094.神理界天
「神理界天・回転透剄」
僕の放つ不可視の❝回転❞が邪神を襲う。
「ぐぅ……!」
「あ」
そして邪神の左腕と左わき腹がえぐり取られる。
図らずとも僕が受けた傷をそのまま返した形になってしまった。
しまったなぁ。ちょっとミスった。
「妾がした攻撃の仕返しのつもりか? ふん、所詮は子供か。この程度の傷、直ぐにでも……、な・なぜだ。なぜ治らぬ!? さっきは直ぐに治ったのに、なぜ今度は治らぬ!?」
まぁ、さっきアリエスとマックスが不意を打って食い千切った右腕は直ぐに治ったのだろうけど、今回のこれは治らないんだよ。
急激にレベルが上がったせいか、ちょっとコントロールが効かなかったんだ。
「【治癒魔法】で治すと言う概念を❝回転❞させて防いでいるからその傷は治らないよ」
「……は?」
「えっと、今の僕の【回転】スキルは、物質に干渉して効果が表れる現象、確立により結果が定義される事象、言葉・意味・認知を示す概念、ありとあらゆるものを❝回転❞させることが可能になったんだよ」
「意味が分からないんですけどっ!?」
あ、邪神の口調が素になった。
うん、まぁその気持ちは良く分かるよ。
言ってて僕も意味が分からないから。
「まぁ要するに、邪神はもう何もできないって事。やっぱり体の再生は【治癒魔法】と……【増殖】のスキルの合わせ技で治していたって事かな」
【百花繚乱】では【再生魔法】は使えないはずだからね。
「く……」
痛いところを指摘されたためか、邪神は痛みだけではない苦々しい表情を見せる。
どうやらその予想は当たってたみたいだ。
とは言え、ヴァリアブル王子様の体を傷つけたままなのはマズいから治しておかないと。
僕は再び邪神に向かって❝回転❞を放つ。
「神理界天・回転循環」
ヴァリアブル王子様の体の生命力を❝回転❞させ、左腕と脇腹の再生を促す。
と同時にさっきミスった【治癒魔法】を阻害している❝回転❞を打ち消す。
「な、治った……。き、貴様は【治癒魔法】は使えなかったはず。一体どうなっている……? ……っ!? その気配、まさか……神の領域、Lv999……だと!?」
あ、どうやら気が付いたみたい。
まぁ、気が付いたところでどうにもならないんだけどね。
「ふ、ふははははっ! まさかここにも妾の素体となりえる依り代があろうとは! 寄越せ! その体を!」
そう言いながら手を翳し何かをしようとする邪神。
だけど何も起きない。
「っ!? なぜ何も起きない!?」
「言っておくけど、【魂魄】スキルは僕には効かないよ。さっきも言ったよね? 今の僕には現象、事象、概念と言ったありとあらゆるものを❝回転❞させることが出来るんだ。その❝回転❞を使えば邪神の【魂魄】スキルも防ぐことも出来るんだよ」
「意味が分からないんですけどっ!?」
本日2回目の「意味が分からないんですけど」が出ました。
【魂魄】スキルは邪神にとって切り札だったんだろうけど、残念だったね。
「まぁ要するに、もうあんたは僕に何もできないって事。大人しく裁きを受けた方が痛くないと思うよ?」
これから行う事はそれこそ魂魄に干渉することだからね。
肉体の痛みよりも魂への痛みがどれだけのものとなるのか。
「神理界天・回転分離」
今度は失敗しないよう、直接体に触れて❝回転❞を発動する。
間合いを一瞬で詰めて、右腕を邪神の――ヴァリアブル王子様の体に触れる。
次の瞬間、邪神の体とヴァリアブル王子様の体がブレて、スポンと抜ける様に邪神の体の方が弾き飛ばされた。
うん、今度は上手くいった。
ヴァリアブル王子様の体には、ヴァリアブル王子様の魂魄と邪神の魂魄の2つの魂が混在していた。
ちゃんと調整をしないと間違ってヴァリアブル王子様の魂魄も一緒に抜けちゃうからね。
邪神の魂魄は、ロングストレートの黒髪の美人だった。
憎らしい事におっぱいもかなりある。
D……ううん、Eといったところかな?
尤も魂魄だけの存在なので透明で透き通っていた邪神は直ぐに消えて見えなくなる。
このまま黙っていれば邪神は再び魂魄だけの存在だけとなり、巫女である依り代が現れるまで雲隠れしてしまうだろう。
そんなことはさせない。
「神理界天・回転封印」
邪神を❝回転❞の中に閉じ込める。
≪な……っ!? 魂だけの存在となった私を閉じ込めるですってっ!?≫
「僕の【回転】スキルは……」
≪意味の分からない事を言わないで!≫
ああ……最後まで言わせてもらえなかった。
まぁ、二番煎じどころか三番煎じだからね。
因みに、今の邪神の声を聴くことが出来るのは、封印をかけ続けている僕だけだ。
「これで終わりだよ。邪神――ううん、日輪陽菜の名を騙った名もなき転生者さん」
≪ま、待って! 待ってよ! 私、死にたくない! まだやりたいことが沢山あるのよ! 私が死んだらこの世界の喪失よ!? ね、ねえ! そうだ! 私と組まない!? 私には異世界の知識がある。貴方はその知識を使ってこの世界を思い通りにしたいと思わない!?≫
「……」
≪男の子なら誰でも思うわよね!? 全ての頂点に立てるのよ、私と組めば!≫
邪神は僕が黙っていると、それに手応えがあると感じたのか更に捲し立てる。
≪女の子だって好き放題できるの! 金銀財宝だって、永遠の命だって! 何もかも自分の思い通りに! さぁ! 私と手を組みましょう!≫
魂魄だけの存在になってから口調は偉そうなものから素のものへとなっていた邪神。
よっぽど死にたくないんだろう。
「言いたいことはそれだけ? それじゃあこれで終わりにするね」
≪………………え?≫
「神理界天・回転黒天」
邪神を閉じ込めていた❝回転❞は、一気に内側に向かって収縮する。
≪待って! い、いやぁぁぁぁっ――――――――――――――――――………≫
回転収縮を終えた後には何も残らない。
「さようなら」
こうして世界を脅かしていた邪神は消え去った。




