090.パトルの想い
「不死神Sunringに【魂魄】スキルが与えられたのが問題でして」
「名前からしてヤバそうなスキルですね」
「ええ、文字通り魂魄を操ることの出来るスキルです。彼女はこのスキルを使い、不老不死になろうとしています」
ええっと、その為に他の人の魂魄を集めようとしているんだっけ。
「ただ、そう簡単に魂魄を操ることは出来ません。精々今の彼女に出来るのは、己の意向を示すための相手の魂魄に畏怖を与えて動きを鈍らせることと、相手の命を奪い、魂魄を収集することですね」
「いや、それでも十分な脅威ですよ」
体ではなく、魂魄に直接影響を及ぼすことから防ぐことは難しいと思われる。
うーん……、だからかな。
さっきの戦闘でも、エーデ師匠たちが相手でも十分に邪神が十分に立ち回りが出来ていたのは。
【百花繚乱】のスキルがあるのもだろうけど、【魂魄】スキルでエーデ師匠たちの動きを制限していたのかも。
まぁ、邪神にとってはこれはおまけのような効果だろうけど。
本命は、不老不死になるために魂魄を奪う事。
その為に邪教を布教して戦争を仕掛けるの為には、邪神として君臨するの方が都合がいいわけだ。
うん、そんな自分勝手な理由で大勢の命を奪われるなんて許せない事だ。
「女神Alice様、邪神を倒すための方法を教えてください」
「何故ですか?」
「そんなの決まってます。大勢の人の命を、いえ、突き詰めて言えば僕の仲間たちや知り合いを助ける為です。そんな神を偽る不届き者に仲間や知り合いの命を弄ばれたくないからです」
「大切な人たちを守るため、それは当然の思いですね。ですが不死神Sunringを倒す方法を手に入れたとして、倒す事が出来ますか? 一度は敗れてこの場に居る貴方に」
そう言われるとぐうの音も出ないよ。
確かに現に僕は今邪神の攻撃を受けて死にかけている。
それなのに邪神を倒す方法を教えてくれとは都合が良すぎる、か。
確実に倒す方法があるのなら、僕ではなくエーデ師匠やジル師匠とかがいいんだろう。
そう僕が悩んでいると、女神Alice様はくすくすと笑いだす。
「ごめんなさい。ちょっと意地悪が過ぎましたね。大丈夫ですよ、ちゃんと不死神Sunringを倒す方法を教えますよ。」
「へ? 教えてくれるんですか?」
「ええ。というか、これはヴォルさんにしか出来ない事ですから」
「僕にしか……?」
「戦って勝つことならヴォルさんだけでなく、今闘っているエーデリカさんたちでも可能ですが、その後の彼女の魂魄の封印消去にはヴォルさんの力が必要です」
僕の力が……って、え? エーデ師匠たちでも戦って勝つことが出来るの?
今現に苦労して善戦しているんだけど。
女神Alice様はそんなことは心配無用だとばかりに、その理由を教えてくれる。
「【百花繚乱】スキル――大抵のスキルを使える事に惑わされていますね。ですがよく考えてごらんなさい。沢山のスキルを使えると言う事は―――――――」
「いいですか。この作戦の要はヴォルさんにあります。失敗はヴォルさんの世界が滅ぼされることに繋がります。十分に注意をして対処してください」
「はい! 大丈夫ですよ。女神Alice様からも十分なアドバイスを貰いましたから」
「そうですね。今のヴォルさんなら失敗すると言う事は無いでしょう」
うん、女神Alice様から邪神の真実、そしてその対処法、最後に僕の力で邪神を封印消去する神託を与えられた。
滾るね。これで滾らなければ冒険者じゃないよ。
「それでは、そろそろヴォルさんをI-Serverに送り返しますね」
「あ、はい。よろしくお願いします。というか、僕の体大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、治癒術者、大量の魔力と上手い具合に状況が揃ってましたから、ヴォルさんの体は関知していますよ。ただ、魂魄が今ここに在るため、目覚めには至ってませんが。その為、恋人さんには心配をかけているみたいですけど」
「そっか、体は無事なんだ。良かった。ああ、でも恋人に心配をかけているんですか。それはちょっとマズいですね……って、ええええええええええっっ!? こ、恋人!? そんなの居ませんよ!?」
ちょ!? 女神Alice様!? いきなり何を言っているんですか!?
「あれ? 彼女がそうなのではないのですか? ヴォルさんの事をこれでもかというほど心配していますよ?」
そう言いながら女神Alice様はウインドウを開き、今の僕の状況を映し出す。
『ねぇ、ヴォル、ヴォル、目を覚ましてよぉ。死んじゃやだよぉ。こんなところで死ぬなんてヴォルらしくないじゃない。あたし達、これからもっと活躍して有名な冒険者になるんでしょ……。あたしを残して死なないでよ。死なないでよぉ。死なないでよぉ。うあぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』
…………………………………………………驚いた。
いつも大胆不敵で自信満々のパトルが、泣いている。
僕の胸に顔を埋め、か弱い乙女の様に泣いている。
僕の死を悲しんで(まだ死んでないけど)。
『汝パトルよ。仲間モコの治療に邪魔になる。下がっていた方が』
『いやぁ、いやぁ、このままじゃヴォルが死んじゃう。死んじゃうのぉ……。傍に居るの。傍に居ないと死んじゃうのぉ……』
『パトルさん、大丈夫です。私が、必ずヴォルさんを助けて見せますから。だから心配しないでください』
『やだぁ。ヴォル、ヴォル、ヴォルぅぅ……』
僕は呆然とその様子を見ていた。
「随分と慕われていますね。ここまでされると男冥利に尽きませんか?」
女神Alice様が茶化すけど、流石にここまで見せられれば、パトルの気持ちには気が付く。
……そう言えば、思い当たることがいくつもある。
その事を思い出して、僕は顔を真っ赤にさせる。
いつからだ?
いつからパトルは僕を好きでいてくれたんだ?
今の気持ちを言えば、正直すっごく嬉しい。
だけど、今パトルは悲しんでいる。
悲しませているのは誰だ?
心配させているのは誰だ?
そう思ったら、気持ちが抑えきれなくなった。
「女神Alice様! 今すぐ僕を元の世界に戻してください!」
「ふふふ、了解しました。直ぐにヴォルさんを元の世界に戻しますね」
女神Alice様はウインドウを操作して、僕を元の世界に戻る手続きをする。
その操作が完了したのか、僕の体が次第に透明になる。
「それでは、世界を頼みましたよ、ヴォルさん」
「はい!」
そうして僕は女神Alice様との邂逅を終えて、邪神と戦っているみんなの元へと戻っていった。




