるコードネームを与えられており、メンバー同士でさえそのコードネーム以外のことは基本的に知らない。


彼らは人を欺く特殊なスキルを保有しており、Mr.ハロウィンの指示によりその能力を発揮し、詐欺行為へと繋げる。

有能な手足を上手く使う頭、Mr.ハロウィンはそれゆえ史上最悪の詐欺師の称号を得た。


また幽劇団は演技力の高い人材が揃っていることから、犯罪に触れるような闇の依頼も請け負い、そこに必要な人材を調整し派遣することすらあると言われている。故に劇団。


もちろん、これら全てがただの噂であり、本当にそんな組織やメンバーが存在しているかどうか。

崇拝しているネットの民の妄想なのか。誰も証明することは出来ない。


……そう、本人達以外は。







オンライン通話が開始される。

これは定例会議。八つのハロウィンキャラクターのアイコンが並ぶ。


挿絵(By みてみん)


魔女『……もしもし、魔女よ。みんな、遅くなってごめん』


ゾンビ『おっそー』


ドラキュラ『8分13秒遅刻だな』


魔女『私実家だもん、仕方ないでしょ』


黒猫『うん……これで全員、揃ったようね。

では早速会議を始めましょう。

魔女、議事録お願いね』


魔女『全員?団長来てなくない?』


黒猫『その団長について……

話さないといけないことがあるわ。

大切な話よ。だから全員を待ったの』


カカシ『えらく勿体ぶりますね。病気でも見つかりました?

まさか、あのお方に限って……』


黒猫『死んだわ』


カカシ『へ?』


魔女『え?』


黒猫『よく聞いて。

……団長は死んだわ』


魔女『……』


カカシ『……は?』


ドラキュラ『……おーまじか』


死神『……』


ミイラ男『……ふむ』


ゾンビ『へえ』


狼男『……』


黒猫『さすがのあんたらも言葉を失うのね』


魔女『え?いやいや!

うっそだー!団長が死ぬわけないじゃん!

だって、団長だよ?

Mr.ハロウィンと恐れられた史上最悪の詐欺師だよ?

きっと、それすらあの人の大好きな嘘なんじゃないの?』


ミイラ男『魔女の言う通りでしょうな。

ちゃんと死を確認したのかい?』


黒猫『脈拍を監視している発信機。それが止まったの』


カカシ『発信機?何ですかそれ?』


黒猫『……団長ってよく美容手術を繰り返して、若さを維持してたことはみんな知ってるよね。

……うちの天才外科医のお力で』


ゾンビ『……』


ドラキュラ『おい、聞いてんのか?ゾンビ』


ゾンビ『え……ああ、ボク?

天才だなんてそんなそんな。ボクはただ人体いじりが趣味なニートですよー』


魔女『よく言うわよ、それが団長に認められたあんたのスキル“トリックアート”でしょ?』


ゾンビ『まあね!ボクなら、顔は勿論。

体格、性別、声帯だって変えられるからさ!』


ドラキュラ『全く。悪趣味なコスプレだぜ』


ゾンビ『年端もいかない女の子の体にメスを入れた時は興奮したなー、きひひ』


魔女『きもすぎ』


黒猫『はいはい!話戻すね。

団長は手術時に自分の心音を感知し送信する機械を体内に埋め込んでいた』


ドラキュラ『それが情報収集担当のお前へ届くようになってたわけか?』


黒猫『ええ、そうよ。

“私はいつどこで誰に殺されるかわかったものじゃないから、もしこれが届かなくなったら、私は死んだと思って動きなさい”って言われていたもの』


ドラキュラ『それが途絶えたって話なんだな?』


黒猫『ええ、ちょうどそこから連絡もとれてない』


カカシ『……そんな』


ドラキュラ『はあ……何死んでんだ、あいつ』


ミイラ男『困った方ですな』


カカシ『つまり殺されたってことですか?誰かに!

……よ、よくも団長を』


死神『コロシタヤツ……コロスカ』


魔女『……』


ドラキュラ『……』


黒猫『どうする?副団長』


狼男『……うん、みんないいかな?

今後の話なんだけど、まずは本当に団長が死んだのかちゃんと確認とろっか。僕、探してみるよ。

団長の死が真実だった場合は、それに関わった者を特定しよう』


死神『……』


狼男『そして然るべる処罰がいいよね。

相手が誰だろうが、必ず復讐する。それでどうかな?』


死神『……オーケー』


黒猫『まあそれでいいけど、本当に誰にやられたのかしら』


ゾンビ『詐欺師の親玉を殺すなんて、正義のヒーローじゃなーい?』


死神『ゼンメンセンソウ、ダナ』


狼男『あー、あとみんなには申し訳ないけど……

団長不在の今、この幽劇団は僕が取り仕切ってもいいよね?

あの、こんな時のための副団長だと思うんだけど。

どなたか不満はある?』


黒猫『……まあ、そうなるわね』


ミイラ男『……ふむ』


魔女『いや!大ありなんだけど!

私が入団した理由は団長であって、狼男あんたじゃない!

団長が立ち上げてくれた幽劇団を、あんたに預けるなんて嫌よ』


ドラキュラ『……やれやれ、言うと思ったぜ』


狼男『なるほど、とてもいい意見だね。

僕は仕事も遅いし、みんなから嫌われてるしね。

なら、魔女が団長代理ってのはどうかな?

僕はそれでも構わないよ』


魔女『え……で、でも』


ミイラ男『魔女、少しいいかい?』


魔女『何よ』


ミイラ男『入団が若い君は知らないだろうが、彼狼男の実力は団長とヒケをとらない。

私は、幽劇団とは団長と狼男の2枚看板だと考えているほどだ』


魔女『だから?』


ミイラ男『魔女、君もいい歳なのだろう?

君が団長にひたむきな好意を向けていたことは知っている。ショックだったろうな。

だがその不満を今、狼男に向けることは何かを解決する手段ではない』


魔女『……』


ミイラ男『いいじゃないか。とりあえず任せてみれば。まだ団長が死んだとも確定したわけではないのだから』


魔女『……』


ゾンビ『うんーゾンビ的にもさんせーかなー!

てかさー、ちょっと前にも抜けた子いたよね?名前もう忘れたけど!

そんで次は団長殉職とかさー

幽劇団はいつのまにブラック企業になっちゃったのー?きひひひ!』


黒猫『うるさいなぁ、あんたの笑い声響くのよ』


ドラキュラ『なあ、俺たちの絆って何だ?』


ゾンビ『何?謎かけ?』


ドラキュラ『誰かわかるか?』


死神『カネ』


ドラキュラ『その通りだ。幽劇団の財布を握っていたのは団長だ。俺らの分配金や組織としての軍資金。あいつがいなくなったら、組織を動かすための金もない。金がないのはまずいだろ』


黒猫『そうね』


ドラキュラ『金がいただけねえなら、俺はお前らとつるむ気はないからな』


ミイラ男『ごもっとも』


狼男『黒猫、あの件ってそろそろだよね?』


黒猫『あの件って?』


狼男『“月影家の遺産相続会”の日だよ』


魔女『……うん、そろそろだね』


狼男『なら、もう配役を決めよう。

“誰が”……』


黒猫『……』


魔女『……』


ゾンビ『きひ』


カカシ『……』


ドラキュラ『……ああ』


ミイラ男『……』


死神『……』


狼男『“誰に”化けるのかをね』

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