091.復活のヴォル
目が覚めると、目の前には涙でぐちゃぐちゃになったパトルの顔が映った。
「ヴォル……、良かった。生きてた。生きてたよぉ……。バカぁ……死んじゃったのかと思ったよ……」
そう言いながら、パトルは僕の体にしがみ付いてくる。
「ゴメン。心配かけたね」
僕は起き上がり、パトルの頭を落ち着くように優しくなでる。
「ううぅ……、本当に、本当に心配したんだから」
「ゴメンってば。モコも苦労を掛けたね」
「ええ、本当にですね。いくら【ものまね師】とは言え、今の私の腕じゃ完治は難しかったと思うです。場所が良かったんです」
Lv99となった【ものまね師】は、様々スキルを物真似することが出来る。
当然【僧侶】や【回復魔法】などのスキルも真似出来る為、僕の治療は可能だったわけだけど、だからと言って完治までもっていけるかと言えばそうでもない。
あくまで物真似なので本物には僅かながらに及ばないし、本職と比べるとスキルを使うための経験が圧倒的に足りないのだ。
それでも僕の傷が完治できたのは、この祭壇に集まる魔力のお陰だ。
「ですが、もう魔力が殆ど無いのでこれ以上の【ものまね師】は期待しないでくださいです」
「ああ、うん。大丈夫だよ。ここからは僕が何とかするから、モコは休んでいてよ。パトルもアリエスもね」
パトルは落ち着いたとは言えまだ戦える精神状態ではないし、アリエスも僕のわずかな変化に気が付いたのか、大人しく下がってくれた。
「ヴォル、ダメだよ。また、怪我しちゃうよ。今度は本当に死ぬかもしれないんだよ。だからエーデリカたちに任せようよ」
ところが、パトルから待ったがかかった。
どうやら心配をかけ過ぎたみたい。
話し方もいつもの男勝りの喋り方じゃなく、か弱い女の子の様だ。
……うん、可愛い。
はっ!? 今はそんなことを考えている場合じゃないや。
「大丈夫。何の心配も要らないよ。今の僕には邪神なんか目じゃないよ。なにせ女神Alice様の加護が付いているからね」
しがみ付ていでも引きとどめようとするパトルを何とか落ち着かせて放してもらい、僕はゆっくりと邪神と戦っているエーデ師匠たちの元へと向かう。
左わき腹をえぐり取ったことで、革の胸当てや服がボロボロだ。
左腕の篭手なんかは完全に全損していて防具の役割を果たしていない。
胸当てや篭手はかえって邪魔なので外していく。
傍目から見れば、防具無しの無防備な姿で邪神に挑む頭の可笑しな人だろう。
だけど今の僕には防具なんかは意味をなさない。
「ヴォル、助かったのねぇ。良かったわぁ」
「よぉ、坊主。何とか無事だったみたいだな。早速病み上がりで悪いが、今は少しでも戦力が欲しい。手を貸してくれ」
「ですね。私たちだけで抑えるのが精一杯とは情けない限りです。他の人たちも呼んでもらえるのなら有難いですね」
エーデ師匠たちは攻撃の手を止め、一旦下がって僕の復活を喜ぶ。
それは僕が生きていたことからなのか、それとも戦力が増える事からなのか。
……ここは素直に生きていたことに喜んでいた事だと思おう。
それにしても、エーデ師匠たちだけで抑えるのが精一杯だとは。
本当ならそれ以上の事が可能なんだけどなぁ。
「ほぅ、あの攻撃で死ななかったか。悪運の強い小僧だな。だが死ぬまでの時間が僅かに伸びただけにすぎぬ。また直ぐに殺してやろうぞ」
……うん、殺されかけるまでは正体が良く分からずに恐ろしく思えた邪神だったけど、今は何とも思わない。
僕が変わったこともあるんだろうけど、何より邪神の正体が知れたことが体を軽くしている。
多分、エーデ師匠たちもその正体が分からないからこそ攻めあぐねている、全力を出し切れずにいるんだろう。
「エーデ師匠、ここは僕に任せてもらえませんか?」
「……ええぇ? もしかしてぇ、ヴォル1人でやるつもりぃ?」
「はい」
「おい、無茶を言うな。相手は邪神なんだぞ」
「いえ、あれは邪神なんかじゃないよ、ジョーカーおじさん。あれは只の異世界転生者。それも他人の名を騙る不老不死を目論む小悪党だよ」
「……はぁっ!? 邪神が、異世界転生者、だと!?」
ジョーカーおじさんは僕の言葉に驚きを隠せずに邪神を凝視する。
「面白い事を言うな、小僧。妾が何だと? 妾をそこいらの木っ端と一緒にするではない」
「あんたは只の転生者。只のスキル持ちの転生者だよ。それさえ分かればあんたは何も怖くはない」
邪神が僕を睨みつけるが、そんなに睨んだって怖くは無いよ。
「待ってください。それなら様々な魔法や武術が使えるのがおかしいのではないのですか?」
『風雷姫』が邪神が只の転生者にしてはおかしい不自然さを指摘するも、僕はその理由を説明する。
「使っているのが【百花繚乱】というチートスキルだからね。まぁでも、チートスキルが使えたから必ずしも勝てないわけじゃないよ」
「ちょっと待て! 【百花繚乱】だと!? ジルベールの石ころが使う、全てのスキルが使えるチートスキルじゃないか!」
あ、ジョーカーおじさんは【百花繚乱】のスキルを知っているんだ。
って、えー!? ジル師匠が【百花繚乱】のスキル持ち!?
はー、道理でジル師匠は凄いわけだ。
「大丈夫だよ、邪神はただ【百花繚乱】のスキルを持っているだけだからね。それに、何も無策で邪神に挑むわけじゃないよ」
「……そうぉ。ならぁ、ここはヴォルに任せましょうぉ」
僕の真剣な眼差しを受けて、エーデ師匠は大人しく引き下がってくれた。
「おい! 坊主を見殺しにするつもりかよ!」
「大丈夫よぉ。この子は何の根拠もなく、そんなことは言わないのぉ。本当に邪神を何とかする策があるのよぉ」
「いえ、策があっても、1人で邪神に対峙するのはあまりにも危険では……?」
「それも大丈夫よぉ。分からないかしらぁ? 今のあの子、途轍もなく強いわよぉ」
「……おい、どういう事だ、これは?」
「……本当です。さっきまで死にかけていたのに、何故……」
ジョーカーおじさんと『風雷姫』がエーデ師匠に食ってかかるけど、エーデ師匠は2人を諭して大人しく引き下がらせてくれた。
「さぁ、ヴォル。何があったか知らないけどぉ、思う存分やっちゃってぇ」
「はい」
僕1人で邪神の前に立つ。無手のままで。
そう言えば、剣は致命傷の一撃を喰らった時に落としたままだったな。
そんな僕を、邪神は虫けらを見るような目で眺めていた。
「ふん、妾も舐められたものよ。妾は不死神ぞ。この世の全ては妾の物なのだ! 人の命も! 魂さえも! 妾に捧げられる供物なのだ! 小僧如きに妾を止められるとでも? 笑止! 小僧、貴様の魂を喰ろうてやろうぞ!」
「悪いけど、それはもう無理だね。お前の攻撃は、もう二度と通じない」
邪神が僕を攻撃しようと邪神らしく(おそらく転生者という印象を覆すためと思われる)【闇魔法】の【ダークネスフレイム】を放つも、闇の炎は僕を包み込む前に目前で歪んで消える。
「……なっ!?」
「言ったでしょ? 僕にはもうお前の攻撃は効かないって」
「まぐれで防いだくらいでいい気になるな!」
その後邪神は何度も【闇魔法】や【雷魔法】、【剣術】スキルや【拳術】スキルなど様々な魔法や武術を放つものの、僕には攻撃が届かず全てが無効化された。
「ば、バカな、何故……」
「それはね、僕の【回転】スキルがLv999からだよ」




