096.『回転』『紅乙女』『千のスキル』『腕輪の魔術師』そして『狙い撃つ』
『ぐるぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ヒドラのユニーク個体――八岐大蛇の内の頭の1つが僕に襲い掛かる。
普通であれば怖気づくような八岐大蛇だけど、今の僕にはなんてことのないモンスターの攻撃だ。
「神理界天・回転禍斬」
僕は普通の【回転】で八岐大蛇の攻撃を逸らし、無防備になった頭へ❝回転❞の威力が乗った斬撃を放つ。
ザシュッ
あっけなく八岐大蛇の首が切り落とされた。
僕の他にも八岐大蛇の頭はパトルやモコへの攻撃が行われていた。
「焼き喰らえ、『炎武大蛇』!」
魔剣・炎武帝のほのおを纏った大蛇剣・蟒蛇の蛇腹モードの剣が八岐大蛇の頭に絡みつき、そのまま焼き切り首を落とす。
「【アローショット】」
如意金剛・千変万化を弓矢に変化させた攻撃で八岐大蛇の両眼を貫き攻撃を逸らせせ、千変万化を戦斧に変化させて八岐大蛇の首に叩きつける。
「【首落とし】」
モコが首を落としたことで八岐大蛇の残りの頭は5つ。
だけど八岐大蛇の頭は再生する。
パトルの落とした首は焼き切っているので再生はしないけど、僕とモコが落とした首は再生の兆しが見えていた。
だけど――
「【ファイヤーボール】」
後方からアリエスの普通の【ファイヤーボール】より大きな【ファイヤーボール】によりその切り落とされた首が焼かれ、再生が阻止される。
「よし、残りの首も落としていこう」
「はっ、ユニーク個体だって聞いていたけど、大したことなさそうだな!」
「油断は禁物です、パトルさん。大きいと言うのはそれだけで脅威なのです」
「確かに敵八岐大蛇の暴れっぷりは些か危険だな」
3つの首が落とされた八岐大蛇は苦し悶えて、再生が効かないことで暴れまわっていた。
「っと、ちょっと周りに迷惑だね。それじゃあ――神理界天・回転縛離」
僕は❝回転❞で八岐大蛇の動きを封じる。
封じると言ってもあくまでその場からの動きを封じただけであって、動きそのものを封じた訳じゃない。
まぁ、動きそのものを封じる事も可能だけど、それじゃあパーティーで討伐しに来た意味は無いし、パトル達のためにもならないからね。
「相変わらずお前のその❝回転❞は意味が分からないな」
「あはは、そんな事よりさっさと八岐大蛇を倒すよ」
パトルが呆れ顔で僕を見るけど僕は敢えてそれをスルーする。
程なくして近くの村を騒がせていた八岐大蛇は討伐された。
「はい、それではS級モンスターの八岐大蛇の討伐を受理しました」
僕たちはザースディーンの町に戻り、依頼の完了の報告をタンジェさんにする。
「それにしても、あんな辺鄙な村に八岐大蛇ですか……。何やらきな臭さを感じるです」
「ギルドの調査で何か掴んでませんか?」
モコの言う通り、あの村近辺ではS級どころかA級B級のモンスターが出たと言う話は聞いた事が無い。
僕はギルドの方でも不審に思い調査をすると言っていたので、その事をタンジェさんに聞いてみた。
「ごめんなさいね、ヴォル君。まだ調査は始めたばかりで詳しい事は何もわかってないの。まぁ、ヴォル君たちが八岐大蛇を倒してくれたから、調査もしやすくなるからすぐわかると思うわ」
「そうですか。それじゃあ何かあったら教えてください」
「あ、待ってヴォル君」
僕たちは調査の結果を待つことにしてギルドから出ようとしたけどタンジェさんに止められる。
「実はヴォル君たち『躍る冒険者たち』にお呼び出しがかかっているのよ」
ほえ? 僕たちにお呼び出し?
言っては何だけど、今の僕たちはかなり有名で貴族と言えど気軽に呼び出しできる存在ではなくなっている。
それがお呼び出し?
だけどタンジェさんから僕たちを呼び出した人物の名前を聞いて納得する。
うん、あの人なら僕たちを気軽に呼び出しできるし、僕たちも蔑ろには出来ないよ。
僕たちは早速呼び出した人物の元へと訪れた。
「こうして会うのは5年ぶりくらいだな、ヴォル」
「はい、あの邪教事件以来ですね、ヴァリアブル王子様」
そう、僕たちを呼び出したのはヴェルザンディ竜王国の第2王子であり、シクスティーンの町の領主様のヴァリアブル王子様だ。
「あの時は後始末等お世話になりました」
僕たちは邪神を倒し、邪教の教祖ジュウザを退けてそれで事件は終わったけど、その後始末等はヴァリアブル王子様にしてもらったのだ。
事件の首謀者の1人であるキュウベエ・ナインスゲートの処分や元邪教村の取り扱い方、邪神復活のための祭壇の取り扱い方などなど、政治や世間に係わることは普通の冒険者には手に負えないわけで、そこら辺を全部お願いした訳だ。
「ヴォルが気に病むことはない。俺はあの時の事件の当事者でもあるし、為政者でもある俺がやらねばならない事だからな」
そう言ってもらえるとかなり気が楽になるよ。
「それはそうと……たった5年でヴォルもその仲間たちもかなり有名になったな。噂は聞こえているぞ、世界で2番目のS級パーティーとは。まぁ、ヴォルの強さは5年前で既にS級に到達していたから分かるが、その仲間までとはな」
「そりゃああたし達は優秀な冒険者だからな!」
パトルはヴァリアブル王子様の前でも、いつもの変わらない不遜な態度で胸を張る。
その姿に僕とアリエス、ヴァリアブル王子様は苦笑していた。
モコはやや呆れ気味で、パトルの態度に難を示していた。
S級パーティーとなったことで、王族貴族と会う機会が増えてそれなりの礼儀を身に着けるためにモコが頑張った訳だけど、結果はお察しの通りだ。
そう、僕たちはこの5年間で全員がS級冒険者となり、S級だけのパーティーである世界で2つ目のS級パーティーへと昇格したのだ。
僕ことヴォル・ヴォイド。二つ名は『回転』。
うん、まんまだね。
因みに【回転】スキルがLv999に到達しているのを知っているのはごく一部の人だけ。
流石に神の領域とも言われるLv999はおいそれとひけらかすことは出来ないらしい。
パトル・バトル・ハドル。二つ名は『紅乙女』。
真っ赤な髪と魔剣・炎武帝の炎を扱う事で付いた二つ名だ。
また、ハーフドワーフと言う小柄な身長で身の丈もある2本の大剣を扱う姿が戦乙女からも来ているらしい。
尤も本人は乙女の柄じゃないと否定するけど、まんざらでもない様子だったりする。
モコ・モコモコ。二つ名は『千のスキル』。
なんとモコは5年前の邪神相手にいつの間にか『百花繚乱』のスキルを物真似しており、ほぼ大抵のスキルを扱うことが出来るようになっていた。
そしてこの5年間の間にも沢山のスキルを物真似しており、今では扱えないスキルはないのではと言われるほどになっている。
因みに、モコもLv99を超えて超越者の仲間入りをしていたりする。
アリエス・アリエル。二つ名は『腕輪の魔術師』。
【極大魔力】のスキルを持っていたアリエスは魔法は使えなかったが、腕輪の魔道具を用いる事で初級ではあるが魔法を使う事が出来た。
当時はあまりにも強大な魔力の所為で魔道具による魔法のコントロールが出来なかったけど、今では様々な応用を効かせて僕たちパーティーに貢献している。
中でもアリエスの持ち味である【極大魔力】を用いた広範囲殲滅魔法攻撃はかなりお世話になっている。
「そんなヴォル達を呼び出した理由だけど……、ヴォル達に是非仲間に加えて欲しい者が居てな」
新しい仲間……?
ヴァリアブル王子様の言葉に僕だけじゃなくパトル達もあまりいい顔をしなかった。
「ああ、心配する必要はないよ。紹介する者もヴォル達と同じくS級冒険者だ。二つ名は『狙い撃つ』。遠距離攻撃のスペシャリストだ。今のヴォル達にはちょうどいいメンバーじゃないか?」
うーん、確かに僕たちのパーティーは遠距離攻撃は得意とは言えない。
一応、僕の【回転】でも遠距離攻撃は出来るけど、あくまで出来るだけであって正確性は乏しい。
モコも遠距離攻撃が出来るオールマイティーではあるものの、以前邪神に指摘した【百花繚乱】のデメリット――全てのスキルを使いこなせてはいない――と同じく、モコのスキルの使用頻度は近距離~中距離となっている。
アリエスは遠距離専門ではあるが、どちらかと言うと広範囲攻撃用と言う要素が強い。
「ふむ、二つ名『狙い撃つ』は最近S級になったと聞くな。詳しい情報は分からないがどのような人物なのだ?」
「実はもう呼んでいる。と言うか来ている。お前らもよく知る人物だ。おい、もう入っていいぞ」
へ? 来ている? と言うか僕たちも知っている?
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、本当に僕たちの知る人物だった。
中でも僕とパトルの驚きは僕たちよりも大きかった。
「S級冒険者のロクウェル・シクスセクスです。二つ名は『狙い撃つ』。改めまして、ヴォル様。私、諦めないと言いましたわよね?」
現れたのは、一時的だったは言え、僕の婚約者でもあったヴェルザンディ竜王国の伯爵令嬢の冒険者の格好をしたロクウェル様だった。




